第54話 部長は圭人がお気に入り


 その頃、超法学部部長ハーマは家でゆったりとくつろいでいた。

 お風呂上りのアイスをほおばりながら、端末をいじる。


「何やってる? 」


 酒を飲んでいた父親のハラジャが声をかける。

 ハーマと同じく白色のよく似た配色の体つきをしている。


「部活にちょっと熱心な後輩が出来たので資料を作成してやろうかと」

「気に入ったのか?」


 ちょっとだけ嬉しそうな父親。


「ああ。カタン人だがな」

「なんだカタン人か……」


 浮ついた話のない娘がついに好きな男が出来たのかと期待したのだがどうやら違うようだ。

 残念そうに酒を飲む父。


「残念だったな。貴様の娘は中々相手が見つからんようだ」

「自分でいうか?」


 得意顔のハーマに対してあきれ顔の父。


「にしては随分入れ込んでいるようじゃないか。そんな資料まで作ることは今までなかっただろう?」

「未開惑星からの移民でな。こういった神秘的なことが好き……でもないか」

「うん?」


 娘の奇妙な答えに訝し気な父。


「逆か……胡散臭そうに見ていたな。それにしては熱心に見ていたが……」


 口元に手を当て何やら思案顔のハーマ。


「お姉ちゃん遊んで!」「遊んで!」


 双子の妹のエルピとプルツがやってきた。

 ハーマとそっくりで色だけ黒と赤になっている。髪は金色だ。


「疑わしい目で見る割には信じているような……ちょっと変な態度だったな……」

「変わった子だねぇ……」


 父親が不思議そうにつぶやく。


「ねぇ遊んで!」「遊んで!」

「えぇい!今取り込み中だ! クィンに遊んでもらえ!」

「ええ! 姉ちゃんまた俺!」


 クィンは蜂っぽい頭に大柄で緑色の体をしており、同じような顔つきの妹のクシャに本を読んであげていたが困り顔で答える。


「クィン兄ちゃん遊んで!」「遊んで!」

「しょうがないなぁ……」


 大きな体をのそのそ動かして妹に手を引かれるクィン。


「ふぅ……ようやく行ったか……俗物どもが」

「その言葉遣いなんとかならんのか?」

「私の敬愛する。カキバ様の言葉遣いだ」

「誰だそれ?」

「知らんのか?『ズィーガー』に出てくるカリスマ女王様だ」

「アニメかよ……」 


 そう言って父は端末を取り出し、どこかに電話をかける。


「すいません。頭の病気について知りたいのですが……」


 このリガルティアにはセカンドオピニオン(医療相談所)に相当するところがある。

 もっとも医療だけでなく、生活や裁判沙汰などの民事の相談もできるもので無料で出来る。

 そこへ電話し始めた父親に慌てて止めに入るハーマ。


「ちょっと待って! 私はただアニメキャラの言葉遣いを真似しただけで別におかしいわけじゃ……だからやめて! ごめんなさい! もうやらないから! 改めるからお父さんやめて!」


 慌てて端末を奪おうとするハーマ。

 父がかけていたのがただの時報であったことに気付くのはそれから5分後の事だった。



用語説明

 ツリマ人の家族

 

 ツリマ人には面白い風習があり、結婚と終婚と離婚がある。

 結婚期間というものがあり、大体3年程結婚して終わるので終婚という。

 結婚は契約との考えがあり、生涯を通じて共にいるわけではない。

 そのため、家族とは親族から生まれた子供の集まりという考え方。

 エニル制度との親和性も高く、すんなりと受け入れられた。

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