第11話 沈黙の吸血鬼

「やっぱり気のせいかな? 」


 何かが気になった圭人だが、端末の吸血鬼情報をぼんやりと観ながらため息を吐く。


「どうしたのかね? 」


 テレビが終わったのか、銀髪鰭耳のタタラ父さんが身体を乗り出して端末を見る。


「映画終わったんですか? 」

「ああ、やっぱり『マンコの戦い』は最高だね。歴史にのこる傑作だよ」

「あれ、マンコの戦いだったんですか? 」


 本当にあったんだと心の中でつぶやく圭人。


「ああ、特にキョコンがショジョを貫いて鮮血が飛び散る所なんて最高の名シーンだね」


 興奮して語るタタラ父さんとそれを聞いて苦笑する圭人。


「さっきのシーンはそれだったんですか? 」


 先ほどのおっさんが胸から血煙を上げて死ぬシーンを思い出す圭人。


「ケート君は知ってるのかい? 」

「丁度、歴史の授業でやった所なので……」


 そう言って苦笑する圭人。


「歴史はいいよ。いろんなドラマがあって面白い。歴史が好きなら色んな話しをしてあげるよ。何がいい? 」

「とりあえず今はこれで手いっぱいです」


 苦笑しながら端末を指さす圭人。


「それはなんだい? 」

「なんでも吸血鬼事件の公開データだそうです。出来れば解いてほしいと渡されて……」


 そう言って端末をタタラ父さんに渡す圭人。

 タタラは中をゆっくりと一つずつ確認するように見て、端末を圭人に渡して首を傾げる。


「なんで美形ばっかりなんだろうね? 」


 不思議そうにつぶやいた。


「それは……やっぱ美形だと相手を捕まえやすいからじゃないですか? 」

「相手は異性とは限ってないよ。それだと同性愛者でもない限り、美形でも意味が無いよ」

「……あ……」


 西洋の吸血鬼が美形なのは変身能力があるのと異性の血を吸いやすいからである。

 襲う相手の性別がバラバラの場合は通用しない。


「確かに男男の組み合わせも女女の組み合わせも多いですね」

「それに黒髪というのも気になるね」

「どうしてですか? 」

「モテる髪の色とは男は赤髪、女は青髪だよ。人の好みにもよるけど、一般的にそう言われている」

「……あ……」


 圭人は髪を茶髪や金髪に染めたりしている芸能人の事を思い出す。

 日本とは感覚が違うものの、「チャラい」に似たような物がここにもあったのだ。


「赤青緑は先進国の象徴とも言えるからね。特に赤髪は気性が荒くて男らしい人が多いし、青髪は綺麗で男に尽くすタイプが多いと言われている」


 日本でもそうだが金髪が好かれるというのは先進国の象徴という意味合いもある。

 同様にこの世界では先進国の人間が赤青緑の髪をしている。


「それに相手は常に無言。これじゃ折角の美形も生かし切れていない」

「……そういえば僕が見た吸血鬼も無言でしたね」

「今も昔も話し上手な男や女がモテるんだよ。僕は弁護士をやってるけど、話上手な人は多少顔が悪くてもかっこよく見えるもんだよ」

「……なるほど」

「だから、なんかおかしいんだよ。人であって人でないような……怪物みたいな感じがするね。本当にお化けか何かみたいだ」

「でも、俺は確かに見たんですよ? 」


 抗弁する圭人にいぶかしむタタラ父さん。


「だからおかしいんだよ。他の目撃証言からしても、居たのは間違いない……なのに存在が掴めない……本当に不思議だよ」


 そう言って端末を置くタタラ父さん。


「ひょっとすると美形というのは何か理由があるのかもしれない」

「……理由ですか? 」


 タタラ父さんがイナミの肩を叩く。

 先ほどからうんうん唸っていたのだが頭を使いすぎて船をこいでいた。

 ふにゃっと触角が起きあがる。


「これだけ黒髪の美形のパターンが多いのは……黒髪の美形で無ければいけない理由があるんだと思うよ」

「……黒髪の美形……」

「推理小説でよくあるパターンとして黒髪の美形で無いと意味がないとかそういった理由になるけど、案外、黒髪の美形にしか化けられないのかもしれないね」

「あーなるほど。そういえばよくありますね。トリックの使用条件からばれて犯人が捕まるというのが。容疑者が高所恐怖症だったり、突き指で指が使えなかったり……」

「そんな感じだね」


 苦笑するタタラ父さん。


「そうだね。実際の事件も入手ルートでわかる事が多いと言うし。ま、突破口がそれしかないけど、その理由を当たってみたらいいかもしれない」

