第24話 宇宙の学生の○○事情

 4人がいつものように授業を終え、圭人はジュースを飲んでいると一人の少年から声がかかった。


「どうだケート? 吸血事件は進んでるか? 」


 同じクラスの男子生徒のマリードが声をかけてきた。

 マリードは短髪の快活は性格でエルメスの次によくつるむ相手である。

 圭人も男同士で話したいこともあるのでそう言ったときはマリードとつるんでいる。


「あんまり……今日は超法学研究部に行ってみるところだよ」

「あそこは女ばっかだぞ? やめとけよ」


 そう言って圭人と肩を組むマリード。


「ただでさえ男は肩身が狭いんだ。部活までそんな思いするこたねぇよ」


 そう言って笑うマリード。その言葉に苦笑する圭人。


(英吾が聞いたらどう思うかな? )


 女の子のことばかり考えていたバカな友人のことを思い出す圭人。

 実際彼の言う通りで、教室の3分の2は女生徒である。

 だが、これはここに限った話ではない。全ての星系で女性の方が多いのだ。


 理由は簡単。エニルシステムにある。


 エニルシステムは家族の最終形態とも言われているがそれはなにも便利だからではない。


 家族の仕組みの関係で女性の方が有利なのだ。


 自由恋愛が尊ばれるこの世界では、子作りの相手にずっと添い遂げる必要性がなく、みな自由に相手を選んでいる。

 中には相手が居なくても人工授精で子供を作る者も多い。

 そうなると女性として生まれた方が子育てがしやすく、老後の心配も少ないのだ。

 男性の場合、人工授精で子供を作るのに、わざわざ代理母を探さなければいけないのもデメリットになる。

 ここに産み分けの技術や、遺伝操作の技術も加わって、女の子を産んだ方が得の風潮が出来上がる。

 さらにこれが原因で女性の社会進出が促進されており、職場の男女比率は半々か女性の方が多いのが当たり前になっている。


「兵隊ですら男女比率が半々なのにわざわざ女ばっかのところに行く必要ねぇよ」


 そう言ってマルが笑う。

 ちなみにそう言うマルもすでに彼女はいる。

 この学園では彼女が居ない男の方が珍しいし、居るとすればよほどの変わり者か、エルメスのようにモテすぎて対応できない者か、である。

 圭人は遥かに格下の未開惑星星人なので、差別というほどでは無いがモテない。


(女に苦労しない奴はうらやましいねぇ……)


 素直にうらやむ圭人だが、マリードの言い草に近くの女生徒が声を上げる。


「よく言うわよ。ミルナを産休にさせた男が言うこと? 」


 ぶっ!


 いきなりの衝撃発言に飲んでたジュースを吹き出す圭人。


「ちょっ! お前!なんつーことを! 」

「うん?ああ、さすがに止めた方がいいって言ったんだけど聞かなくて別れたんだ。多分、そろそろ生まれるんじゃないか? 」

「なにさらっと酷いこと言ってんだよ!責任取ってやれよ! 」

「……え? 」


 不思議そうに首を傾げるマリード。

 それどころかマリードを非難した女性まで首を傾げている。

 するとエルメスが慌てて間を遮る。


「ほら! ケートは未開惑星の生まれだから! こっちの感覚がまだわからないんだよ! 」

「あーそうか……」

「そっちじゃ責任なんてもんがあるんだ……」


 それを聞いてわれに返る圭人。


「えっと……こっちの方じゃそういうのありなの? 」

「ありだよ! 子供を作るかはエニルで決めたのなら生んでいいの! 子供はエニル全体で育てるから!だから子供が出来たらエニルが責任を取るの! 」


 これもエニルシステムの影響である。

 子供をエニル全体で育てる以上、エニルが了承したのであれば生んでいいのだ。

 勿論、エニルが拒否した場合は堕胎か出て行って子供を育てなくてはならない。

 そうなった場合は地球のシングルマザーと同じで非常に生活が苦しくなる。


「まあ、さすがに学生の身分で他のエニルに移るってわけにもいかなくてさ……こっちのエニルに来てもらうわけにもいかなかったから仕方なくだよ」


 マリードが恥ずかしそうに答える。


「なんかいろいろすげぇな……」


 圭人は改めて宇宙の常識にびびっていた。


「まあ、ケートの気持ちもわからなくもないかな?好きな人と同じエニルで幸せに家族生活を送るのがこっちでも理想的な考えだし……ただ、彼みたいな場合も一概にダメと言ってないだけだから……」


