第72話 捜索依頼

「……行方不明?」


 不思議そうな顔をする圭人。


「そうだ。デビラって名前でこの子なんだけど行方不明なんだ」


 タマノが端末キテラを見せると短髪の可愛らしい感じの女の子が居る。


「警察から事情聴取があって初めて分かったんだ。最近見ないと思ったらいつの間にか家から居なくなったらしい」

「……ふむ」


 タマノの言葉に腕組みする圭人。


「アイナと仲が良かったからてっきりアイナには顔を出してるかと思ってたんだがアイナも知らないと言っている」


 タマノの言葉にアイナも黙って頷く。

 心なしか厳しい顔をしている。


「あたしらとしては急な話で慌てて探しに行ったんだが手掛かりはない。特に誰それを預かったといった抗争絡みの話もない。家出ならあたしらの家に来るだろう。完全に行方を眩ましたんだ」


 淡々と答えるタマノ。


「元々、この町は比較的穏やかな田舎町だ。治安もいいし、これといった凶悪事件も起きていない。行方不明事件すら皆無だ。だから警察も不思議がっている」


 このケイオン市は人口百万人を超えているとはいえ、そこは片田舎の町だ。

 変な連中もいることはいるが元のアーカム連邦法もニューガンの法律も厳しいのであまり変な事件は起きない。

 また、安楽死が許されているのでぼけ老人が少ないのだ。その関係で老人の行方不明も少ない。


「それでちょっと探すのを手伝ってくれないか? もし事件に関わるようなら助けたいし……」

「……その割にはタマノ姉ぇも落ち着いてますね?」


 圭人の言葉にぽりぽりと頭をかくタマノ。


「こういうのは大概大したことがないんだ。大方彼氏が出来てそいつの家に泊まり込んでるんだと思うけど、万が一ってこともあるからな。一応探してくれ」

「……う~い」


 最後の言葉を聞いて圭人もやる気をなくして生返事する。


「それでな。デビラが居なくなったのは『幽霊館』の近くなんだ」

「……幽霊館? 」


 タマノの言葉に訝し気に眉を顰める圭人。


「そうだ。オーナーが自殺したとも言われている幽霊館だ。なんかよくわからんが超法学関係では幽霊のいるところに行方不明事件が多発するんだろ? ついでに調べたらどうだ?」


 そう言ってタマノは笑うが、目だけは笑っていない。


(信じてはいないけどってやつだな)


 圭人はそう推測する。

 恐らくタマノも十中八九は男の家に泊まり込んでいると思ってるんだろう。

 だが、十中一二は事件の可能性があると思っているのだ。


「あたしが気になるのはあたしたちの誰も彼氏の話を聞いたことが無いことだ。何人かに話はあってもおかしくはないだろ? まあ、話す前にやってしまった可能性は無きにしも非ずだが……」

「……なるほど」


 確かにそうだと圭人も思った。彼氏が出来れば自慢するのが普通だろう。

 自慢できない相手なら恋人になろうともしないだろう。


(下が緩いタイプならあるいは……)


 どこにでも奔放なタイプはいるのだが……


「あの子はエッチなことは苦手で下ネタを話すだけで顔を赤くするタイプだった」


(シロだな)


 圭人の考えを見越したのかタマノの一言で先ほどの考えを壊す圭人。


(そうなると、危険な男に襲われた可能性も……)


「あの子はアイナの妹弟子でね。腕っぷしは立つんだ。特にクーザ流は護身術に長けていて、相手に組みふせられてからの脱出に強い。アイナもそういったことに強いから危ない目に合うことはあっても何とかなってる」


(そっちもシロと……)


 くすりと笑うタマノ。圭人の考えがすぐにわかったのだろう。


「まあ、ケートは放課後、幽霊館の方を調べてくれないか? あたしらは周りを調べるから」

「うぃーす」


 圭人はやる気なさそうに答えた。だが、他の部員は違ったようだ。


「ふふふ……まさか再び依頼が来るとは思わなかったな……」


 ハーマが嬉しそうににやける。


「ええ……これは常に清く正しく生きる私たちに神様がご褒美をくれたのでしょう! 」


 イシュタもその言葉に賛同する。


「え~と……」


 お願いしたタマノが妙な空気にドン引きする。


「さあ準備だ! 出陣するぞ!」

「ええ!」


 ハーマとイシュタが立ち上がり気合を入れ始めた。それを見て圭人は深々とため息をついた。




 

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