第23話 ハロ装置

 ケイオンには商業施設がいくつもある。

 主婦の友といえる格安商店街や、エルドランのような若者の娯楽施設。

 そんなお店の中でシムラー学園の周辺は学園御用立のお店がいくつかある。

 その中の一つが風の街道である。


じゅー


 目の前の鉄板の上で色々な物が焼かれている。

 地球育ちの圭人には身に覚えの無い代物ばかりだが、おいしそうな匂いで大体の味はわかる。


「結局空振りかぁー」


 エルメスが残念そうにつぶやく。


「ちょっと期待してたんだけどなぁー」

「まぁしょうがないよ。そう簡単に思いついたら既に懸賞金は誰かが貰ってるって」


 エルメスのつぶやきにフォローするイナミ。


「そうだよなぁ……」


 そう言いつつも端末から目をそらさない圭人。

 圭人の横でじぃーとティカが圭人の顔を見ている。


「どうした? ティカ? 」

「……なんでもない」


 イナミの言葉にそれだけ言って目をそらすティカ。

 不思議そうに顔を合わせるイナミとエルメス。


「ちょっと整理してみようか。わかってる事は……」


 そう言って圭人は端末を操作した。


①黒髪の美形である。

②春ごろに出る。

③霧に変わる。

④やられると二つの穴が出来る。


「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」


 端末に今までの捜査状況を整理すると全員が言葉を失う。


「……全く進展してないね」


 エルメスがぼやくのも無理ない。

 わかったのは④だけなのだから。


「なんか色々やったような気がするけどこれって公開捜査ファイルに書いてあることから全く進展してないよね」

「……ガンバ」


 呆れるイナミと抑揚無く応援するティカ。

 座席にどかっと腰下ろす圭人。


「この事件が迷宮入りする理由がわかったよ。探っても探っても振り出しに戻るんだから。やってられねぇな」


 やる気なさそうに不貞腐れる圭人。

 それを見てはっと思いだすエルメス。


「そう言えばさ、この吸血鬼事件の最優秀推理ってのがネットであったけど、これはどうだろう? 」


 そう言ってエルメスは端末を見せる。

 そこには「ハロ説」と書いてあった。


「なんだハロ説って? 」

「立体投影装置の事。霧に幻影を投影する装置のことだよ」

「え~と? 」


 そこにはこう書かれてあった。

 

 吸血鬼は霧に変わると言うがこれは霧に変わるのではなくハロ装置を使っているからではなかろうか?


 それなら黒髪の美形というのも証明が出来る。

 要は投影する幻に平均値の顔を使ったから黒髪の美形になるのであってそれ以外の理由が無いのならここだけ証明できる。


「……なるほどな」


 唸りながら答える圭人は窓の外に見える空中に浮かぶホログラフィー映像のようなネオンの光を見る。

 ハロ装置とは店のネオン代わりに使われる装置で、店の看板にも使われている。


「ちなみにあれだよ」

「結構でけぇな」


 窓の外に付いていた看板用のハロ装置を指さすエルメス。

 かなりの大きさで一人用のベッドほどの大きさがある。


「なるほどー。じゃあ、なんでティカの顔に似てたの?」


 不思議そうに言うイナミ。


「それはティカが美人さんだからだよ」


 圭人がぶっきらぼうに答える。


「そこはなんとなくわかってた。ティカに似せたんじゃなくてティカが似ただけなんだろうなって。美人の顔パターンはそんなにないから似たんだろうとはわかってた……ってティカどうした? 」


 顔を真っ赤にして俯くティカ。


「照れちゃったんだよ」

「本当のことだろ?誤魔化す所でも無し」

「そう言うところは天然なのかな? 」

「……なにが? 」


 苦笑するエルメスに不思議そうに言う圭人。


「でもハロ装置か……やっぱりそういうのがあったんだ」

「やっぱりってことは目星はつけてたんだ」

「地球にも似たような物はあったからな立体ホログラフィーって名前だけど」


 大掛かりではあるが似たような装置はある。


「それにあの時の吸血鬼は口を閉じていた。なのに二つの穴がついてた。だから幻影を映していたんじゃないかなってのは考えてた」

「なるほど」


 エルメスも納得する。

 普通、吸血鬼は口を開けてかぶりつく。

 中にはデ〇オのように触るだけというタイプもいるが、基本はかぶりつくものだし、実際に二つの穴が開く以上、そこから吸ってると考えるのが筋だろう。


「実際、公開捜査にも似たような事は書いてあるし」


 見てみるとやはり同じようなことが書いてあった。

 霧に変わったように見えることからハロ装置を使ったのではないかと書かれてある。


「問題は二点。一つはなんで平均顔を使ったのかだ。この前イナミが言った通りで平均顔は美人ではあるけど一般的では無い。そこまで画像処理出来るならもっと自然な顔にする事が出来るのにそれをしなかったのがわからない。2点目はハロ装置が一切見当たらなかったことだ。そのため、犯人が持ち帰ったのではないかって言われてるけどな……ハロ装置ってそんなに小さいのか?」 


