幻妖の戯れ

第100話 正義の在り方


 金剣町きんけんまちはI県にある山間にある町で人口2万人ほどの小さな町である。


 その金剣町には金剣中学校という学校があるのだが……


 


 と言っても学級崩壊が起きている訳ではない。

 荒れ狂っているのは生徒では無かった。


「自衛隊は悪です!」


 に教室は沈鬱な空気に包まれており、生徒のみならず授業参観に来ている親御さんたちまで顔をしかめている。


「つまり、自衛隊は憲法違反であり、存在してはならない犯罪集団なのです! 」


 50ぐらいおばちゃん先生が自衛隊の悪口を言いまくっていたからだ。

 俗に言う陰謀論系のキチガイである。


「自衛隊は人殺しの集団であり、抹殺すべき存在なのです!  彼らは死刑を賛成しているので死刑にしてもいいですね! 」


 先ほどから自衛隊の悪口は元より、旦那の些細な癖までみんな国の陰謀と熱弁している。

 今日は授業参観で父兄たちが見ているにも関わらずこんなことを話しているのだ。

 しかもこの先生は英語教師である。

 それを聞いてる親御さんの一人が、隣にいたカイゼル髭の父親に声をかけている。


(久世さん。外に出られた方がいいのでは?)


 久世と呼ばれたお父さんが苦笑して答える。


(別に構いませんよ。慣れてますから)


 気を使ってくれた隣のお父さんに笑う久世隆幸。

 彼は現役の自衛官の一人でもある。

 彼は自分のトレードマークでもあるカイゼル髭をしごいて答える。


(でも……)

(駄目ですよ。多分、あの女は私に聞こえるように言いたいんですよ)


 そう言って教師を睨む久世。前々から聞いてたのだ。


(あのバカ教師が……)


 息子の英吾から、まともとは言えない性格と聞いていた久世隆幸は顔を顰める。

 英吾はことあるごとにこの教師から嫌がらせをうけているので、相談はしていたのだ。


(思想信条を持つのは構わんが押しつけがましいわ!)


 せめて子供には中立な先生であってほしいと思う久世であった。


(右は右で厄介だが、こいつらはこいつらで厄介だな)


 何事もほどほどが一番である。


(頭の中では自分は逆風に負けないで平和のために戦う英雄なんだろうが……)


 残念ながら傍目にはただのキチ〇イである。

 ここに居る全員の顔がそれを物語っている。


(多分、……なぜ自分の意見は正しいのにみんな聞いてくれないんだろう?と思ってるんだろうな……)


 独善的な先生の妄想に溜息をつく久世。

 自身が勤める小松基地にも似たようなのが定期的に襲ってくるのでわかるのだ。


(話すだけ無駄だしな……早く終わらんかな……)


 教師の説教聞かされる不良のような気持ちで立っていた久世だが……左目の下に涙ボクロを持つ生徒が立ち上がった。

 

 自分の息子である久世英吾だった。


(…………おい)


 自分の息子の性格は知っている。

 ふざけた性格のわりに義侠心が強いのだ。

 そして何をやるかわからない核弾頭のような子供でもある。


「ちょっ待て……」


 息子の行為を止めようと声をかけたその時だった。


「先生! 僕たちも自衛隊の人たちも人を殺すよりも作る方が大大大大大大好きなのでそんな心配は必要ないと思います! 」


シィ――――――――――ン……


 その言葉に全員が静かになった。


ギャハハハハハハハハ!


 爆笑に包まれる教室。

 それを聞いてわなわなと手を震えさせる先生。


「ソースは僕と僕の親父です! 絶対にエロ以外勉強したことありませんから安心してください! 僕の本棚に教科書はありません! エロ本が置いてあるだけです!」

「「「「「ギャハハハハハハハ!!!」」」」」


 それを聞いて全員が手を叩いて笑う。

 それを苦笑して見ていた少年の父親である久世隆幸は手を上げた。


「はいはいはーい! 俺がやってるのは復習で、お前がやってるのは予習だからな! 一緒にするなよ!」

「「「「「ギャハハハハハハハ!!!!」」」」」


 さらに爆笑に包まれる教室。

 笑いながらも隆幸は呆れていた。


(全く……コイツと来たら……)


 父親をユーモアで庇う息子に誇らしく感じる隆幸。

 そんな彼の肩に手がかかる。


「復習ってどういう意味?」


 横に居た隆幸の嫁が般若の顔でこちらを見た。


「ちょっとトイレにこい」


 久世は嫁さんに引きずられていった。


「ちょっ! 待って!」


 慌てて弁明しようとする久世隆幸だが……


 ガシィ!


 突然、別の男に肩を掴まれる!


「艦長! 艦長! 艦長!」


(……え? )


 いきなり現れた自衛官にドキリとする久世。

 


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