第3章 未来を創る幻想の覇者
帰還
第85話
目が覚めると、すぐ隣には愛しい娘の姿が。そのもう一つ向こうには、最愛のパートナーが眠っている。おまけに枕元では、珍しく白い狼が丸くなっていて、織は堪らず顔を綻ばせた。
愛美と二人も悪くはなかったけど、やはり家族みんな揃ってる方がいい。
二人と一匹を起こさないようにそろりと布団から出る。残念ながらアーサーは目を覚ましてしまったようだけど、織を一瞥しただけでまた瞼を閉じた。
相変わらずの素っ気ない態度。けれどその態度が、日常に帰ってきた実感を織に与える。
「そういや食材あんのかな……」
冷蔵庫の中を開けてみれば、それなりの食材が買い置きされていた。サーニャが朱音の面倒を見てくれていたみたいだが、案外家庭的な一面があるようで。いや、黒霧兄妹の面倒も見ていたと言うし、家事は一通りこなせて当然なのか。
取り敢えず食材の在庫も確認できたので、まずは顔を洗うことに。洗面所で顔をバシャバシャと洗い、ふと鏡を見てみると。
「は?」
間抜けな声が漏れた。
おまけに開いた口も塞がらず、鏡の向こうでは間抜けな顔を晒している。
その瞳が、なぜか。
オレンジに変色していた。
◆
「軽く暴走状態ですね」
「はあ」
「オンオフの切り替えができないので、ひょんなことで発動しちゃいますよ、それ。あんな風に」
朝から事務所に呼び出された黒霧葵は、ぶっきらぼうにそう言って視線を織の背後へやった。
釣られて織もそちらを見れば、随分と愉快な光景が広がっている。
「ちょっとむず痒いわね、これ」
「でも可愛いからいいじゃん! 母さんよく似合ってるよ!」
「そう? ありがと。朱音も可愛いわよ。さすが私の娘ね」
じゃれ合う猫耳娘が二人。
誰あろう、桐原愛美と桐生朱音である。
ついでに耳だけじゃなくて尻尾もついてて、完全に猫娘だ。二人とも可愛いのはたしかなのだが、原因が原因なので素直に愛でてもいられない。
朝食を食べ終えた時のことだ。朱音と料理ができるようになったという話をしていて、具体的にどれくらいできるようになったのかを聞いていた時。
包丁使う時は猫の手だよね! とか朱音が言い出したのが悪かった。愛美と朱音の猫耳姿をつい想像してしまい、あまつさえ見てみたいなーとか思ってしまったら、ほらこの通り。
見てみたいとは思ったけど、実際に猫耳つけさそうとは思ってなかったのに。
いやしかし、それはそれとして可愛いな。可愛い。前から猫耳似合うと思ってたんだよな、この二人には。
「……」
「待て葵、なんで今距離取った? 怒らないから先輩に教えてみ?」
「邪な感情を検知したからですよ。私まであんなのつけたくないです」
ジト目で物理的にも精神的にも距離を取られ、織は若干泣きそうになった。
しかし、嫌と言われたらやりたくなるのが思春期男子。好きな子にイタズラしたいとかと似たような心理だ。つーか葵が猫耳つけたら多方面が喜びそうだし。
そう思い、色の戻らない瞳の力を解放する。
が、しかし。
「あれ」
「ほらやっぱり。残念ながらこっちも異能で防壁展開済みですよ。私、あんなあざといのはゴメンなんで。つけて喜ぶなんて小学生みたいじゃないですか」
「あざとい……」
「小学生……」
葵のツンとした言葉に、猫耳二人がダメージを受けていた。それを見て愉悦の表情を浮かべるツインテールの後輩。
こいつ、妹の悪いところをしっかり受け継いでやがる……。
「まあ可愛いとは思いますけどね。自分はつけたくないって話です。朱音ちゃんに猫耳は私も妄想したことありますから」
「葵さん?」
朱音が若干戦慄の表情で葵を見ていた。いや、仕方ないと思うぞ。だって絶対似合うって確信があったし、実際似合ってるし。可愛いし。誰だって朱音に猫耳は妄想する。
「ともあれ、助かった。視てくれてありがとな」
「いえいえ、原因とかは私でも全く分かりませんし、あまり力になれたわけじゃないですよ」
そもそも、織が登校前の朝早くから後輩を呼び出したのは、葵に織の現在の情報を視てもらうためである。
情報操作。
その副作用である、情報の可視化。幻想魔眼に関することはあまり映されないらしいが、暴走しているということだけでも分かれば十分だ。
だが暴走とは。まさか、本当になんでもかんでも対象にして発動してしまうのだろうか。