「なるほど」

「今日は疲れてるだろう? 早く寝なさい。」

「うぃっす……けど……」


 そういって圭人はちらりと横を見る。

 子供部屋の子供達まで寝ようとしているのに、酒盛りが最高潮になっている大人3人をみる。


「……ほっときなさい」

「その前にシュクラさん妊娠中っすよね? 」

「よく見なよ。ノンアルコールを飲んでる。場酔いだね」

「……ホントだ」


 よく見るとノンアルコールであった。

 少しだけほっとする圭人。


「ま、彼らの事は私に任せなさい。部屋で休んだら? 」

「あいっす」


 そう言って圭人は自室へと戻った。

 後に残ったのはおっさんたちだけ。


 不意に羅護が切り出した。


「……ウチの息子なんだが……どう思う? 」

「どうって? 」


 不思議そうに尋ねるチチリ母さん。


「なんだか様子が変なんだ……」


 緑色のお酒を飲みながら話しだす羅護。


「昔はもっと明るい口から先に生まれたような奴だったんだが……あの事件のせいかちょっと塞ぎこんでるみたいなんだ……」


 不思議そうに眉を顰めるタタラ父さん。


「ふむ……そんな風に見えないけどね……」

「それに子供の頃はそうでも中学生で静かになる子はいっぱいいますよ? 」


 チチリ母さんもちびちび酒を飲みながら答える。


「そもそもここに来た時からあんな感じだから、前はどうだったかと言われてもねぇ……」


 シュクラも微妙な顔で答える。


「そうじゃないんだ……なんかこう……違和感を感じるんだ。久しぶりに会った子供が大人になってたって感じじゃなくて……人間としておかしな感じがするんだ」

「う~ん……」


 チチリ母さんが唸る。


「まあ、ちょっと大人しい気がするけど、素直ないい子だと思うよ。やんちゃな方が私は好きだけど、トカキほど優等生でもなくタマノほど悪くも無い。普通だと思うけどねぇ……」


 そうシュクラがつぶやくとチチリ母さんが笑う。


「シュクラに比べたら誰だって大人しくなるわよ。シムラーの狂獣王なんて呼ばれて……」

「チチリはまだ少ないからいいよ。大半は僕が迎えに行ってたんだから。それにチチリも人のことは言えないよ。何回迎えに行ったと思ってるの?」


 シュクラの言葉にチチリ母さんとタタラ父さんが反論する。

 もっともチチリ母さんはタタラからついでにチクりとやられたので『てへっ♪ 』と笑った。


「ただ、ちょっと気になるねぇ。何しろ相当な隕石被害だったのだろう? 僕も聞いたけど、あれほどの被害は宇宙でも滅多にないよ。あれほどの被害なら心になにかあってもしょうがないよ。病院では診てもらった? 」

「……特には。見た目が当たり前すぎたからな。ちょっと口数が少ないだけだと思ってたからなぁ……」


 酒を飲んで考え込む羅護。


「ずっとほったらかしになってたからなぁ……そのせいかなとも思ってたんだ。事情が事情とはいえ仕方ないからな……」


 ちなみに羅護はシュクラを地球で助けて、それが縁で宇宙へ出るきっかけになっていた。

 それはそれで別の話しになるのだが、その一件が原因でシュクラと結婚する事になり、日本政府の要望で地球外情報の翻訳として働くことになったのだ。


「後悔してんのか? 」

「するわけねぇだろ。お前が一緒に居るんだから」


 シュクラの言葉に答えてからおもむろにシュクラに抱きつく羅護。


ゴッ!


 それを肘でアッパーするシュクラ。


「うぜぇよ」

「酷くないか! 」


 顎に手を当てながら半泣きになる羅護。それを見て苦笑するタタラ父さん。


「心配なら今度聞いてみたら? 」

「……そうするか。考えすぎかもしれんしな」


 羅護はそう言って次の酒を開け始める。


「まだ飲むのかい? 」

「在宅ワーク最高! 」

「先に眠らせてもらうよ」


 そう言ってタタラは立ちあがる。その晩はかなり遅くまで3人で飲んでいた。



登場人物紹介


 トカキ&タマノ

 魚のヒレ耳を持った銀髪のお兄さんと赤髪に猫耳猫尻尾を持ったスケバンお姉さん。

 圭人と同じ家族で圭人達の手助けになる。


 九曜 羅護 & シュクラ

 圭人のお父さんと義理のお母さん。

 圭人のことで色々と頭を痛めることになるのだがそれはまた別の話。


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