第65話 過去の悪行
「君もよく巻き込まれるねぇ……」
「ほんとに……」
犬耳を付けたコロンボ風の刑事オニテの言葉に同意する圭人。
あれから件の馬鹿を通信士の元まで運ばれると何かを押し付けた途端、動きを完全に止めてなすがままになった男を警察まで運んだ。
圭人は一連の騒動を見ながら一緒に警察まで来たのだが、説明して開口一番にそう言われたのだ。
「アイナはこちらの常連だから大体の事情はわかるけどねぇ……」
「……常連なんですか?」
意外そうに尋ねる圭人。
「まあ、タマノ絡み半分で男絡みが半分かな? タマノに付き合って喧嘩で捕まることもあれば男に付きまとわれてぶっ飛ばすこと以外では来ないかな?」
「……なるほど」
タマノ姉御の補導率に若干頭が痛くなる圭人。その顔を見て笑うオニテ刑事。
「ま、そうは言っても三狂獣や狂獣王の頃に比べればましかな? なにしろ狂獣王は付近一帯を制覇したからねぇ……県の危険人物に指定されてたねー……」
懐かしそうに目を細めるオニテ警部。
(何やってんだシュクラさん………それとなんでそんな嫁をもらったんだ親父?)
突っ込みどころがあり過ぎて黙るしかない圭人。
「ちなみに三狂獣の頃はどんな感じだったんですか?」
「シムラー学園は『動物園』じゃなくて『密林』って言われていたよ」
「ランクが下がって来てたんですね……」
動物園はまだ可愛らしいほうだろう。
「ちなみに『ペット屋』『動物園』『密林』『古竜期』『畜生国』にランクが上がっていってね。狂獣王の頃は『畜生国』だったよ」
「『畜生国』というのは? 」
「神話における動物達の神様ディニドが治める国であらゆる動物が集まると同時にもっとも弱肉強食が激しいとされるところだよ。まあ、神話レベルの警戒をされてたね」
にこやかに懐かしそうに笑うオニテ刑事。全然笑えず引きつった笑みを浮かべる圭人。
「もっとも。本当に危険なレベルになると監査が入るからね。そこまで悪党じゃなかったよ」
「監査ですか?」
聞きなれない言葉に訝しむ圭人。
「三狂獣も狂獣王も喧嘩に強いけど、道理を弁えていたからね。何というか……筋は通していたし、薬とか売春とかお金が絡む悪行はしなかったし、させなかった。だからこそ、畜生国レベルで収まったと言えるね。お金が絡んだり、
グランドとはマフィアや暴力団のような組織である。当然ながら関わるとろくなことがない。
「ま、三狂獣も狂獣王もグランドに一目置かれるほどの強さだったからね。卒業と同時に勧誘が大変だったそうだよ」
「そっちに行けばよかったのに……」
元三狂獣の暴れぶりを思い出す圭人。其れを見て笑うオニテ刑事。
「そう言えば教師になったんだね。どうだい? 彼女らの仕事ぶりは?」
「何か言うとすぐ手が出る暴力教師なんで捕まえてください」
圭人が素直にそう答えると爆笑するオニテ刑事。
「手の速さは相変わらずか……何言って殴られたんだい?」
「ババアと……」
「それは君が悪いねぇ……」
そう言って笑うオニテ刑事。
どうやら捕まえてはくれないらしい。
「まあ、あの子らは生きた伝説だからねぇ……嫁の貰い手は中々見つからないぐらいだからねぇ……狂獣王が結婚したって聞いたときは耳を疑ったよ……」
くくくと笑うオニテ刑事。
「どんな男かと思えば未開惑星の観察員じゃないか。それも冴えないおっさんだし。聞いてみたら『男を感じた』っていうもんだから何があったのかと思ったよ」
「ホントに何があったんでしょうね?」
聞けば聞くほどわからなくなる自分の父親とシュクラの繋がりだった。
ちなみに観察員とは一種のスパイに当たるのだが、調べる内容が生活状況や国内ニュースといった、普通の市民でも手に入る情報を探る仕事を指す。
リガルティア全般で許されているスパイ行動と言える。ちなみにネットなどで情報操作を行うと『工作員』に認定され、逮捕されることになるのと届け出等が必要になるがそれ以外は許される。
「ま、それはともかくとして、アイナちゃんでも今回みたいな殺人未遂は珍しいねぇ……」
「そりゃそうですが……あんな事件ってよくあるんですか?」
「……あると言えばあるかな? なにしろバルドーは殴り合いに特化した奴らがやりたがるからねー。どこのスクールカーストでも最上位だし、喧嘩にバディルを出すバカはいるよ。犯罪全体としては少ないけどバルドー部が起こす事件としては多いぐらいだねぇ……」
「……なるほど」
似た連中が集まるから似た犯罪が多いようだ。
「もっとも、バディルの指定区域外着用は厳禁だから滅多に起きないんだけどね」
「そうなんですか? でも、たまにCMとかでやってますよね? バディルの販売」
「あれは単なる防犯用とか作業用だよ。作業用のバディルも筋肉強化はついてるけど作業に特化してるからね。その程度なら簡単だよ」
そう言ってオニテ刑事は両脇に入れている銃を二種類取り出す。
一つは普通の銃だ。もう一つは未来的なデザインの銃を持っている。
「だから刑事は二つの銃を持つ。一つは射殺用。もう一つはバディルの緊急停止用銃だ」
そう言って未来的デザインの銃を取り出す。
「こいつは電子ウィルス付きの銃でね。こいつを打ち込まれると軍用を除くあらゆるバディルがウィルスに汚染されて緊急停止をする」
「使うことがあるんですか?」
「勿論。作業用バディルで強盗するやつもいるからね」
「……なるほど」
改めてこちらの常識に驚く圭人。
ちなみにこれがあるのでパトカーにはバディルが常時装備されている。
「……まあ、今回は災難だったね。もう帰っていいよ」
そう言われて圭人は帰ることにした。
バディル
この世界におけるパワードスーツ。
体にフィットする人工筋肉部分と外部装甲部の二つに分かれており、軍用のは様々なオプションパーツを付加することでパワーアップする。
軍用は老朽化が進むと装甲を外して民間に払い下げて作業用に使う場合もある。
ピンキリで10万ぐらいから1億近いものまで幅広い金額で売られているが警護用か作業用である。
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