「例えば織さんが、明日世界滅びないかなーとか思うじゃないですか」
「例えが物騒だな」
「滅びますよ」
「えぇ……」
理屈は分かる。
不可能を可能にする幻想魔眼。それが織の意志とは無関係、無差別に発動するとなれば、そういう危険性だって当然あるのだろう。
なんの前兆もなく、明日世界が滅びるなんて有り得ない。そんな真似は不可能。だからこそ滅びてしまう。有り得てしまうのだ。
愛美と朱音の頭に、簡単に猫耳が生えてしまったこともある。こんなのまだ可愛い方だ。世界が滅びるとまでは行かずとも、なんぞ面倒なことになりかねないか。
「取り敢えず、今日は一日事務所で大人しくしててください。本部の監査委員の人もまだ帰ってないんですから」
「え、久しぶりに帰ってきたんだから、色々と報告がてら学院には顔出しときたいんだけど」
「ダメですっ! 自分の今の立場分かってます⁉︎」
「いや、やましいことはなんもないんだから、変にコソコソするのもおかしくないか? 日本にいるならどうせ、昨日の戦闘は気付かれてるだろうし。あの魔力はなんなんだ、って話になるだろ。俺と愛美のこと、隠せるか?」
「私がやったって言えば、なんとか……」
そういえば、葵も位相の魔力を使えるようになっているのだったか。その辺りも詳しく聞きたいが後にしよう。
なんか面倒だな。適当な感じで納得してくれたらいいんだけど。
「……っ、織さん、今また魔眼発動しましたよ」
「え、マジ?」
「それ、防ぐの疲れるんですから気をつけてくださいよ」
そもそも、幻想魔眼を防げるまでに成長した葵の情報操作はなんなんだ、という話にもなるが。
これも葵が位相を使えるようになった恩恵か。恐らくだが、そのうちレコードレスも使えるようになるかもしれない。
「つまりそれって、葵が織についてたら万事解決なんじゃない?」
朱音とじゃれ合っていた愛美が、猫耳をピコピコ動かしながらそう言った。可愛い。ついで尻尾もふりふり揺れてる。あれって感覚あるのかな。
「そもそも、なんで学院に行くことが前提なんですか」
「だから、報告したいことが色々あるからだって。魔眼のことも、先生に聞けばなんか分かるかもだろ?」
「私が代わりに報告しときますから。情報は全部視てますし」
「むしろなんでそんなに行かせたくないんですか? 父さんの言う通り、コソコソするのもおかしいと思うのですが」
なぜか葵はやけに頑なだ。ここまで来たら折れてくれてもいいものを。なにか事情があると思われるが、しばらく学院を離れていた織に心当たりがあるわけもなく。
「別に、そんなことないよ。朱音ちゃんだって久しぶりに二人と会えたんだから、二人とゆっくり過ごしたいでしょ? 別に今日くらいは休んでもいいんだよ?」
やはり、なにかある。
朱音にまでそんなことを言ってしまえば、白状しているようなものだ。
やがてポン、と手を打った朱音が、納得したように頷いた。
「なるほどなるほど。たしかに、こんなに大所帯になっちゃったら、師匠との時間が減っちゃいますもんね。ただでさえカゲロウが邪魔なのに」
「いやべつにそういうんじゃないけど⁉︎」
どうやら正解らしい。嘘が下手すぎる。
朱音の言う師匠とは、葵の同級生である糸井蓮のことだろう。織と愛美も一度だけ会ったことがあるし、昨日の宴会時に改めて挨拶しに来ていた。
なるほどなるほど。葵と蓮はそういう関係なのか。なるほど。
「あ、一応言っとくけど、葵さんと師匠はまだ友達同士らしいよ、父さん」
「まだってことは、そのうちってことだろ? 良かったな葵。身近にいい反面教師がいるんだ、そいつの二の舞にはなるなよ」
「ちょっと織? 誰のことを言ってるのかしら?」
「別に誰とは言ってねえよ」
「もしかして愛美さん、心当たりあるんですか? それが誰なのか」
「……知らない」
反撃の好機と見たのか、ニヤニヤ顔で問う葵。愛美は拗ねたようにそっぽを向いてしまった。自覚があるようで結構。
「なんにせよ、さっさと素直になっちまえよ」
「だ、からっ……魔眼使わないでください!」
「あ、悪い」
葵が魔眼の効果を防ぐたび、苦しげに表情を歪めているのを見ると、さすがに申し訳なく思えてくる。
それはそうと、今ので発動したってことは、葵が素直になるのは不可能ってことなんだけど、本人は気づいてるのか?
