第56話 アイナの家族
「いつもはぶん投げておしまいだぞ? あいつに投げられると痛くて動けなくなるんだ」
「そうなの?」
今度は圭人が不思議そうな顔をする。
「連続技を叩きこんで意識失っても攻撃してたからよっぽど怒ってたんだなって思ったけど?」
昨日の一件を思い出す圭人。
最初の一発ですでに昏倒しているのが圭人から見ても分かっていた。
その上でのさらに大技を加えていたので寒気がしたほどだ。
「絶対に再起不能だなってぐらい叩きのめしてなぁ……」
「そりゃおかしいな。あいつは穏便にことを済ませることが多い。ぶん投げて「付き纏うな」と警告することが多いんだけどなぁ……」
不思議そうに首をひねるタマノと「それで穏便なんだ?」という疑問を持つ圭人。
「何の話ししてるの?」
銀髪のみんなのお兄さんトカキがタマノの横に座る。
「私も聞きたい」
トカキの妹のエキエもその隣に座る。
「それがなぁ。アイナが……」
そう言ってタマノがアイナのことを話す。
するとトカキも訝し気な顔になる。
「アイナがそんな風になるのは珍しいねぇ……」
「私も初めて聞く」
エキエが不思議そうにしている。
「やっぱり変なんだ」
唯一アイナのことがよくわからない圭人がようやく納得する。
「僕も子供の時はアイナとよく遊んだけどそんな真似する子じゃなかったね」
「だろ? だから変でさぁ……」
トカキの言葉にうんうん頷くタマノ。
「トカキさんも昔はよく遊んだんですか?」
「そりゃ、タマノの数少ない友人だからね。一緒に遊んだよ。やんちゃなタマノと僕とアイナが静かな方だったから」
「……なんかどんな様子かすぐにわかりますね」
餓鬼大将のタマノが暴れてそれに付いていく二人の様子が想像する圭人。
ところがトカキは少し思い出すように圭人の顔を見た。
「そう言えばケートはアイナのお兄さんにそっくりだね」
「アイナさんのお兄さん?」
「うん、黄人で髪が黒くて、優しいお兄さんだったよ。僕もよく遊んでもらったっけ」
「そういやカラ兄ちゃんに似てるな」
まじまじと圭人を覗き込む二人。
「へぇ……そのお兄さんは今どこに?」
「……軍人になってね。すぐに命を落としたよ」
辛そうに俯くトカキ。
忘れがちだが、住んでいる星系が戦場から遠いだけでアーカム連邦は戦争中なのだ。
「学校卒業してすぐに入隊して向かった先でやられたらしいよ」
「……そうなんですか……」
俯く圭人。なんて言っていいのかわからず言葉を選ぶ。
「どしたのみんな?」
一人だけ美味しそうに鍋をつついていたイナミが不思議そうに尋ねる。
圭人は何も言わずに頭の上をぐりぐりした。
「いたたた! 急になにするんだよ!」
「良いから静かに!」
「いや、いいぞ別に。今更の話だから」
タマノが助け船を出す。
「辛気臭い話になったな。あ~部活始めたんだってな。そっちはどうだ?」
「う~ん。わかるようなわからないような~……」
「なに? 部活始めたのか?」
父親の羅護が驚く。
「言ってなかったっけ?」
「聞いてねーよ」
ちょっとだけ不機嫌そうに応える羅護。
「超法学研究部っていうオカルト研究みたいな部に入ったんだ」
羅護とシュクラが少しだけ眉を顰める。特に羅護は嫌そうな顔をした。
「別にいいだろ? 楽そうだし、面白そうでもあるし」
「ま、まあ、そうだな」
歯切れが悪い羅護。
「別に変な宗教に勧誘されたわけじゃないから安心しろって」
「そ、そうか……」
そう答えるのがやっと羅護。実は夢診断をしたのは圭人に内緒にしてあるのだ。
「あ~じゃあ、その超法学? っていうのか?そこで今は何をやってるんだ?」
「『迷宮』とかいう現象。行方不明事件とかにかかわりがある不思議現象らしい」
「……そうなのか?」
「ああ。なんでもいきなり迷宮みたいなのが現れて、そこに迷い込むって話しだ」
「ケートは何かもらってなかった?」
「そういやもらってたな。これだよ」
そう言って端末を取り出してデータを見せる。
「今はよー分からんけど、こういったことを研究するらしい」
「そうなのか……あ~がんばれよ。だが、のめりこみ過ぎるなよ?」
「わかってるよ……」
そう言って端末をしまう圭人。そしてそのまま立ち上がる。
「さて、そろそろお風呂の支度でもしようか」
「ケート君ごめんね~」
「いいすよ」
チチリの言葉に愛想よく答える圭人。宇宙では大人数家族が多いのでお風呂が広く、普通の家でも二人三人が楽に入れるように設計されているのでその分掃除が大変なのだ。
階段を上り、すぐに戸を開くと温室兼干し物場がある。
ガラスの屋根と窓に仕切られていて夏はかなり暑いのだが、その分乾きやすい。
下が車庫なので水漏れの問題も少ないのだ。
その干し物場に仕切りが作られており、その奥に風呂場がある。
脱衣場には小窓が付いていて、そこから干し物場の洗濯籠に洗い物を放り込むことが出来る。
当然ながら洗濯籠のそばに大型の洗濯機が置いてある。
(誰が考えたか知らんが便利なシステムだよな)
この仕組みは便利なので過半数の家では車庫の上にベランダと風呂場という設計になっている。
家によっては家庭菜園をしているのだが、この風呂場の水を流すとそのまま畑に撒かれる仕組みになってるところもある。
さらにこういったベランダには緊急用の梯子も付いており、一階が火の海になっても二階や三階のベランダを伝って降りられるようになっている。
脱衣場で掃除用具をとってそのまま風呂場に入る。
(いつもながらめんどくさい大きさだ)
大人が3人が入ることで一杯になるお風呂だが、普通の日本の風呂よりも広い。
大人一人なら楽に手足が伸ばせるのだ。
もっとも圭人は下の子供を入れてあげることが多いので、その子らと入る
洗い場も広くお風呂と同じぐらいの広さがある。
その代り気持ちよく入れるのだ。
(さてと。頑張りますか……)
圭人は気合を入れてブラシを手に取った。
登場人物紹介
エキエ・ホタイゴ
圭人と同じ高等生だが年齢的に中学3年ぐらい。
お兄ちゃん大好きっ子でトカキと仲が良い人を嫌う傾向にある。
勉強はできるが運動はダメな子。
白い髪に儚い感じの少女。
カラ
アイナの兄で昔はトカキ達とも遊んでくれたいいお兄さん。
徴兵に送られるも任地先で戦死。
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