第13話 朝のトラブル

 ケイオンの朝は車が空を飛んでる事を除けば日本の朝の風景と大して変わらない。


 どんなに文明が発展しても基本的な部分は変わらないのだ。

 人類が宇宙を股にかけて仕事をしていると言っても、出来るのは大企業のみで多くの企業は地上で活動している。

 多少の景気の浮き沈みはあるものの、このケイオンは景気がいい方で治安もよく、学生の多くは学園が遠い事もあり、自転車で通学している。


「自転車借りてごめんな」

「別にいいよ。ふにゅぅ」


 自転車を二人乗りしている圭人とイナミ。

 圭人は昨日、自転車で帰るのを忘れてエルドランに置きっぱなしだったのだ。

 女の子たちがしばらく歩こうと言いだしたのと、例の事件のせいで自転車を忘れてしまい、朝からイナミを後ろに乗せて疾走している。


「むふん」


 辛そうに漕ぐ圭人とちがってやたら満足げなイナミ。


「おはよう! 」


 声に振り向くとエルメスが自転車をこいで走ってきた。すぐ隣に並走する。


「酷いよケート。昨日は置いて行っただろう? 」

「わりぃ。事情聴取受けててさ。警官に助けるようにお願いしたんだけどどうなった? 」

「冗談じゃないよ。警官が来たらあの子たち僕を置いて逃げてったんだよ。おかげで僕だけその場で事情聴取だったんだよ。まあ、軽く聞かれただけで終わったんだけど」

「なんかあったの? 」


 イナミが不思議そうに尋ねるが慌てて首を振るエルメス。


「な、何でもないよ!こっちの話し! 」


 しどろもどろ答えるエルメス。むぅと唸るイナミ。

 エルメスが必死の目くばせで圭人に助けを求め……圭人が苦笑する。


「今度カラリアの花見に行かないかって話してたんだよ。イナミも行くだろ? 」

「そうなの? う~ん……メンバー次第かな? 誰が行くの? 」

「俺とエルメスとティカはどうだ? 」

「じゃあ行く」


 嬉しそうに答えるイナミとほっとするエルメス。

 そうこうしてるうちに学園に到着する。

 

