第46話 十傑


「……アイナさん? 」


 イナミが怪訝そうな顔でつぶやく。

 先ほど学校で出会ったアイナが男女10人ほどのグループに囲まれていた。



 今は私服に着替えており、落ち着いた白黒のワンピースを着ている。


「てめぇ! 俺に恥かかせやがって! どういうつもりだ!」


 ドスの利いた声で怒る男。だが、アイナは冷静に答える。


「私はただ、紹介したいから来てほしいと言われてついてきただけよ。それなのに何よ「俺の彼女だ」っていつ彼女になったのよ?」

「う……が……」


 アイナの突っ込みに言いよどむ男。


「お、お前だって俺と一緒にジャイアで歌ったじゃねぇか!」

「あんたが町中でどうしてもって言うから一曲だけ歌ってあげただけでしょ? 大体、この前会ったばかりじゃない。どうしてそれで私が彼女になるのよ?」

「ぐ……」


 男が怒りにぷるぷる震えてながら黙り込む。

 それを見ていたイナミが複雑そうな顔でつぶやく。


「あ~アイナさんも大変だねぇ……」

「ありゃ、ど~みても男の先走りだな。舞い上がるのもわかるけどなぁ……」


 圭人が残念な奴を見るような目で眺めている。

 イシュタもティカも冷ややかな目で様子をうかがう。


「……どうみても男が悪い」

「だな……」


 ティカの言葉に同意する圭人。

 どうやら、無理やりナンパして無理やり付き合わせたことで彼氏面し始めたバカといったところだろうと圭人は推測した。


「アイナさんはああいうの多いんだ。優しいから多少は融通聞かせてくれるんだけどそれで男の方が舞い上がっちゃって勝手に彼氏面し始めるの」

「美しさゆえにか……」


 美人が必ず得するわけじゃないというのは本当なんだと圭人は思った。


「にしても、さっきとは別人ですねぇ。すらすらと喋ってます」


 イシュタが不思議そうにつぶやく。


「いつもはあんな感じだよ。すらすらはきはきしゃべる人で面倒見のいい人なんだ。僕もたまに勉強でお世話になるよ。文武両道の才媛で出来る女って人だから」

「だよねぇ」


 エルメスの言葉に同意するイナミ。


(じゃあ、なんでさっきはあんなにどもってたんだ? )


 ちょっとだけ訝し気な圭人。

 だが、そのうち周りのギャラリーもクスクス笑いを始めたことで男の怒りが頂点に達する。


「ふざけんなぁぁぁぁぁ! 」


 そう言って男が拳を振り上げた。


「やばい! 」


 慌てて止めるために飛び出す圭人。


ドゴォ!


 圭人の顔に重い一発が入り、圭人は吹っ飛ばされる。


「ケート! 」


 慌てて近寄る4人。


「へ! 邪魔するのがわりぃんだよ!」


 そう言って男は再度アイナを標的にしようとして……

 アイナの顔が恐ろしい般若の顔になっていた。


「……なにしてんのよ……」

「あ……う……」


 あまりの迫力に気おされる男。

 男が後ろに一歩だけ下がるとアイナの姿が消える。


ドゴシャァ!


 いつの間にか男を掴んで空中に浮かび上がっていたアイナは男をそのまま床に叩きつける!


 ドゴン!


 あまりの威力に男がバウンドするが……着地したアイナの足が消えると同時に男の姿も消える。


ドゴォ!


 今度は柱に叩きつけられる男!

 その男の腹には既にアイナの左拳がめり込むほど打ち付けられる!

 アイナは片手で男を上へと放り上げ……


ガシャン! ヒュルルル! グシャァ!


 男は天井のシャンデリアに当たり、そのまま落ちてきて床に叩きつけられる。

 当然ながら男に意識はない。

 圭人はイナミとイシュタに支えられながらふらふらと立ち上がる。


「……ひょっとして殴られ損? 」

「……だね。アイナさんはクーザ流武術の達人で素手なら勝てる相手はほとんどいないよ」

「先に教えてほしかった……」


 エルメスの言葉に圭人が涙目になる。


(よく考えれば強面の男相手に一歩も引かないんだから当然か……)


 無意味な真似をしたと後悔する圭人。

 ぴくりとも動かない男を尻目に残った仲間連中をじろりと睨むアイナさん。


「……あんたらもやる?……」


 底冷えするようなアイナの声に倒れてる男を担いで慌てて逃げる仲間達。

 それを見てからアイナは圭人たちに近づく。


「ありがと……」


 ちょっとだけ恥ずかしそうにお礼を言うアイナ。それを見て圭人が苦笑する。


「……助けたのか助けられたのか……余計な真似してすいません」


 圭人が微妙な顔つきでそう答えると慌てて首を振るアイナ。


「そ、そんなことないよ! ケート君のおかげで助かったから!」


 慌てて否定するアイナ。


「と、とにかく逃げないと! 」


 そう言ってアイナは圭人の手を引いて慌てて逃げ始めた。ほかの4人も慌てて一緒に逃げた。



【後書き】

用語説明


 十傑


 シムラー学園における喧嘩自慢ランキング。

 日常系で進む予定だったこの物語ではこのように学園内での何か凄そうな異名が多かったのだが、例によって、完結に急ぐ関係で少しだけしか登場しない。

 本当は学園八王子にして十傑の~というキャラも居たんだけどなぁ……


 描き直したら入れようと思う(;^ω^)


 

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