第55話 お鍋はどこでも美味しい


一方、セイシュ家ではみんなで仲良くお鍋をつついていた。


「たんと召し上がれ」


 チチリとシュクラがお鍋の具を次から次へと放り込みそれを片っ端から食べていく家族たち。

 こちらの世界でもお鍋料理はある……というよりはメニューは地球と比べ物にならないくらいあるのだ。 多少はニューガン国の伝統食が多いものの、その時々でブームがあり、その中でもお鍋は具と出汁を変えるだけでなんでも食べられるので定番料理になっている。


(問題は具なんだよなぁ……)


 圭人の目の前に鍋が置いてあり、横のイナミと一緒につついているのだが、中には。蜘蛛は勿論、甲虫系がいくつか入っており、それにキノコや野菜が混じっている。


「今日は豪勢だねぇ……」


 嬉しそうに蜘蛛を頬張るイナミ。実は見た目と違い結構おいしい。

 さり気にエビのような味がしていい出汁が出ている。


「ケート君は殻が苦手なのよね」


 そう言ってチチリが殻を入れる皿を前に出してくれるが、圭人が苦手なのは殻ではなく見た目なのだがそれが言えない。意を決して口に蜘蛛を入れる圭人。


(うまいのはうまいんだよなあ……)


 口に入れた感触が微妙に好きになれない。

 リガルティアにおいて食用虫はお手軽な蛋白源になっている。

 中でも蜘蛛のような肉食の虫は農作物を食べる虫を食べてくれるので、農家の心強い味方にも美味しい売り物にもなる。

 さらにはお肉に比べてカロリーも控えめといいところだらけなのだ。


「こんなのエビやカニと一緒だろうが」


 そう言って向かいの椅子に座る羅護は割と平気らしく、バクバクと虫を食べる。


「しょうがないな」


 見かねたシュクラが普通の獣肉を入れてくれる。

 当り前だが、普通に哺乳類の肉も食べられている。

 ただし、牛豚鶏羊だけで終わらず、色んな獣が牧畜されているので、何十種類とあるのだが。


「……アルサは肉が臭いから好きじゃないなぁ」


 横で獣肉に苦情を言うイナミは虫食が好きだったりする。

 そもそもアルサが何なのかもわからない圭人もその言葉に唸る。


(腹が立つことに虫の方が美味いんだよなあ……)


 こちらの肉も結構霜が入っていて旨かったりするのだが断然虫の方が美味いのだ。


 


 味や品質への競争の歴史が長いので必然的に日本よりもおいしい。

 また、競争が激しいので、獣肉よりも多種多様な虫の方がまだ味のバラエティが出しやすい。

 世代交代が早いので品種改良が容易なのも虫の味を上げるのに貢献している。

 栄養価のわりにカロリーが控えめなのも大きい。

 諦めて甲虫を一匹鍋から取り出して口に入れる圭人。口の中で甲虫をなるべく小さくかみ砕く。

 嚙むたびに肉汁があふれて美味しい味が口いっぱいに広がる。


(地球もこんな感じの食事に変わっていくんだろうなぁ……)


 宇宙先進国の文化はどんどんと採り入れられるようになる……と言うよりは

 宇宙人を客として迎えるには現在の食事では『不味い』と評価され、敬遠されるようになる。

 そうなると、観光でも要人の接待でも色々と困るようになる。


 日本でも文明開化で洋食が導入されたのはこういった事情があるのだ。

 圭人が微妙な顔で味わっていると横にタマノが座ってきた。


「ちょっと聞きたいんだが……お前、アイナとなんかあったか?」

「……昨日のこと? それなら昨日話したよ」


 当然ながら昨日の一件は顔を腫らした圭人はイナミと一緒に怒られていた。


「間抜けにもアイナを守ろうとしたってことだけか?」

「むぅ……俺だって武術の達人って知ってたら守ろうとはしてないよ!」 

「そりゃそうだが……」


 珍しく歯切れの悪いタマノが頭を掻きながら聞く。


「いやなぁ。今日珍しく「久しぶりにタマノの家で遊びたい」って言いだしてな。部屋に連れて行ったんだが、その割には妙につまらなそうにしてたからな。聞くのもケートのことばっかりだ。なんかあったのかなって思ってな」

「……なにそれ?」


 不思議そうに眉を顰める圭人。


「別になんもないよ。昨日、ぶつかったのが初対面だし、何も接点はなかったと思うけどねぇ……」

「そうだよねぇ……」


 同じく首を傾げるイナミ。タマノが頭をぼりぼりかいて微妙な顔になっている。


「……自分のせいで怪我したから気にしてただけかな?」

「それじゃない? まあ、俺はあんま気にしてないけど」

「じゃあ、そう伝えとくか。なんかやたら気にしてたからな」


 今一つ納得がいかないタマノ。

 何気なく気になったことがあったので圭人は聞いてみる。


「そういや凄い美人だけど彼氏とかいるの?」


 其れを聞いて困り顔のタマノ。 


「いないなぁ……あいつはどうも男運が無くてな。言いよってくる相手が大概な奴が多いんだ」

「大概って……ああ、なるほど」


 圭人は昨日の一件を思い出す。確かにちょっとアレな男だった。


「昔、あいつはああいったやつらにいじめられたから嫌いなんだ。だが、ああいう奴ほど声をかけてくるから毎回苦労している」

「嫌いなタイプに好かれるんですね……」


 いろんな好みはあるが何故か嫌いなタイプにばかり好かれる人がいる。


「アイナさん嫌そうだったねー。あそこまでボコボコにしたの初めて見た」


 イナミが虫を頬張りながら話す。


「うん? ……ボコボコにした?」


 タマノが不思議そうな顔をする。


「いつもはぶん投げておしまいだぞ? あいつに投げられると痛くて動けなくなるんだ」

「そうなの?」


 今度は圭人が不思議そうな顔をする。


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