◆
「つーわけで、なんか目が戻んないんですよね」
「地味に大事じゃないですか!」
結局無理矢理学院にやって来た織と愛美は、取り敢えず向かった学院長室で魔眼のことを報告した。後ろには疲れた様子の葵が。
申し訳ないなぁとは思うが、今日だけでも我慢してほしい。一応、魔眼の暴走に関しては手がないこともないから。
そして織の報告に驚いた声をあげたのは、学院長補佐兼図書室司書兼人類最強のパートナー、彼方有澄。
「落ち着いて有澄、全然地味じゃないよ。ふつうにやばい」
「逆に先生は落ち着きすぎじゃないかしら」
「ビックリしてはいるけどね。でも葵がいれば防げるんだろう?」
「え、私に丸投げ? いやまあそうですけど」
「丁度いいじゃないか。風紀委員には彼女の案内役を任せてるしね」
蒼が視線を投げた先。扉の近くで借りて来た猫のようになっているのは、魔術学院本部の監査委員、アンナ・キャンベルだ。
パッと見はクールで知的なできる女って感じなのだが、今のアンナは庇護欲すら起こさせるほどに小動物感満載である。
クール美人のこういうギャップ萌えっていいよな、となんとなく思う織。ギャップ萌えに関しては愛美の右に出る者がいないと思ってるけど。
コホン、と咳払いが一つ。
メガネをスチャッと直したパンツスーツのギャップ萌え女は、第一印象に違わぬ冷静な声で切り出した。
「初めまして、桐生織さん。桐原愛美さん。魔術学院本部、監査委員のアンナ・キャンベルです。ご存知かと思いますが、お二人には首席議会の一人であるセルゲイ・プロトニコフ氏を殺害した容疑がかかっています。本部までご同行願えますか?」
「断ったらどうするのかしら」
「本来であれば実力行使、強制連行となりますが、できればそうしたくはありませんね。私はどこにでもいるふつうの魔術師。まだ死にたくはありませんから」
監査委員として送り込まれて来た以上、卑下するような実力ではないはずだ。少なくとも、単純な技量なら織や葵よりも上ではなかろうか。
ただ織も葵も、それを補って余りある力を持っているだけで。
例えば、アンナが賢者の石を手にしたとしたら、その膨大な魔力を織以上に上手く扱えるはず。
それくらいの腕はあるだろう。
「ならどうする。諦めて帰ってくれるか?」
「いえ、当初の予定通り、しばらくこちらに滞在させてもらい、この目で見極めようと思います。あなた達ふたりが、本当に罪を犯したのか」
まあ妥当なところだろう。こうなれば、織と愛美はいつも通りすごせばいいだけだ。
けれど問題も一つ。アンナの滞在が伸びるのは構わないが、その間風紀委員がずっと付いているというわけにもいかない。葵たちにだって授業はあるし、依頼をこなさないとお金も稼げない。
おまけに今は幻想魔眼のこともある。
申し訳ないが、アンナに割いてやる時間はそこまでないのだ。
一先ずこの場は解散ということで、織たちは風紀委員会室へ向かうことにした。因みに現在、ふつうに授業中である。蓮もカゲロウも教室だ。朱音も午後からの講義の準備があるとかでこの場にいないし、アンナはあのまま学院長室に残った。
つまり今は、あの学院祭の日より以前から風紀に所属していた、旧メンバーとも呼べる三人のみ。
風紀委員会室の前に辿り着き、その隣にある、今は誰も開かなくなった扉を見やる。
本当なら、この場にもう一人。特別顧問なんて訳のわからない役職についたやつがいたはずなのに。
織の瞳が、オレンジに輝いた。
同時、傍の葵が弾かれたように、黒い翼を展開させる。
「……っ、悪い葵」
「今のはギリギリでしたけど……なに考えてたんですか……」
