第22話 国際問題は難しい
中に入ってきたキナミ先生がユカナ先生とすれ違いながらドスの利いた声で呟く。
(てめぇ後でおぼえてろよ!)
(上等だ! 相手になってやる!)
小声で先生が話しあってるのが聞こえて冷や汗が消えてくれない圭人であった。
先生は何事もなかったのかのようにニコニコ笑って交代する。
ユカナ先生が外に出ると改めて端末をいじるキナミ先生。
「では、魔法に付いてざっと理解できたところで話を先に進めますね。アザース星系においては科学型で発展しました。ですが衛星ギニューの取り合いからお互いの生命体の存在を知り、アウルを抽出することが出来るようになったんです」
「それって……」
嫌な予感が止まらなくなる圭人。
キナミ先生が少しだけサディスティックな笑みを浮かべて資料を広げる。
「これがその時の映像です」
「……」
見た瞬間圭人は吐き気を催した。
キナミ先生のようなツリマ人がズタズタに切り裂かれて箱詰めされている。
だがそれは1枚だけではない。
もう1枚はカタン人がズタズタに切り裂かれて箱詰めされている。
しかも二枚とも切り裂いてる奴が嬉しそうな顔をしているのだ。
「元々、お互いのことを人間扱いしていなかったのでそれはそれは残虐な応酬になり、互いの体が武器に変わると知った途端、今度は死体の取り合いが始まりました。当然ながら取り合うのは死体だけでなく捕虜の体も取り合いに発展してお互いに惨たらしい応酬になったそうです」
顔を青くして俯く圭人。ここまでとは思わなかったのだ。
「とはいえ、悪いことばかりではありません。これによってアウルを抽出できるようになり、アウローラへの道が開かれたのと、お互いの言葉を理解しようという動きもあり、100年ほどで停戦を迎えました」
「……100年もかかったんですが? 」
よくできたなと思う圭人。
「さすがに百年の戦争は経済的にダメージが大きかったようで、お互いに自然収束したようですね。衛星ギニューの最大の激戦地パッドにて停戦協定が結ばれ、ギニューは中立地として、一切の手出しをしない約束で一応終わりました」
パネルには両生命体の代表が握手をする様子が分かる。
「これ以降、お互いの交流が始まったわけですが、一番の関心ごとはアウルでした。これは単に互いの生命体の体を使えば出来るもので、知的生命体を使うよりはるかにローコストで出来ることも分かり、ここから急速に仲良くなっていきます」
キナミ先生が出したパネルには両生命体の子供同士が仲良く笑って写真を撮っていた。
今も公園で見かける優しい世界である。
「さらに互いの作物が耕作障害に適していることも分かり、さらに交流が深まって人口も倍増。互いの星に人が行き来できるようにまでなります」
ここでもう一度手を上げる圭人。
「あの……交流が深まる前に行き来できるようになるのでは? 」
「それは無理ですね」
あっさりと否定するキナミ先生。
「例えば、先生はあなたの星のチキューには行くことが出来ないんです。これ食べます? 」
そう言って持ってきたお菓子を渡すキナミ先生。
先ほど机で食べていたお菓子だ。
「いただきます」
そう言って圭人はもらったお菓子を口に入れる。
それと同時に何とも言い難い表情に変わる。それを見てくすくす笑うキナミ先生。
「口の中のものを出して、ゆすいできなさい」
慌てて水道に向かう圭人。
ペッと吐き出して口をゆすぐ。
ぐったりした顔で部屋に戻ると嬉しそうな顔のキナミ先生が待っていた。
「生命系統が違う物は食べられないんです。それ以外にも病気になっても見てもらう相手が居ないとか、いろんな問題が発生するんですね」
「なるほど……」
気持ち悪そうになりながらも頑張って答える圭人。
「だから最初は軍用設備が残っているギニューで交流を深め、相手の国の大使館近くにしか行けない状態から少しずつ広げ、ようやく互いの国を自由に行き来できるようになるんです」
「……時間がかかるんですね」
顔を青くして答える圭人。
地球上であればどんな僻地であっても同じ系統の生き物がいる以上、それを食べることが出来る。
それだけでなく、医者が居れば見てもらえる。
だが、そんな当たり前のことも許されないのだ。
一見すると何でもあるように見える都市も、何もない砂漠と一緒になるのだ。
「ですから、この時代は戦争もなく平和な黄金期でもあったのですが、ここにブランディールが外星系から現れて維新時代へと突入するのです」
そう言ってキナミが端末をしまう。
「何か質問はありますか? 」
「ありません」
圭人の言葉を聞いてニコニコ笑うキナミ。
