幽霊観の迷宮
第37話 医者の言うこと
「……実は精神医学でもたまにこのような出来事があるんです。科学でも魔法でも説明できない事象が」
「オカルトとでもいうのか……」
困った顔の医者が話を続ける。
「超法学と言うんですが……明らかにおかしな化け物が襲われた事例があるんです。おそらくはそれではないかと」
「明らかにおかしな化け物?」
怪訝そうな羅護。
「ええ。町中で5mほどの動物に襲われるなんてことあると思います?」
「ありえねぇな。そんな動物入り込む余地なんてねえだろ」
羅護が平然と答えるのも仕方なく、ペットの規制は地球よりもはるかに厳しい。
大人以上の大きさの動物は市街地では飼えないことになっている。
「ですが、市街地のど真ん中で5m台の動物に襲われたとしか思えない傷跡とその通りの夢を見る人が居るんです。勿論、動物園から逃げ出したとか、他でそう言った目撃があったの話すらない。そういった症例があるんです」
「……なんだって? 」
不思議そうな羅護。
「あるいはついさっきまで遊んでいた子供がいきなり消えるなどの行方不明事件も起きるそうです。勿論、親が目を離したすきに溺れ死んでいたとかの話ではなく、本当にいなくなった話です」
「……神隠しとでもいうのかよ……」
さらに唸る羅護だが、医者は続ける。
「正直な話、わたしも信じてはいません。ですが、化学も魔法も万能ではありません。当然ながら私が有している医学知識も科学型なので万能ではありません」
そう言って咳払いする医者。
「ですから起きたことを一度受け入れるのが検証の基本です。この夢診断は裁判の証拠になる精度を誇っています。ですから、この夢を見たという事だけは信じていいです」
「……なるほどね」
シュクラが頷く。
「要は何が起きたかは理解できないが、これを見たのは信じていいという事かい?」
「その通りです」
頷く医者に何とも言えない顔の羅護。
羅護自身は信じていないが、その一方でこのリガルティアの常識もよくわからないことがあるのだ。
納得がいかないながらも椅子に座りなおす羅護。
「ただ、安心してください。精神的には安定していますので病にかかっていることはありません。そこだけは間違いないかと」
「……言い換えればあの夢は真実というのは疑いの余地はないんだね?」
シュクラがチュッパチャップスのような飴を舐めながら険しい顔で尋ねると医者は申し訳なさそうに頷いた。
「そうです……」
「わかったありがとう」
そう言ってシュクラは羅護の手を取り、部屋の外へと出て行った。
外に出ると同時に羅護は不安そうにシュクラに尋ねる。
「なあ、シュクラ。あんなことを信じるのか?」
不安そうな羅護だが、彼自身もこの世界は浅い。
こちらの常識が日本とかなり隔たりがあるのだ。
アレを信じるのは彼から見ればおかしいのだがこの世界では当たり前なのかもしれない。
「信じるわけ無いだろ」
やはり当たり前ではなかった。
羅護の質問に冷静に答えるシュクラ。
「ただ、化学と魔法という二つの理があるんだ。3つめ4つめがあってもおかしくはないだろ?」
「あ……」
言われて気付く羅護。
科学も魔法も万能では無いのだ。
そのため、片方からしか世界の理がわからないのである。
「あたしにすれば科学すらわかんないことだらけなんだ。それに魔法も加えるともっとわかんないことだらけ。でも起きたことは絶対の正義だ。結果は現実。だったらそれが科学か魔法かは後回し。起きたのはなんなのか考えなきゃ……」
そう言って口の中の飴を取り出し……と言っても棒だけになっていたが……をゴミ箱に捨てて懐から新しい飴を取り出してくわえる。
「それに考えるべきはあの子の心だろ? それが問題なければいいんじゃないか?」
そう言ってそのまま羅護の横につく。
羅護も身重のシュクラに合わせてゆっくりと歩く。
「けど……あいつに何て言ったらいいか……」
「……言わなければいいだろ? あの子から言い出すのを待とう」
「……ああ。そうだな」
納得はいかないながらも頭をかく羅護。
そんな羅護を見ながらシュクラは思いっきり腕を振り上げる。
ドン!
「うぉっぷ! 」
シュクラに思いっきり背中を叩かれて羅護が呻く。
「しっかりしろよ。もうすぐもう一人の子供が生まれるんだぞ? あんたがそんなふらふらしてどうすんだ? まずは子供のこと考えなきゃ」
「あ……ああ、そうだな」
そう言って羅護は笑い、入り口で待ってる圭人のところに行った。
用語説明
夢診断
薬を飲ませて催眠暗示を行うことでトラウマの元凶を探り当てて治療する方法。
一方で嘘がつけないので裁判の証拠にもなっている。
たまに謎の異次元空間に迷い込んだかのような夢を見る者も居る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます