第5章 (5)心願成就
鮮やかな月光に照らされている朋友の自宅がある神社境内。
拝殿内には、ひとり静かに精神統一する朋友の姿があった。結子と交わした言葉、頼光から聞いた先祖代々からの言い伝え、そして、結子の
それは清らかさと穢れの違いを繊細に感じ取ることが出来る体感力なくして結して辿り着くことが出来ない答えであり、知識の詰込みによる現代人の学問の到達点を超えた領域でのみ得られる情報を正しく精査出来る能力を持ち備えた者だけが解き明かせる
清らかな神々の領域からの情報を正確に捉えることにより、神人一体と化した朋友は御神前で一点の曇りのない明鏡止水の心境を感じていた。
朝日が昇りはじめた空を仰ぎ、清らかな気をその身に纏う朋友は結子とふたりで過ごした想い出が詰まっている日◯の地へ向かう・・・中禅寺湖の湖畔に鎮座する日◯二荒山神社中宮祠に参拝する朋友は、御神体山に登拝する自らの目的を神々へ伝えたうえで、ひとり静かに山頂を目指す決意を胸にする。
奇しくも御神体山への登拝の許可を得られるのは、この日が年内の最終日であった。中宮祠の拝殿右側にある登拝門より山道を登りはじめる朋友。大地である御神体山から伝わって来る心地よいエネルギーを感じながら、朋友は急勾配な山道をしっかりとした足取りで登ってゆく。
暫くすると、登拝をはじめた頃とは打って変わり目紛しく変化する天候。次第に激しさが増す雨風の中、朋友は霊峰・◯体山の険しい山道を一歩ずつ踏みしめながら山頂に向かって静かに登拝した。
その頃、朋友の行動を知らない結子は懸命に命の灯火を繋いでいた。無数の機材が設置されている傍らに朋友からプレゼントされたバラの花束が飾られている病室内でベッドに横たわる結子は、微睡みの中、瞼の奥で朋友と過ごした心嬉しい時間を想い出していた。
「あっ!」
「ありがとう」
こけ落ちそうになった階段で抱き支えてくれた朋友。
「どういたしまして」
「俺は、朋友、朝日朋友」
間近で見る朋友の優しい眼差し。
検査を終えた病院前でも偶然なのか、必然なのか、朋友と出逢った。
「俺の好きな子は・・・」
朋友の照れる表情。
「うっせぇ〜何でお前に言わなきゃなんねぇんだよ!」
御神剣を手にした時の朋友の姿・・・
「全く別物になった・・・」
清らかな御神剣を両手で持ち上げる朋友。
「この感じは・・・」
御神剣を手にすると全身が清まり、感度が増す朋友。
「すごい!」
笑顔の朋友。
フラワーパークでの時間。
「ボーイフレンド君、もう少し彼女に近づいて、ほら!」
「はい、チーズ!」
良縁の地でふたりの距離が近くなった瞬間。
「ほら、こうやって覗くと同じだよ!」
「朋友くんも、ほら!」
ふたりの手で作ったハートマークを照れながら覗き見る朋友の姿。
夕陽と夕月夜を眺めた渡良瀬川沿いのひと時。
「いや、家の爺ちゃんの年になっても、揶揄うからな!」
家の自室で携帯電話から聴こえてきた朋友の声。
「会いたい・・・」
朋友との出会い、過ごした日々を胸にする結子は、力を振り絞り
「朋友・・・」
結子の目から涙が溢れ、頬を流れる涙・・・
澄んだ双眸を輝かせ山頂に手を届かせようと歩みを進める朋友。険しい山岳と激しく変わる天候が行く手を遮る中、朋友は集中力を高めて空間から受ける情報のすべてを自らの身に刻み、赤土に変わった山道を更に上へ進む。
頂上の近くまで辿り着いた朋友は、山頂の北西に鎮座する太◯山神社に参拝した後、奥宮の鳥居前で深々と頭を下げる。朋友は持参した
朋友が奥宮で手を合わせた時には他の登山者たちは山頂付近からいなくなり、静けさが深みを増す中、腰から上の辺り一面が霧に覆われ視界はほぼゼロになった。
奥宮で参拝を終えた朋友は視界が開かない中でも体感から巨大な御神剣の位置をはっきりと捉えている。
両足から全身に響き伝わる御神体山の溢れる力を感じながら、朋友は頂上に聳え立つ清絶高妙な御神剣の前に歩みを進めた。
巨大な御神剣・・・近づくと御神剣の周囲が時を超えて神々の聖域と繫がっているような感覚が朋友に伝わって来る。
雷鳴が響く中、朋友は山頂の巨大な御神剣の前に神々からの力を宿した家宝の剣と勾玉を静かに置いて、その場に
朋友の全身から放たれる清らかな気と共に双眸が蒼く煌めいた時、天地が繫がったかの如く、御神体山の山頂一帯は一段と神々しい耀きを放ち清らかな気で包まれた。
次の瞬間、強烈な雷鳴と稲光とともに山頂の御神剣に雷が落ちる!そして、御神体山の頂上地面を数本の光の波が走り抜け、天地が動く。
その場に倒れた朋友・・・消えゆく意識の中、朋友に奇跡が起きる・・・
「清らかな心と体、清らかな場所、本物の愛を守り継ぐこと、それが人の生きる本意なのです」
