第36話 隠し事
「……夢か……」
隕石に襲われた時の夢を見て、圭人がゆっくりと目を開ける。
彼は今でもあの時のことが思い浮かんでしまう。
(あの時、おれは何もできなかった……)
教室の隅で震えることしか出来なかった自分に悔しくて泣きそうになる。
ひょっとしたら自分も引っ張れば救えたかもしれない
そんな後悔が圭人の心を苛んでいた。
(英吾、嘉麻、刀和、瞬……)
4人はあの後で突っ込んできた隕石で死んだことになっている。
あの不思議な出来事の後で隕石が教室に直撃したのだ。
中心近くにいたチーボは吹っ飛ばされて3階から落ちて大けがを負い、その時の記憶を失っていた。
(あの時の真相を知るのは俺だけだった……)
仮に本当のことを話しても結果が変わらず、帰ってこないのは同じ。
そして帰ってくるかもわからないのも同じ。
手を目に当てて圭人はつぶやいた。
「絶対助けるからな……」
ようやく真相に繋がるかもしれない糸口が見えたのだ。
超法学というオカルトじみた頼りない糸口だが。
超法学研究と言う希望。
科学も魔法も存在するこのSFみたいな世界で、科学でも魔法でも当てはまらないものを研究するオカルト学問。
この宇宙を二分する二つの技術体系にすら当てはまら無い謎を研究するクラブだ。
だが、真相に繋がりそうなのはこれしかない。
(頑張らないとな……)
まずは情報を集めよう。そう思って起き上がってあることに気付く。
「????」
見慣れた自室ではなく、白い病室だった。
「……そういや検査受けてたんだな」
父親が言うには精神は本人も気付かないうちに心が壊れていることがあるので見てもらった方がいいとのことだった。
「起きられましたか? ケートさん」
白衣の看護婦がにこにこと声をかけてくれた。この宇宙でも看護婦は白衣である。
この辺はあまり変わらない。
「気分は悪くありませんか? 何かおかしな気持ちになってないですか?」
「大丈夫です」
そう言って圭人は立ち上がろうとしてふらついた。
「あ、まだ駄目ですよ。薬が効いてますから……もう少し休んでください」
「わかりました」
「寝転んでいれば端末とかは見ても大丈夫ですからね」
「すいません」
そう言ってナースが出て行った。
ベッドの横を見ると自分の携帯端末が置いてあった。
(ま、いっか)
端末(キテラ)を開き「超法学」に関するサイトを見ることにして、ごろりと横になった。
「……こいつはどういうことだ?」
圭人の父 羅護が目の前の光景に訝し気につぶやく。
「…………」
隣の新妻シュクラも目の前の光景に唖然とした。
二人の目の前にはディスプレイが置いてあり、そこには先ほど圭人がみた夢が映し出されている。
ディスプレイの隣には医者が訝し気な顔で悩んでいる。
「……これがケート君の見た夢です」
リガルティアの医療は進んでおり、夢で見たことを映像に移し替えることが出来るのだ。
さらに、トラウマ等の精神治療のために元凶となった光景を催眠で夢に見させて映像に変えることも出来る。
今回はそういった治療のためにやったのだが……
「じゃあ何か? 英吾君達は隕石で死んだんじゃなくて訳の分からない黒い球にやられたってことか? 」
唸るように尋ねる羅護。だが、医者は冷静に答える。
「必ずしもそうとは限りません。あくまで夢ですので当人の心象風景が映し出されているんです。ですから若干現実との差異はあるんです。自分が美化されてたりとか……」
「それにしちゃ、おかしくないか? 」
シュクラも唸る。どう考えても黒い球が生まれるのはおかしい。
「夢ですから、必ずしも同じ事が起きるとは限らないんです。例えば母親に虐待されているのに母親が化け物に変わって虐待したりすることがあるんです」
「……なるほどね」
シュクラが唸る。
あくまで心象風景らしい。
「それから理解できない言葉はそのまま「雑音」になります。言葉の読解力も顕著に表れるんです。だから相手の言葉をまともに聞いているのかどうかもこれでわかるので犯罪者の反省度の目安にもなります」
「なるほどな……」
唸るように答える羅護。
言葉や行動はいくらでも取り繕えるので心からの反省があるなら減刑もありうるのがこの制度の良い点である。
その代り反省が無ければ問答無用に死刑や懲役刑に直行する。
ちなみにこの世界の懲役刑は徴兵に行くので半分死刑と一緒である。
「だとしたら、この黒い球は一体何なんだ? 」
羅護が不安そうに尋ねると医者が答える。
「恐らくは隕石が落ちる前にケート君達を害した者がいることになりますが、彼が居た町は治安がよろしいですか? 」
「ここ数十年単位で殺人事件は起きていない」
答えると医者は顔を曇らせる。
「例えば…………変質者がいるとか行方不明者が多いとか? 」
「露出狂が出たって話はあったな。すぐに町の大人にみつかってボコボコにされたみたいだが……行方不明者はいることはいるが徘徊老人や家出ばかりだ。子供が誘拐されるような話はない。まして中学生だ。学校内でそんなことが起きるとは思えん」
小学生ならともかく中学生の体は大人に近い。
金剣町は古風な考えで男はスポーツをやると考える者も多い。
教室にいた少年達は全員体育会系である。
女の子一人ならともかく、学校の中で4人の体育会系が誘拐されるのは不自然すぎる。
「特にあの餓鬼どもは中々にしぶといドス坊達だ。大人たちですら扱いに手を焼くありさまだ。そうそうやられっぱなしもないと思うがな……」
医者の顔がますます険しくなる。
「特に英吾。あの餓鬼と来たら常に斜め上の事をやるクソガキだ。その上、アタマが切れるからちょっとやそっとのことでやられるような子じゃない」
「どの子ですか? 」
「自分から黒い球に入って行った子だ」
「ああ、なるほど……」
言われて納得する医者。
「なんというか……豪胆な子ですね。普通はあんな場面で自分から入るような真似はしませんよ」
「あの子はやる。そして必ずどうにかする。そういう子だ」
「……凄い子ですね」
医者は唸りながら見たこともない子供に尊敬の念すら覚えた。
「確かに映像でもそんな感じがします。そうなると……これは本当にあったことになりますね」
「そんな馬鹿な! 」
羅護が椅子を蹴って立ち上がる。
「どうしてそうなるんだ! 」
「行動に矛盾が無いからです。もし、心象風景なら必ず行動に矛盾が生じます」
そう言って医者は英吾が入り込むシーンを見せる。
「この子は明らかにここに謎の黒い球がある前提の行動をとっています。心象風景なら違う言い方、違う行動をとります。ですから間違いなくここに黒い球があったことになります」
「まじか……」
唸る羅護。だが、すぐにあることに思いつく。
「……ひょっとして魔法技術か?」
羅護が恐る恐る尋ねる。魔法技術は科学と対極にある技術体系である。
当然ながら科学で出来ないことも魔法では容易だったりする。だが、医者はかぶりを振る。
「魔法はあくまで科学の対極にある技術体系です。出来ることと出来ないことの差はそんなにありません。こんな魔法は聞いたことはありませんし、空間転移はできないはずです」
「じゃあ、なんなんだ! 」
声を荒げる羅護だが、医者は申し訳なさそうに答える。
「……実は精神医学でもたまにこのような出来事があるんです。科学でも魔法でも説明できない事象が」
「オカルトとでもいうのか……」
困った顔の医者が話を続ける。
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