苦しげな表情とともに問われ、織の中で罪悪感が募る。
あいつが生きていてくれたら。
なんて、そんなことは二人も思っているはずだ。けれど現実にそうはならず、彼女がいなくなった世界で戦うのだと決めたのに。
「どうせ、桃のことでも考えてたんでしょ」
「まあ、な……」
「生きてくれてたら、なんて思うことは悪いことじゃないけど、生き返らせたいなんてのはあの子に対する冒涜よ」
「分かってる」
それでも、暴走した魔眼は織の意志とは無関係に、その願望を叶えようとする。
葵がいてくれてよかったと、心底から思った。もしも暴走したまま織本人にも他の誰にも止められなかったら、今頃なにが起こっているか分かったもんじゃない。
今のところ実害としては、愛美と朱音の猫耳だけだ。それもまだ可愛らしいもので、葵が警告した通りになってもおかしくはない。
ふとした拍子に、世界の崩壊を願ってしまえば。考えるだけでも恐ろしい。
「どうでもいいですけど、猫耳生やしたままだとイマイチ緊張感ないですね」
「葵うるさい」
余計な一言ではあるが、お陰で変な雰囲気は霧散した。せっかく学院に帰ってきた初日なのだ。湿っぽいものは無しで行こうじゃないか。
愛美が扉を開き、六月の学院祭の日ぶりに風紀委員会室へと足を踏み入れた。
七月に目を覚ました時は足を運ぶ余裕もなかったし、今は十月だから実に四ヶ月ぶりだ。
そう考えれば、まだあれから四ヶ月しか経っていないのかと、時間の流れの速さに少し驚く。
四ヶ月じゃ内装に変化なんてなく、あの頃と同じ空間が広がっている。違うところと言えば、紅茶を淹れるカップが三つ増えていることか。
蓮とカゲロウ、朱音の分だろう。織と愛美のカップは、綺麗に保管されていた。
「あら、私ってまだ委員長だったの? てっきり葵に代わったのかと思ってたんだけど」
「そんなわけないじゃないですか。私にとって風紀委員長は、愛美さんだけですよ」
委員長の席に置かれたネームプレート。そこにはまだ、愛美の名前が刻まれている。
「嬉しいことを言ってくれるわね」
「だって愛美さんは、私の憧れですから。当然です」
えっへんと胸を張る葵と、本当に嬉しいのか尻尾がふりふり揺れている愛美。この尻尾便利だな。感情が分かりやすい。
そんな憧れの先輩たる委員長様が、その席に腰を下ろそうとした時。不意に、あ、と葵が声を漏らした。
「どうした?」
「あー、その、非常にいいにくいんですけど……お仕事の時間です……」
苦笑しながら言われ、織と愛美は顔を見合わせる。そしてどちらからともなく破顔した。
まあ、この方が日本支部らしいか。帰ってきたって感じするし。
「てか、今って授業中じゃね?」
「関係ないでしょ。さっさと行くわよ」
やたらとやる気満々の愛美を見て、織は心の中で合掌した。よく見ると葵は実際に合掌してた。
誰かは知らないが、殺人姫が帰ってきたタイミングに騒ぎを起こすとは。命知らずもいるもんだな。
◆
騒ぎの現場は校庭。授業の合間の休み時間に乱闘が始まったらしい。魔術が飛び交い、地面は抉れ、多くの生徒が倒れている。
二年と三年が入り乱れ、敵も味方もない、まさしく大乱闘。合計で三十人ほどはいそうだ。
その中心に立っているのは、二人の男子だ。
蛇腹剣で襲いかかってくる生徒を返り討ちにし、聖剣の斬撃を容赦なく浴びせる糸井蓮。
白い翼を伸ばし、白銀の大剣をぶんぶん振り回すカゲロウ。
現場に駆けつけた葵は、思わず頭を抑えてしまっていた。
「あの二人はまた……」
「また? ってことは、前にもあったのか? あいつらも風紀委員なのに?」
「教育的指導が必要ね」
まだ二人のことを詳しく知らない織は、少々意外に感じた。失礼ながらカゲロウはそれなりに納得してしまうが、蓮はルールを破ってまで暴れるような性格に思えない。
どちらかと言えば、冷静にその場を俯瞰できるタイプだと思うのだが。
「あの二人、友達とか仲間のこと馬鹿にされると周りが見えなくなるんですよ。どうせ今回もそんなとこだと思いますよ」
「いい子たちじゃない。まあ、だからってルールを破っていい理由にはならないけど」
なぜだか随分機嫌の良さそうな愛美が、懐から短剣を抜いた。概念強化を身に纏い、鮮烈な笑顔を見せる。
その魔力に気づいた一人が愛美を視認して、ギョッとしていた。
「や、やばい……やばいやばいやばい! 全員逃げろ! 殺人姫だ!!」
「は? ……はぁ⁉︎ なんで桐原がいるんだよ!」
「え、桐原さん帰ってきてるの⁉︎」
「なんか猫耳つけてない?」
「そんなのどうでもいいだろ! 風紀委員揃い踏みじゃねえか!」
「やってられるか俺は逃げるぞ!」
「逃すわけないでしょ」
一歩。
踏み出した時には、手遅れだった。
渦中にその身一つで飛び込んだ愛美は、逃げる隙など微塵も与えずに短剣を振るう。
一人、また一人と数は減っていく。逃げるのをやめた連中も応戦するが、呆気なく無力化されてしまう。
「私たち、別にいらなそうですね」
「だな。つーか俺、今はどうなるかわかんないから戦いたくないし」
バカどもを問答無用で制圧する愛美を見ていると、なんだか帰ってきたなぁって感じがする。
しかし、なにがどうなって二年と三年入り乱れての大乱闘が起こってしまったのか。葵の言葉を聞く限り、蓮とカゲロウが原因っぽいが。
その二人はどこかと視線を巡らせてみれば、蓮がカゲロウを糸で制止して、必死に逃げようと説得していた。
「なんで止めんだよ蓮!」
「桐原先輩はマズイんだって! 早く逃げないと俺たちもやられる!」
「やってみないとわかんねぇだろうが!」
「やってみなくても分かるから止めてるんだ! ここは逃げて葵からの説教で我慢してくれ!」
「つーかオレら悪くねえだろ! チビのことバカにしやがったのはあいつらだぞ⁉︎」
「その通りだし、別に手を出したことを後悔してるわけじゃないけど!」
「だったらいいだろ!」
「あ、ちょっ……」
蓮の糸を振り切り、カゲロウは近場の生徒へ大剣を振りかぶる。
しかし対峙した生徒が突然泡を吹いて倒れ、攻撃の手を止めた。訝しみながら剣を下ろせば、倒れた生徒の後ろから、殺人姫が姿を見せる。
「……っ⁉︎⁉︎」
なにが起きたのか分からなかったのだろう。困惑の表情を浮かべたまま倒れたカゲロウは、全身がボロボロになっている。
織も目で追うのがやっとだった。いつもは魔眼の力で無理矢理愛美の動きに追従していたが、こうして外から見れば、彼女の動きのヤバさが伺える。
倒れたカゲロウには一瞥もしない。続いて、蛇腹剣を鞘に収め、聖剣を両手で構えている蓮へと襲いかかる愛美。
「あら、いいもの持ってるじゃない」
「え──」
手首を逆手に持った短剣の柄で横殴りにされ、聖剣が弾かれる。容赦なく蹴り飛ばした時には、愛美の腕に黄金の輝きを帯びたままの聖剣が。
無造作にそれを振るえば、光の斬撃が残されていた全員を呑み込んだ。
「ざっとこんなもんかしらね。葵、治療してやってくれる?」
「はーい」
風紀委員長である殺人姫、桐原愛美。堂々の帰還。
その話が学院内を駆け巡るのに、時間は必要としなかった。
あと猫耳の話も、すぐに広まってしまった。
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