玲瓏な女神の声が聴こえて来た朋友は、清らかな神様の想いに一点集中していた。
「大丈夫、ご安心なさい、私の御霊を捧げます」
女神の想いが伝わってくる朋友の全身は美しい光に包まれていた。その姿は、まるで金色の稲波に横たわる清らかな男神のようであった。そして、山頂と境内の神苑に眩く煌びやかな光が指し、山頂の御神剣と神苑の良縁の剣が共鳴した。
時を同じくして、病室でひとり横たわる結子の頬の涙は乾いて・・・静かに目を覚ます結子。
目覚めた結子の双眸には神々の世界がシンクロする。晴れ渡る青空、眩い陽光、肥沃な土地、爽やかな風、稲穂の波・・・
時は流れ・・・
東京よりも冬の訪れが早い栃◯県。この日は粉雪が舞う幻想的な朝を迎えていた。神社の拝殿内で祝詞を奏上している宮司の高彦。境内にある朋友の自宅では、ご先祖様の御霊に手を合わせている頼光のところへ氏子たちが訪ねて来た。
いつものように夏子が境内の清掃をしている中、頼光の発案で制作した『良縁の御酒』『良縁の御米』『良縁の御塩』を並べて出来映えを品評している頼光と氏子たちの笑顔があった。
鏡子と健彦は自宅で食卓を囲んでいた。 「お父さんにお帰りっていってあげてね!」と、病室で結子とふたりだけの時に言われたこと想い出す鏡子は、結子への感謝を胸に「ありがとう」と微笑みながら呟いた。
その頃・・・
学校では松島が幽霊妖怪サークル改め、神社仏閣巡りサークルに改名することをクラスメイトたちの前で発表していた。高校の部活よりも大学のようなサークル活動に参加することで、より華やいだ学園生活ができるようになると熱弁をふるっている松島の側で微笑んでいる町井の姿があった。
鬼たちに憑依され操られていたものたちはというと・・・東京都内にある鬼塚の自宅には、心機一転、受験勉強をしている鬼塚の姿。そして、隣の部屋では教科書を広げて互いに切磋琢磨しながら問題を解いている角田や仲間たちの姿があった。
それぞれの日常・・・そして、結子と朋友は・・・
病院内の廊下の椅子に結子はひとり静かに座っていた。結子は奇跡的な回復力で生気を取り戻し、病院を退院することが出来ていた。立ち上がった結子が院内から屋外へ出た時には粉雪は雨へと姿を変えていた。舞い落ちて来る雨粒越しに天を仰ぎ見る結子・・・
雨が降る中、とある場所でひとり佇む結子は天を仰ぐ・・・
「いやぁ〜!!!」
県内の田舎町で雨に打たれながら泣き叫ぶ結子の姿・・・顔のアップから全身へと引きの画面にスライドする。
「カット!」
監督の甲高い声が周囲に響き渡る。
映画「愛しい人は、女神さま」の撮影も災害の復興が進んだこと、結子をはじめ倒れていたスタッフも元気を取り戻したことを受け再開していた。
最後に残ったワンシーン。男たちに腕を掴まれ屋敷の庭園に投捨てられた斎王となる姫のセリフ。それは映画撮影現場での結子の会心の演技であった。
結子の衣装や小道具だけではない。雨ももちろん撮影用のものである。映像のチェックを終えた撮影クルーたち。すべての撮影が終了して、その場の全員がクランクアップを喜んだ。
「お疲れ様でした!」
晴天の空を見上げた結子の表情もまた晴れ晴れとして輝いていた。
小雨が降る病院前で映画の撮影シーンを想い返していた結子は朋友と合流する。結子は朋友の診察が終了するのをひとり待っていたのだった。
朋友は御神体山の山頂で倒れた後、献身的な神職たちに救助されて無事に下山することが出来た。倒れた際に左腕を強打した以外は奇跡的に軽い打ち身や擦り傷だけであり、負傷した腕も今日で晴れて完治したのである。
病院を後にした結子と朋友は、雨上がりの渡良瀬川沿いで腰を下ろし、並んで座っていた。夕陽に照らされた渡良瀬橋を眺め、過ぎゆく
冬の足音を感じながら、互いの手を握りしめ微笑んでいるふたりの姿を静観する夕月夜が見守っていた。
日◯の地・・・
日◯二荒山神社の境内にふたりが奉納した「神恩感謝」のメッセージ絵馬も夕陽を浴び微笑んでいるかのように耀きを増していた。
夜空に輝く無数の星たちの下、御神体山の山頂で降り注ぐ月の光に照らされ神々しく輝き続ける清絶高妙な御神剣・・・
「ありがとう! 神様」
女神に声をかける清らかな結子の美声が刻に軌跡を遺す・・・
そんな聖域を護るため、人々を守るために今宵も魔物に乗っ取られている荒廃した場所で結子と朋友は人知れず強大な魔獣と苛烈な戦いを繰り広げている。結子に穢れた鋭い
その頃・・・
栃◯県◯須、玉藻前(日本三大妖怪・九尾狐)伝説の地。「
「PURIFICATION」
〜狐の嫁入り 編〜
To be continued...
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