第12話 失ったもの

 その日、圭人は夢を見た。


 圭人はいつもの5人とともに学校から帰っていた。

 社教センターという公共施設に付属している公園でベンチに座りながらあるものを見ていた。


「こんなところにエロ本捨ててけしからんなー」

「全くだな」

「おかしいよね」

「子供がみたらどうするつもりなんだろう? 」

「もっと考えて捨ててほしいな」

「それ見てるあんたら全員同罪なんだからね」


 口々に文句を言いつつガン見する男子五人をあきれ顔で見渡すショートカットの女の子。


「見ろよ瞬。赤毛の外人は下の毛の赤毛だぞ!」

「え? そうなの? 」


 そう言ってエロ本見るのに加わる瞬と呼ばれた女の子。


「お前もエロだな~」

「……なんか言った英吾? 」

「痛い痛い!なんでもありません! 」


 英吾と呼ばれた少年は瞬に腕を捻じ曲げられて泣きを入れていた。


「英吾は一言余計なんだよ」

「圭人には言われたくないぞ?」


 眼鏡の圭人に突っ込みを入れる左目の下に涙ボクロのある少年。

 彼の名は英吾と言う。


「そういや地毛を調べるのに眉毛見るとわかるって言うな。エマ=ワ〇ソンも眉毛は黒だし」


 豆知識を披露している強面の黒人ハーフの少年は嘉麻と言う。


「なるほどな。今度注意して見よう」


 涼し気な顔で同意する大柄な眼鏡は「チーボ」のあだ名を持つ大上である。

 そして体の小さな小太りの少年が思わずつぶやく。


「しかし綺麗な体してるね~。瞬みたいだ」

「刀和。褒めてくれてありがたいんだけど……いつ見た? 」

「ち、違うよ! いつもの水着姿で言ってるんだよ! 」


 瞬に後ろ首を掴まれて慌てて弁明するチビデブの少年は刀和と言う。


「最近水泳部の着替え中に変な視線感じるんだけど? 」

「ご、誤解だよ! 裸を見たことはまだないから! 」

「まだ? 」

「よし! みんな帰るぞ! 」

「「「「おう! 」」」」


 刀和以外の全員が慌てて鞄を掴んで立ち上がる。


「ちょっと待って! 置いてかないで! 裏切者~~~~~!!! 」

「さ、ちょっと詳しく聞かせなさい」

「いやだ~~~~~!!!!! 」


 刀和の慟哭が響き渡る中、他の4人は無情に走り去っていった。



「……夢か…」


 圭人は窓の外の明るさで目が覚めた。

 カーテンを付けると体内時計が狂うので付けないのが習慣になっている。


(……楽しかったなぁ……)


 無くなってから気付く物がある。

 ともに遊んだ仲間たちは隕石事件で死んだことになっている。


(……なんだろうな……)


 あの事件以降、何をやるにしてもやる気が起きない。

 一応、勉強などはやっている。


 だが、何かにつけやる気が起きないのだ。


 やらなければいけないからやる。

 ただそれだけ。

 


(……このままじゃダメだとはわかってるんだ……)


 何をするにしても気力が湧かない。

 自分から動こうとする気になれないのだ。


(……でも……)


 あの時、吸血鬼に襲われている少女を見て、

 自分でもわからないぐらいだった。


 寝転がりながら寝落ちした端末を見てみる。


 こちらの端末はスマホとタブレットのようなもので常に連動している。

 片方に入れた予定は片方にも反映されるし、携帯電話のようにも使用する。


 この端末には身分証明書が入っており、自分のDNAでしか開かない。


 仕組みはよくわからないが体内に埋め込んだマイクロチップと連動して認証しているらしい。

 その端末を開くと寝る前に見ていた吸血鬼事件の内容が書いてあった。


(……やってみるか……)


 何となくやってみようという気になり、その前に学校にいかなければいけないこと思い出して起き上がって辺りを見渡す。


 6畳ほどの部屋には片側にクローゼットや押し入れが集中して置いてあり、もう片方にはベッドや机が置いてある。机には日本から持ってきた唯一の写真がある。


 お祭りの記念写真でかつての仲間がアニメの戦隊キャラのポーズを取っている。


 それをちらりと横目で見てからクローゼットから制服を取り出す。


 こちらの制服は和洋折衷のような造りになっており、白シャツに袴のようなズボンそして着物のようなジャケット。

 これがこちらの正装になるそうだ。


 白シャツはTシャツ型でこちらの世界との差は特にない。

 ジャケットに当たる着物は膝丈まであるのが基本なのでこれを羽織って左前で結ぶ。

 そして帯ともベルトとも言えないような紐を背中で結ぶ。


(帯結びなのにバックルがついてんだよな~)


 まあ、服にも進化があるのだ。別の進化を遂げた以上、こうなるのは仕方ないと圭人は割り切っている。


(とりあえずトイレっと)


 制服を着終わったらトイレへ向かう。

 トイレ自体は洋式によく似たトイレでこちらにもウォシュレットが付いており、地球に比べて使いやすく綺麗だ。


(なんでおしっこが飛び散らないんだろうなー……)


 理由はわからないがおしっこは飛び散らない。

 なんか特殊な方法を使っているらしい。

 水洗式なので普通に水に流して、次にトイレ脇にある洗面所で髭を剃って髪を整える。


 髭はシェーバーがあるのでそれで剃って、眉毛を軽く整えて髪をセットする。

 とはいえ、凝った髪型をするほどおしゃれではないので、真ん中分けにする程度である。


 髪質の関係からか、何故か左側だけ髪が上がる。


 圭人が身支度を整えると同時にイナミが洗面所に来た。


 女の子の制服はと言えば、一言でいうなら『はいからさん』だろう。


 着物に袴のようなスタイルだが、袴の代わりにスカートを着用している。

 帯も圭人のように適当に締めておらず、可愛らしくリボンのように締めている。


「おはよ~。終わった? 」

「おはよ。終わったよ」


 圭人は身支度を始めるイナミを置いて、朝食までにちょっと吸血鬼事件を考えようと自分の部屋に戻った。



用語説明

 金剣町

 きんけんまちと読む。

 石川県にある山間の町で要は田舎町。

 宇宙で起きている戦争が原因で襲ってきた隕石群により多大な被害を受けた。


 制服

 ニューガン皇国は日本とよく似た習俗の国でその関係で和服のような服が正装になっている。

 アーカム連邦では『公序良俗に反しない限り、自国の正装を正装とする』という暗黙の了解があるのでニューガン皇国ではこちらが正装になっている。

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