 アカシア学園は4つの校門があり、それぞれが別々の校舎になっている。


トールキン寮はカタン人の魔法科

ラキア寮はツリマ人の魔法科

パロボ寮はツリマ人の科学科

アイザック寮はカタン人の科学科


 これは人種で食べ物やトイレまで違うので一緒に出来ないのだ。

 そのため、ツリマ人カタン人で境界線が一つ出来る。

 言わば食堂や保健室、体育などの生理的、生物的に差が起きやすい所で分けてあるのだ。


 次に科学と魔法で教える事が大幅に変わる。

 どちらも世界の真理を探究する学問なのだがアプローチが全く違うので教え方も変わってくるのでここでも境界線が出来て、四つに分かれる。

 基礎的な数学、全く関係ない歴史や言語などは困らないのだが、教科によっては合同に出来る事は合同にしないと管理が大変なのだ。


 そのため、この銀河系リガルティアでは四つに分かれる四角形を基本とした校舎になるのが普通だった。

 そして圭人達はアイザック寮の生徒である。

 そのアイザック寮の校門に向かうと……


「……なに? 」


 イナミが怯え始める。

 校門の前では何故か魔法科のトールキン寮の荒くれが待ちかまえていた。


「……」


 何も言わずに無言で待ちうける彼らから遠ざかるようにそそくさとみんなが校門を通る。


「ちょっと待て」


 そう言って一人の黒髪の女生徒に声をかけ、無理やり肩を掴む。


「ひ! 」


 怯えて震える女生徒を荒くれの方に見せる。


「違います。その女じゃないです」

「そうか。悪かったな」


 そう言って荒くれが女の子を解放する。

 黒髪の女生徒はそそくさと去っていった。


「何やってんだろ? 」


 不思議そうにエルメスが呟く。


「あいつら吸血鬼を探してんだよ」

「吸血鬼? 昨日の? 」


 エルメスが不思議そうにつぶやく。


「吸血鬼が何故かアイザックの紋章付きの制服着てたから、吸血鬼がアイザックに居ると思ってんだ」


 そう言って昨日、タマノに聞いた話を説明する圭人。

 それを聞いてエルメスが納得する。


「そんな事があったんだ……ちょっと待って」

「どうした? 」

「それだとティカが見つかるとまずいんじゃ……」

「いました! コイツです! 」


 エルメスの危惧したとおりにティカが彼らに見つかった。

 自転車から降りたティカがきょとんとしている。


「まずいな」


 荒くれがティカを囲み始める。

 ティカはと言えば無表情に周りを見渡している。


「アルヴィスさん!こいつが吸血鬼です! 」


 男の一人がそう言うと昨日の大男が現れる。

 ぎらりとした目を光らせてティカを睨む。


「こいつが吸血鬼か……待ちわびたぜぇ! 」


 そう言って棍棒を取り出す。

 ティカはといえば未だに状況を理解していないのかきょとんとしている。


「こっちに来て貰うぜ」


 そう言ってティカの腕を引っ張ったその時だった。


「その子は吸血鬼じゃない! 」


 そう言って圭人が前に出る。


「何だてめぇは? 」


 スキンヘッドの大男=魔法科トールキン寮の番長であるアルヴィスがじろりと圭人を睨む。

 それを見ても圭人は一歩も引かずに前に出る。


「その子は吸血鬼じゃない」


 そう言って逆に睨みかえす。


「あんだとコラ! 違うってんなら証拠だせや! 」


 そう言って怒鳴り返すアルヴィス。

 だが、それにひるまずに圭人は自分の腕をティカの口元に出す。


「噛んで」

「……なんで? 」


 いきなりな状況に困り顔で尋ねるティカ。


「いいから急いで噛んで! 強めに! 」


 もう一度強く言ってティカの口元へと腕を押しやる圭人。

 仕方なく、ぐっと噛むティカ。


「OK。そこまで。見ろ! 」


 そう言って圭人がティカに噛まれた場所をアルヴィスに見せる。


「これが吸血鬼の歯型か? 」

「……あ……」


 ティカを吸血鬼呼ばわりした男が声をあげる。

 どういうことか気づいたのだ。


「下の歯型がついてるだろ? 」


 当たり前だが噛んだときに下の歯型も付く。

 上の歯型だけ付くのは不可能なのだ。圭人はそう言って端末を動かす。被害者の傷痕が出てくる。


「これを見ろ。吸血鬼は何故か二つの穴しかつけない。普通は上の犬歯だけの歯型をつけるなんて不可能だ」

「そりゃ、下の歯型が時間とともに取れただけだろうが! 」 


 アルヴィスは怒鳴る。圭人は冷静に答える。


「俺も昨日吸血鬼に出会ったが歯型は二つしか付いてなかった。理由はわからないが吸血鬼は二つしか歯型をつけないんだよ」


 じろりとアルヴィスが一人の男を睨む。

 すると男は怯えたように答える。


「確かに歯型は二つしか付いてなかったっす。けどそいつは間違いなく吸血鬼っす! 俺は見たんすよ! 」

「だとよ。聞いたか? 」


 にやりと笑うアルヴィス。

 だが、圭人はひるまない。


「俺も昨日見た吸血鬼はティカそっくりだったな」

「じゃあ間違いねぇじゃねぇか」

「角はついてたか? 俺が見た吸血鬼には付いてなかったぞ?」


 とたんに押し黙るアルヴィスと男達。


「それから髪型はまるで違ってたぞ。ティカは足元まで届く髪だが、吸血鬼は肩ぐらいまでしか無かった」


 そう言って肩のあたりに手を当てる圭人。

 アルヴィスがジロリと睨む。


「うっせぇな。だからどうだってんだ! そいつは関係あるに違いねぇんだよ。だから色々聞かせてもらうぞ」


 そう言ってティカの腕を掴むアルヴィス。

 だがそのアルヴィスの腕を別の腕が掴む。


「そこまでにしときな」


 アルヴィスの腕を掴んだのはタマノ姉さんだった。


「その子はケートが吸血鬼を見た時にウチのイナミと家で遊んでいたんだ。全くの別人だよ。わかったらその手を離しな」


 そう言ってじろりと睨む。

 いつの間にかアイザック寮の荒くれが集まっており、トールキンの荒くれとにらみ合いを始めていた。


「……ふん! 」


 そう言ってアルヴィスがティカの腕を離すと、同時にタマノがアルヴィスの腕を離す。


「やっぱりてめぇをやっとかねぇと話しがすすまねぇみてぇだな」


 そう言って棍棒を取り出すアルヴィス。

 それを見てにやにや笑うタマノ。


「随分立派な物を取り出したじゃないか……それでどうするんだい? 」

「決まってんだろーが!てめぇの頭かち割ってからその腐れマ〇コに刺してやるんだよ! 」


 そう言って怒鳴りつけるアルヴィス。

 その肩にぽんっと手が置かれる。


「どういうことかなアルヴィス君? それは犯罪予告と受け止められるんだけどな? 」


 後ろには学校警察の人が立っていた。

 たちどころに顔面蒼白になるアルヴィス。


「いや……その……」

「ちょっとこっちに来てもらおうか」

「放せ! 」


 暴れながらもずりずりと引きずられるように連れて行かれるアルヴィス。

 残ったメンバーに対してタマノが睨む。


「一応言っとくが吸血鬼とこの子は本当に無関係だ。警察で確認してもいいよ。だからアイザックに手を出すんじゃないよ! 」

「ううう……」「ちくしょう! 」


 悔しそうにブツブツ文句を言いながら下がる荒くれ。

 アイザック寮の生徒から拍手が送られる。


「さすがタマノさん! 」「最高だ! 」「胸がすかっとした! 」


 それに答えるタマノ。

 それからすぐに圭人の方を見る。


「よくやった。後は私が何とかするよ」


 そう言ってタマノが立ち去ろうとする。

 だが、そのタマノの肩をぽんっと叩く者がいた。


「立派だったわよ」


 にっこりと笑うリュイ先生。

 そのままタマノの肩をがっちりと掴む。


「でもちょっと忘れてる事があるみたいねぇ」


 ニコニコ笑顔が崩れないリュイ先生。

 周りを見渡してからゴホンと咳払いする。


「ここに居る全員に通達します! 」


 そう言って指でアイザック寮を指さす先生。


「全員遅刻です。ろうかで立ってなさい」


 その場に居た全員が微妙な顔になった。



用語説明


 番長や救急車

 

 昭和における不良グループのボスとけが人や急病人を搬送する車。

 当然ながら本来は存在しないのだが、他に適当な言葉が無いので使っています。

 この物語にはちょくちょくこういった語句が出ますが適当な言葉が無いので使っていると思ってください。

 ちょっとぐらい許してちょんまげ。

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