 エルメスの補足説明で納得する。

 要するに悪いことではあるが世間的に非難されるほどでは無いのだ。

 うるさい奴はうるさい程度なのだろう。


(よく考えればうちも親父以外はシングルだな)


 改めて宇宙の懐の広さに感銘を受けた圭人だった。

 そんな話をしているとティカが近寄ってきた。


「……私はケートの考え方の方が好き」

「え? ああ……うん。ありがと? 」


 ティカの奇妙な宣言に変な感じを受ける圭人。


「私は旦那様と一生添い遂げたい方」

「……そうなんだ」

「……一緒でよかった」

「……そ……う……だね? 」


 なぜか微妙なことを言うティカに不思議そうに言葉を返す圭人。


(なんなんだろう急に? )


 ティカがそう言って急に圭人の横に立つ。


(そう言えば最近ティカはよくこの位置に立とうとするな……)


 ちょうど、圭人の右に20㎝ほど離れて立つことが多い。

 そんなことを考えていると何も考えていなさそうなイナミの声が上がる。


「ケート~。そろそろ行こう? 」

「わかった~。じゃあなマリード。ちょっとは相手の気持ち考えてやれよ」

「わかったよ。お前も考えてやれよ~」


 マリードの言葉に手をひらひらと返しながら圭人は超法学研究部に向かった。

 心の中で「誰の? 」と突っ込みを入れながら……。


 超法学研に向かう渡り廊下で圭人はぼやく。


「しっかし、ああいうのが許されるとはなぁ……つくづく常識が違うんだなぁ……」


 周りの平然とした様子にショックを受ける圭人。

 日本なら退学処分も当たり前のレベルである。


「仕方ないよ。エニルによっては15歳以上は子供を産まないと肩身が狭くなるところすらあるんだ。国も多産を奨励してるから、学生時代に子供を作ることは推奨はしてないけど、若い人が子供を作ることは推奨したりしてる。だから何ていうんだろ? 片方ではダメだと言って片方では良いと言ってるんだ」

「ダブスタか……」


 要は公的に暗に作れと言ってるのだ。


(まあ、政治談議は関係ないか)


 あまり楽しい話題でも興味があるわけでもないので、違う話に変えようとすると前を歩いていたティカがある部屋の前で止まる。


「ここがそう」


 ティカが止まったのは中央棟の部室エリアだった。

 中央の建物は科学魔法、シリコン生命、炭素生命の4つの項目に関係のないものが集まると言っていい。

 選択授業における語学や経済などの教室や、講師を呼んでの全体授業などをする広間などもある。

 部活動は基本関係のある所に部室がある。


 科学部、魔法部は科学棟、魔法棟にあるし、スポーツ系クラブはカタン人棟、ツリマ人棟で身体的差が出るので個別でやっている。


 だが、逆に身体的技術的差が全く出ない部は中央棟にある。

 チェスなどのボードゲーム系クラブや漫画部などの文化型のクラブは全部この中央棟へ押し込められる。


 そんな文科系クラブの部室が並ぶところにその部はあった。

 中の様子が真っ暗なので分かりにくいが、上に超法学研究部と簡素なプレートが付いていた。


「入るよー」


 ティカはそう言って超法学研究部の戸を開いた。



 用語説明


 産休


 ダブスタな政府の対応により生まれた制度で学生でも産休がある。

 おじさんの個人的意見だが、確かに学生時代に子供作るのは良くないことだが、子供を作っても学校に復帰できないのはもっと問題だと思う。


 未来ある子供の親にちゃんとした教育の機会を与えられないのは『教育の義務』に反していると思う。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る