第96話 精神年齢
「で? どういうことか聞かせてくれるか?」
額に青筋を立てて、尚且つ猫耳と尻尾を極大に上に尖らせて怒りを抑えるようにタマノが尋ねる。
ここは幽霊館の近くの公園で比較的人通りの少ない地域だ。
子供もまばらなこの公園でタマノとトカキはベンチに座り……
アイナとデビラは正座させられていた。
他の舎弟たちとハーマ達は帰らせているので、彼ら以外で居るのは圭人とイナミとティカだけである。
三人とも呆気にとられた表情で地面に膝を曲げて座るアイナ達を見ている。
「あっしはアイナ姉さんに頼まれて家出していただけです。よくわかんねーっすけどアイナ姉さんがどうしても言われるんで仕方なく……」
そう言ってデビラがちらりと横のアイナの方を見ると、ものすごく恥ずかしそうに顔を俯かせている。
デビラの失踪はただの狂言だった。
行方不明だったのは事実だが、アイナに言われて貸し部屋に隠れていただけだった。
ちなみに貸し部屋とはマンスリーマンションみたいなもんで、誰でも借りれる簡易宿泊所兼娯楽施設である。
まあ、この世界でもデリヘルのような仕事があるのでその為に使われることも多く、イチイチ身分証を確認しないし、この世界では珍しく現金主義なので隠れやすい所だ。
タマノは怒りを必死で抑えながらアイナに尋ねる。
「じゃあアイナ。なんでこんな事したんだ?」
「……ケート君と仲良くなりたかったから……」
言われてきょとんとする圭人。
(………何で? ここまでする必要がある?)
仲良くも何も既にそこそこ話せる間柄になっている。
こんな狂言をする必要が無く、超法学研に出入りを繰り返すだけで出来るだろうに、このようなことをする理由がわからなかった。
同じこと考えたトカキも不思議そうに尋ねる。
「なんで? ここまでする必要があったの?」
「……カラお兄ちゃんが帰ってきたみたいだったから……」
理由になっていない言い訳を言われて苦笑するタマノとトカキ。
圭人だけが不思議そうに尋ねる。
「俺に似てるっていうアイナさんのお兄さん?」
「そうだも! ケート君はお兄ちゃんなんだも!」
(……だも?)
急に言葉遣いが変わったアイナに困惑する圭人。
そんな圭人を尻目に興奮するアイナ。
「初めて見た時からお兄ちゃんの生まれ変わりみたいだと思ったんだも! きっとアイナを助けるために来てくれたんだって思ったんだも!」
わちゃわちゃ手を動かしながら熱弁振るうアイナ。
(そういや『だも』が口癖だったな……)
昔のアイナの癖を思い出してクスリと笑うタマノ。
「助けるって……別にアイナは困ってないよね?」
トカキが不思議そうに尋ねる。
「別に虐めるような人もいないし……どちらかと言えば尊敬されてるような……」
イナミも不思議そうにつぶやく。
今のアイナに虐められる要素は一切ない。
成績優秀でスポーツも万能。
顔は綺麗だが特にトラブルを起こさないし、つるんでるのがタマノなので喧嘩売る奴はいない。
だが、アイナは口を尖らせて抗議する。
「タマノは喧嘩ばっかりだし、トカキは部活に夢中だし……そういう乱暴なこと苦手だからって文系部活してもみんな特別扱いするだけだし……誰もアイナと一緒に遊んでくれないんだも! だからお兄ちゃんに遊んでほしかったんだも!」
「……おい……」
さすがのタマノもいらっとして声を荒げる。
「あの……アイナ先輩……そんな理由だったんですか?」
デビラまで呆れ顔になる。
まさかこんなくだらない理由だとは思わなかったんだろう。
「……あのさ。それはさすがに無いんじゃない?」
トカキもさすがに切れ気味になった。
バディルを取り出すほどの大騒動になったのだから当然だろう。
場合によっては警察に捕まる可能性もあっただろう。
トカキにいたってはクラブ消滅の危機もありえたのだ。
三人の怒気を浴びてさすがにアイナも涙目になる。
「ここまで大事になるとは思わなかったから……まさか迷宮が本当にあってあんなに危ないところだとは思わなくて……」
「そういや迷宮でデビラさんの小物見つけてましたよね? どうしてだったんですか?」
圭人の言葉にアイナは両手の人差し指でちょんちょんつつきながら答える。
「……ポケットから出して拾ったふりしただけなんだも。本当は幽霊館の中でやって、お兄ちゃんと一緒に探索しながら親密になりたかっただけなんだも……」
わかってしまえば単純なやり方である。
もっとも、余裕がないときは気付かないだろう。
そして圭人はもう一つ思いだした。
「だから、ホテル廃墟にも誘ったんですね?」
こくりと頷くアイナ。
「前々からお父様が困ってたから利用しちゃえと思ったんだも……あんな男が現れるとは思っても無かったんだも……幽霊館だってあんなに危ないことになるなんて思わなかったんだも……」
「……そういや二つともアイナさん巻き込まれただけですね」
二つとも命がかかわるほどのトラブルではあるが二つともアイナ自体は関与していない。
アイナは巻き込まれているだけで、普通にやればあそこまでの大事にはならない。
「……幽霊なんていないから……探せば探すほど一緒にいる時間が増えると思ったんだも……」
「そりゃ幽霊何ているわきゃねーけどよー。ちょっと断言し過ぎじゃね?」
タマノがあきれ声で抗議するが、その途端にアイナは憤然と言い返す!
「いないんだも! 居たらお兄ちゃんが会いに来てくれるはずなんだも! お兄ちゃんは死んでから一度も会いに来てくれないんだも!」
涙声で怒るアイナ。
いきなりの変貌ぶりに全員が驚いて目を見開いた。
「だから幽霊なんていないんだも!」
泣きながら話すアイナの言葉に全員が絶句した。
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