第101話 皇女サヨ


「居眠りしてはダメですよ」

「……すまん」


 目を覚まして辺りを見渡す久世。


 そこは補給艦「秋風」の指令室だった。


 補給艦「秋風」は、日本がニューガン皇国から購入した最新鋭の補給艦で、日本はこれ一隻しか買う力が無いので、この船で星々を渡り歩くことになっている。

 久世が辺りを見渡すと他の自衛官からも睨まれていた。

 居心地悪そうに彼が帽子をかぶりなおしていると声が掛かった。


「お疲れのようですね」


 となりに居た黒髪青人の美少女が声をかける。

 利発そうな少女だが何を考えているかわからない感じの少女だ。


 ニューガン皇国の第76皇女サヨである。


 宇宙では皇族は沢山いる。

 基本的には地球と同じで大統領か国王が国家元首に当たるのだが、領地が広すぎるのだ。

 飛び地が至る所にあるのでその場所その場所で皇族が総督として国王になっているのだ。


 実際、サヨ皇女はテトラ星系ニューガン皇国領マキシア総督エルグラン王家の第9王女でもある。

 エルグラン王家は皇族の一つで比較的序列が高いのだが、それでも76位である。

 皇族の序列は3、4桁まで行くのが当たり前で、皇族の数も100~300まであるのが先進国の普通である。

 理由は単純で飛び地の数が多すぎるからだ。

 アーカム連邦だけでも星系は百以上あるのだが、先進国になると居住可能惑星の全てに領土を持つ。

 そのため、どうしても皇族が多く必要になるのだ。


 彼女は日本にニューガン皇国領マキシア王国大使として赴任しており、この補給艦の航海訓練のついでに乗って日本に向かう途中だった。


「失礼しました」

「いえいえ。長旅ですからお疲れなんでしょう。いろんなところを回りましたから」


 久世の言葉にサヨはにこやかに笑う。

 補給艦「秋風」はアーカム連邦内の様々な国々を巡行していた。


 理由は諸外国との情報交換である。


 補給艦と銘売ってあるが実質、政治外交官を乗せて巡行する旅客船だ。

 これから起こるであろう戦争への準備として、こうやって様々な文物を取り入れているのである。

 そのためにも大量の人員、物資を乗せられる補給艦がベストなのだ。

 しかもこれが一回目ではない。すでに7回目なのだ。


「どんな夢を見てたんですか?」


 悪戯っぽく笑う皇女に苦笑して久世は応える。


「……隕石事件で亡くした息子の夢でした」

「……それは失礼しました」


 困り顔で謝る皇女。


「いつもバカなことばかりやるバカ息子でしたが、いざ無くなると寂しいものです」

「まあ……」


 困り顔の皇女。笑えばいいのか悲しそうにすればいいのか悩んでいるようだった。

 とはいえ、久世も無粋にそこを咎めるような男でもない。

 そう考えるのは相手を気遣う人だからだと考えている。


(むしろ赤の他人に俺の気持ちを考えろというほうがおかしいからな)


 その辺の割り切りができないような大人でもない。

 そんな久世に皇女が尋ねた。


「随分にやけてましたが、どんな夢だったんですか? 」


 皇女が空気を変えようとしたのだろう。

 だが、言った後で「しまった」という顔になった。

 途端にオロオロし始める皇女。

 それを見て久世は苦笑した。


「私が息子の授業参観……と言っても分からないですな。息子の授業を見る機会があったのですが、そこで教師が私たち自衛隊を批判したんです。平和を乱す悪の軍隊だと」

「……あらあら。どこかで聞いたような言葉ですね」


 今度は皇女の方が苦笑した。


「まあ、簡単に言うと。そいつら相手に息子は何て言ったと思います?」

「……さて? なんて言ったんですか?」

「僕たちも自衛隊の人も人を殺すよりも作る方が好きですってね。だから心配無用だと」

「あらら……」


 さすがの皇女も破顔する。


「まあ、平和を語るのはいいのですが彼らは少々勘違いをしておりましたな」

「そうですね……そうなると……私たちはあなた方の敵を討ったような形になるんですかね?」


 苦笑する久世とは裏腹に


登場人物紹介


久世 隆幸


 宇宙を航行する輸送艦『あきかぜ』の艦長で久世英吾の父親。

 自衛官としては珍しく、様々な武勇伝を持つ。

 


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