 圭人が聞いてみるとエルメスがかぶりを振る。


「投影装置自体は小さいよ。問題は霧の発生装置だね。加湿器みたいなもんだから、人体をカバーするほどの発生装置なら暗闇である事も考慮に入れてもこれぐらいないと」


 そう言って大きさを手で形作る。ちょうど4人机の半分くらいである。


「元になる水があればそうでもないけど、水と装置で合わせるとこれぐらいかな?装置だけならこれぐらいだと思う」


 そういって4人机の半分ぐらいを手で示すエルメス。

 結構な大きさである。

 少なくとも持ち運びは容易では無かろう。

 ましてやあの状況で使えたようには思えない。


「……ん? 」


 圭人の中でなにかが引っかかった。


(なんか……ひっかかるんだよな……)


 しばらくのあいだ。エルメスの大きさが示す形を手で作ってみる。


「どうしたのケート? 」

「なんか引っかかるんだよな……」


 何かが繋がりそうで繋がらない。

 圭人はうんうん唸ってた。


「ずっと引っかかってるんだよ。ここまで来てんのに出てこない感じ」


 そう言って喉元に手を当てる。


「それが小骨が喉に刺さってるみたいでさ。ず~~と引っかかってんの。だから答えを出したいんだよ」


 そう言って端末に目を落す。


「それに……このままじゃ吸血鬼が人を襲うたびにティカが疑われるだろ?……友達が冤罪で疑われるなんて嫌だろ」


 そう言ってティカに同意を求める。恥ずかしそうにコクンと頷くティカ。


「じゃあ、友達としてできることはせんと俺は納得しない。だから吸血鬼事件が治まるまで一人でもやる」


 そう言って端末を睨む圭人。全員がお互いを見あってふふっと笑う。


「僕にもその公開データちょうだい。今日、家で考えてみるよ」

「私も~」

「……私もやる」


 そう言って口々に端末にダウンロードする4人。

「そう言えば魔法でやるならもうちょっと簡単に出来んのかな? 」

「その場合は大きな杖が必要だけど、やる時は本人が水のすぐそばにいないと・・・警察もバカじゃないから、不可思議な事件が起きると真っ先に近くに居る杖持ちを探すんだ。そのせいで携帯できるのは小さい杖に限られているし……」


 エルメスが教えてくれる。圭人は不思議そうに首を傾げる。


「ひょっとしてアルヴィスとかユカナ先生が持ってたドでかい杖は十分犯罪なのか? 」

「ユカナ先生はしらないけど……アルヴィスのは杖としてデカイのかな? どちらかと言えば殴るために大きいような気がする……」

「それはそれで問題じゃないか? 」

「まあそうなんだけど……」


 圭人が突っ込みに軽く答えて端末を操作するエルメス。


「う~ん……やっぱり魔法の方が難しいみたいだね。霧の発生装置は科学を使った方がコンパクトだよ」


 エルメスが調べてくれた情報を見てみる圭人。どうやら霧の発生にはデカイ杖が必要なのと投影装置自体が遙かに大がかりになってしまうようだった。


「合わせ技も難しそうだな……」

「ハロ装置の方がまだ現実味があるね」


 圭人とエルメスではぁとため息をつく。そしてちらりと横を見る。


「……難しい」


 圭人の隣でティカが頭から湯気を出している。


「これおいしい! 」


 すでに飽きたのか端末を放り捨てて食べることに専念したイナミ。

 触角を嬉しそうに動かしながらはぐはぐと食べながらイナミがしゃべる。


「一度超法学研究部に聞いてみたらどうかな? 」

「超法学研究部? 」


 聞きなれない単語に圭人は首を傾げる。


「科学でも魔法でも説明できない現象を調べている部活だよ」

「……そんな部活があるんだ……」


 圭人が驚いたように呻く。エルメスが笑う。


「学校の怪談とか歴史の謎とかを調べる部だよ。陰謀論なんかもあるね」


(要はオカルト研究部か)


 これだけ技術が進んだところでもそういったものがあることに驚く圭人。


「……友達がいるから声かけてみる? 」


 ティカがネズミのようにちょこちょこと食べながら声を出す。


「そうなの? じゃあ、明日辺りいこうか? 」


 圭人がそう言うととゆっくりとティカが端末を操作する。

 するとすぐに相手から答えが返ってきたようだ。


「大丈夫だって……」

「よし! じゃあ、行ってみるか! 」

「とりあえず、食べる物食べない? 」

「そうだな」


 そう言って圭人とエルメスが食べ始めた。

 ちなみに帰る途中でぼろぼろになった女先生三人が仲良く居酒屋に入って行くところを見てイナミが「仲いいねぇ」と言っていたが圭人は苦笑しただけだった。


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