第8章 (3)過去 〜大嶽丸〜
遠い昔、
巫女になるために恋する男と離れ離れになり泣崩れる少女。一晩中泣き続けても枯れる涙がない程に想いを寄せた男との縁を引き裂かれた少女は、都からの道中で狂喜乱舞する。
自害しようとするも強制的に身動きを封じられ、死を選ぶことすら自らの意志で果たせない少女は不条理な世と無力な自身の境遇に
そんな少女が強制的に鈴◯峠の禊の地に連れて来られた時に苔生した山道でひとりの男に目を奪われる。
その颯爽とした佇まいは、少女が想いを寄せた端正な顔立ちをした美男子と瓜ふたつであり、項垂れ虚ろな目をしていた少女の表情は瞬く間に甦り、恋心を取り戻して変貌した。
神々への奉仕よりも個人的な欲に駆られ、その想いが叶わぬのならば他を怨む女の悪想念に付け入り、獲物を食らうために美男子に憑依した鬼・・・
少女は身も心も鬼の憑依した美男子に奪われ、男と一緒に山に籠り翌年には赤児を身籠った。
生まれながらにして鬼の気を身に纏った赤児は、
日増しに多数の子分を従えて峠を往来する民を襲い、物資を奪い人の欲につけ込んで鬼の勢力を高めてゆく。
峠は何時しか欲に塗れた人の放つ穢れが集積することにより未成仏な霊たちの溜り場と化す。霊力を増した鬼は軈て強大な魔物となり、更に妖気を増幅させながら巨大化していった。
巨大化した鬼とその子分たちは更に力を広範囲に及ぼし、近隣の村に押入って田畑を荒らすだけではなく邪悪な勢力を拡大するために人の体を利用する。
次々と村人や山賊たちの肉体に憑依して人間界でも悪事を働き、穢れを広範囲に撒き散らす鬼たちは人の概念に悪を擦り込むことによって人にとっての負の連鎖を加速させようと働くのである。穢れた鬼たちにとっての好循環である連鎖を・・・
時を経て、鈴◯峠を往来する人を襲撃して身ぐるみを剥がし、金品を略奪する山賊に扮した鬼たちの姿を感じたものたちの言い伝えにより、巨大化した鬼はいつしか大嶽丸と呼ばれるようになる。
峠道を通り都へ運ばれる物資を奪い人々を殺害する事件が多発することから、時の朝廷が事件の真相を調査させたことによって
朝廷は直ぐに選りすぐりの精鋭を招集して都から盗賊討伐のための軍を編成した。討伐軍として派遣された軍勢の中には鬼の存在を感じることが出来る者の姿もあった。
鈴◯峠に近づいて来る討伐軍の存在を知った鬼たちは、悪知恵を働かせて謀を画策し、峰の黒雲に紛れて姿を隠す。暴風雨を起こして雷電を鳴らす鬼たちは軍を数年に渡って足止めした。
この難局を打破しようと家臣たちを叱責する帝に対して奏上するひとりの重臣が巫女の力により神頼みの儀式をしたうえで、ご神託により問題の解決を図ることを提案した。帝はその提案を受け入れ、朝廷は神々の力を授かる巫女を
選ばれた巫女は、
その結果、問題を解決出来るだけの清らかな心身をした者が選ばれなかったために新たな厄を招くことになるのであった。
討伐軍は天女の装いをした美貌の巫女を餌に大鬼を誘き寄せる策略を練り実行した。鈴◯峠に鎮座する神社の
一夜の契りを交わしたいと
そして、冷静になった大嶽丸は人間の手に寄って仕掛けられた罠であることを見抜き逆に利用するのである。
大嶽丸は討伐の軍勢を率いていた武将に子分を憑依させて牝狐が取り憑いている巫女に恋い慕うよう洗脳した。大嶽丸の罠に嵌まった男は、巫女に惚れてしまい欲望にかられて大嶽丸の子分の誘導に従うまま巫女の館へ入り
牝狐に取り憑かれた巫女と大鬼に操られた武将は互いに惹かれ合い協力して盗賊たちを斬り殺した。
盗賊の棟梁の首を刎ね、難攻不落の鬼ヶ城を落としたかと思いきや・・・実のところは、鬼たちに
討伐軍は肉眼で見ることの出来る盗賊を斬り殺すことは出来ても、本当の鬼退治は出来なかったのである。鈍さ故に・・・
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