第69話 学生の性問題
「だから、学生と言えど子供が出来ても産休がもらえたりするんです。エニルが子供を欲しいと考えていたのなら、それはそれでいいのです。子供はエニルが育てるんですから」
(……うん? )
何故か急に先生の話す声が変わった。
リュイ先生の方を見てみると顔が急に暗くなる。
「だからと言って羽目を外してはいけません。一夜の過ちで一生を棒に振ることさえあります。不純異性交遊は慎み、健全なお付き合いに留めましょう」
ちなみに以前にあった学生の産休制度はあくまでもエニルの許可が必要なのだ。
エニルによっては追放されることもあるのだ。
「もし、エニルに追放されれば孤児(ファン)となり、その後の人生は悲惨な道を進むことがあります。たった一夜の過ちでエニルを追放され、裏街道を歩く人もいるんですから、そうならないためにも節度ある生活を心がけるように」
そう言って白板にあるパネルを見せる。憲法にも書かれてある家族制度に関する条文である。
「ここに書いてあるように証人を付けてのエニル会議(家族会議)によって、追放を行うことが出来ます。暴力的な者や迷惑をかける者。あるいは逆に何もしないニート。さらにはエニルの規律を破ったもの。そういった者を追い払うことが出来るんです」
そう言ってもう一つのパネルを見せる。
「追い払われた者は孤児(ファン)と言って一人暮らしをすることになりますが、身元引受人がいないので大半が貧しく、国の生活保護収容所で暮らすか、裏街道を歩いて生活するかのいずれかになります。どちらもあまりいい暮らしとは言えませんし、生き方が正しいとは言えません」
パネルには孤児になった際の制約が書かれていた。あまりいいことが書かれていない。
(……よく考えるとシュクラさんって追い出されなかったんだな)
悪い噂ばかり聞くがそればっかりではなかったからエニルから追い出されなかったのだろうと解釈する圭人。
「ですから、羽目を外すことがないように。まだ若いんですから、そういったことは早いんですから……ええ、そうよ。若いだけが取り柄なんだからそんなことする必要なんてないのよ……」
リュイ先生の声に少しずつ剣呑としたものが混じり始めて背中に冷や汗を流す圭人。
「何が産休よ……餓鬼にはまだ早いっての。乳繰り合うのは二十歳超えてからでいいのよ……なんであたしが餓鬼のお産の弁護なんかしきゃいけないのよ……自分のがまだなのに……」
「……」
リュイ先生はどす黒いオーラをまとっっていた。
「言うに事欠いて『あんたの教え方が悪い?』……はっ! 笑わせるわ! てめぇの教え方が悪いから孕ませることになったんだろうが! 避妊のやり方ぐらい教えとけっての! てめぇの腰遣いが下手だからバカやってバカ餓鬼がうまれたんだろうが!」
段々リュイ先生の声が荒くなり大きくなっていく。
(マリードの野郎……)
諸悪の根源たる少年の顔を思い浮かべるが彼は今ここには居ない。
「大体、教え方が悪いから股が緩くなったんだろうが! 緩い股とへたくそな腰遣いで生まれた餓鬼になんであたしが攻められないといけないんだよ! 大体なんでそんな股ゆるクソビッチにばかり相手が居てなんで私には居ないんだよ! くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
最後に大音声で叫んで天を仰ぐリュイ先生。
キーンコーンカーンコーン
リュイ先生が雄たけびを叫ぶと同時に学校のチャイムが鳴った。
全員が慌てて端末を片づけ始める。
「話がそれました。ではこれで終了します」
そう言ってにっこり笑うリュイ先生だったが全員が逃げるように出て行ったのでそれを見ている者はいなかった。
用語説明
道徳
なんだか戦前を思わせるような言葉だが、要は社会常識と法律に関する対応、マナーを教える授業である。
概ね、小等学校と移民等にしかやらない。
細かな犯罪は常識の相違からくるのでこういったことを教えておかないと社会に出てからとんでもないことをやらかしたり、学業中にやらかしたりすることが多いからだ。
『個人の思想は自由』なのは間違いないが社会常識から外れたことをやっても会社から放逐されるだけの人生の落伍者になるだけなのとエニルによってはとんでもないことを教えているエニルもあるのでそれをあぶりだすための作業でもある。
盗癖などの犯罪癖の大半は年長家族がクズの場合が多いのでそれを未然に確認するのが仕事。
そのため、社会に出てからはこの道徳の試験が一定以内の人間しか雇わないのが普通。
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