第99話 ネクストステージ

カタカタカタカタ………


 一人の少女が端末を操作している。

 年齢はまだ若く十代の少女で黒髪に青い肌のきれいな少女だ。

 肌もきめ細かく、整った顔立ちをしているのだが、その顔にはどこか冷徹なものが見え隠れしており、見るものに威圧感を与える。


 そんな彼女が端末を操作しているのは少女の身分を象徴するような豪奢な部屋で、部屋に置いてある家具の一つ一つが繊細な細工が施された一級品である。

 とは言え、

 揺れが激しいので不安定な物はないし、無重力故にそこら中に飛び散るので衝撃に弱い家具は置いてはいないが、それでも豪華なのは変わりない。

 実際、彼女は椅子に座ってはいるものの、とこどころがふわふわと浮いており、キーボードを打つだけで若干の浮力が発生しているので打ちづらそうである。

 ちょっと不規則なキーボードを打つ音しかしない部屋に小さな音が鳴り響く。


コンコン

 

「入りなさい」


プシュッ

 

 空気が出る音がして部屋の戸が開き、一人の老人が中に入ってきた。

 老人と言っても綺麗な身なりの使用人のような服装で、強引な言い方をすれば『ニューガン流の老執事』のような姿をしており、その見た目の推測を裏切らず、彼は少女の執事のような仕事をしている。


ふわり………


 空気を泳ぎながら老執事は中に入って戸を閉め、少女の元へ宙を泳いで向かう。


「そろそろテトラ星系内に入るそうです。仕事を一旦中断した方が宜しいのでは?」

「そうね。その前にもう一回見とかないと」


 少女はそう言って端末を操作してあるファイルをクリックする。

 すると、画面に動画が流れ始めた。


「で? 水泳部の部室に覗き穴を空けたのは誰?」


 ショートカットの少女が仁王立ちで5人の男たちを正座させている姿が流れる。

 その動画は黒い球が出てきて4人が飲み込まれる所までくっきり映っていた。

 それを見た老執事が静かに言った。


「………あのですか?」

「そう。あのよ」


 思案顔のまま少女は画面を見てぼやく。


「これはどういう意味かしらね?」

「4人の少年が黒い球に飲まれたと言うことでは無いでしょうか?」

「それは見たまんまの感想でしょう?」


 老執事の冗談に静かに答える少女。

 老執事は静かに答えた。

 

「身元はすでに判明しておりますので、経過をみるしかないでしょう。恐らく彼らに聞いても答えは返ってこないと思いますよ?」

「でしょうね。見るからに馬鹿面の餓鬼の集まりなんだから」


 酷い言い方をして、少しだけ眉を顰める少女。


「問題は……なんでこんな馬鹿ガキをあいつが狙っているのかよね………」

「そればっかりは本人に聞いてみないことには………」


 少女の言葉に苦笑する老執事。

 少女は静かに手元の資料を見る。


 資料には5人の写真が貼ってあり、その下に名前が書いてあった。


久世 英吾

大上 悠久

万代 刀和

玉響 瞬

九曜 圭人


 ご丁寧にもラーラム語と漢字で名前が書かれてる資料である。


トントン………


 指で資料を叩きながら思案する少女。


「どう見ても関係ありそうに無いのに………」

「関係があるからこそ、ちょっかいを出しているのでしょう」


 そう言って老執事は画面を指さす。


「こんな真似をヤツ以外が出来ますか?」

「………出来ないわね」


 渋面になる少女。

 しばらく渋い顔をしていたが少女は突如として立ち上がった。


「仕方ありません。この艦の艦長さんにお尋ねしますか」

「何をですか?」

「決まってるでしょ。息子さんのことよ」


 そう言って少女は5人の写真の内の一人を指さした。


「彼のお父さんにどんな息子さんか聞いてくるわ」


 少女が指さした少年の下には『久世英吾』と書かれていた。

 すると老執事が声を上げる。


「それでしたら、この子のことも聞いてくれませんか?」


 そう言って老執事も5人の少年の内の一人を指さす。


「マシキアに着いたら彼のお父さんの羅護と飲む約束をしているようですよ?」

「それはチャンスね」


 そう言って少女はにやりと笑ってもう一人の写真も見た。


 その少年の写真の下には『九曜圭人』と書かれていた!


















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