「聞いてますよ。最近、吸血鬼を探しているそうですね」
「……はい」
ばつが悪そうに頭をかく圭人。
「元々ツリマ人が分かりにくかったのでそれを調べるついでだったんですが……こんな歴史があったんですね」
「そうです。まあ、仲良くなったとはいえ、やはり差別はどうしても残ります。恨みに思ってテロに走る人も少なくはないですね。そこまではいかなくても変な政治活動を始めたりする人も多いです。例えば国の参政権を認めろとか」
「それはいいのでは? 」
圭人の言葉に首を振るキナミ。
「ライオーグとアーカムでの不可侵の取り決めがあって、互いの国政に関与しないというのがあります。そうしないと、下手すると双方の首脳がツリマ人のみとかカタン人のみになるんです。そうなると流石にまずいですよね? 」
「あ~……」
一度権力を握ると訳が分からないことも平気でやり始めるのが人である。
そしてその自制が出来る人間は少ない。
「カタン人同士なら「三世権」とも言われていて三世代前から居た人だけが出来るようになってるんです。そうでないと国を乗っ取る話も出てきますからね」
「そういう話ってこっちでもあるんですね……」
世知辛さを嘆く圭人。
移民問題は地球だけの問題では無かった。
「もっとも、今は主要国一国でも百億近い人口が居るので乗っ取りは難しいですし、国ごとにそんなに違いはありませんから乗っ取りの意味は無いですけどね」
クスクス笑うキナミ先生。
「ちなみに先生はライオーグ星から来たんですか? 」
「そうですね。先生の家が職を求めて30年程前にここに来たんです。こう見えても、この学園の卒業生なんですよ? 」
「そうなんですか? 」
「ええ、昔はリュイやユカナ達とこの学校の番を張って『三狂獣』と言われていましたから……」
「……あの番長は伝統なんですね」
あきれ顔の圭人。
それに対してキナミ先生は懐かしそうに目を細める。
「そうですよ。桃色の狂猿ユカナ、赤い狂鳥のリュイ、白い狂犬のキナミと恐れられたものです」
「狂犬はわかるんですけど狂猿とか狂鳥ってなんですか? 」
「他の群れを見たら捕まえて四肢を食いちぎる猿がフルデ星に居るんです。狂鳥はロシャ星の人間を食い殺す巨大雉ですね。どちらもあの二人の故郷ですから、それにちなんでついたあだ名です」
「多分、あだ名っていう生易しい言葉ではないと思います」
異名とか二つ名とかそういう言い方のものだろう。
恥ずかしそうな先生と冷めた目で見る圭人。
「その後は確か……あなたのお母さんになるシュクラが総番を務めて狂獣王といわれてましたね。シュクラは元気ですか? 」
「その話聞きたくなかった……」
思わず頭を覆ってしまう圭人を見ながら先生は笑う。
「まあ吸血鬼にツリマ人は関係無いと思いますよ。これもう一度食べます? 」
「遠慮します」
クスクス笑うキナミ。
「そういう事です。吸血するという捕食はツリマ人には関係無いんですね。血液はどちらも量産可能なのであえて採血するのは健康チェックの時ぐらいですね」
キナミ先生の言葉に憮然とした顔の圭人。
「過激派がカタン人にテロしてるのならそれにしちゃ大人しすぎますし、意味があるようには見えない。だからツリマ人は関係無いと思いますよ」
「勉強になりました」
「大方、過激派の行動かなと思ったんでしょう? 」
「はい。意味のある行為なのかなーって思って」
圭人は昔の戦争でそういった行為があったのかと思って調べていたのだ。
何かの報復が関係してるかと思っていたのだが……
「結局、空振りかぁ~」
「残念でした♪ 」
嬉しそうに笑う先生。
悔しそうに笑いながら圭人は職員室を後にした。
職員室のドアを閉めると同時に聞き覚えのある叫び声が聞こえる。
「勝負だユカナぁぁぁぁぁぁぁ!!! 」
「上等だキナミぃぃぃぃぃぃぃ!!! 」
「あたしを忘れんじゃねぇぞキナミぃぃぃ!!! 」
「駄肉は引っ込んでろぉぉぉぉ!!! 」
「てめぇも殺すぞユカナぁぁぁぁぁ!!! 」
職員室から聞こえる雄たけびは聞いてない事にして立ち去る圭人であった。
【後書き】
登場人物紹介
キナミ先生
何故か水樹奈○みたいな声のツリマ人の先生。
白い狂犬と呼ばれており昔から顔を見ただけでみんな逃げる程の危険人物。
なんでツリマ人という変わった人間にこの声をイメージさせたのかは後々に判明します。
ユカナ先生
何故か田村ゆ○りみたいな声の先生。
ピンクファッションが大好きでピンク色の服を好む。
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