第10話 宇宙の御飯は美味しいのだが……
「できたよー」
チチリ母さんが良い笑顔で用意してくれたのは、ご飯に海鮮シチューをぶっかけたような料理と蜘蛛のような虫のから揚げだった。
この世界では虫は一般的な料理として食卓に上るのである。
「い、頂きます」
日本育ちで虫食の文化の無い地域で育った圭人にとって、虫を食べるのはここに来て初体験だった。
だが、一度食べてみるとそれほど苦痛ではない。
当たり前だが日本よりは先進的な国で、衛生管理も生産物の品種改良も進んでいるのでそれほど危険な物では無い。
とはいえ先入観から来る気持ち悪さだけは中々治らなかった。
観念して普通に食べる。
「お、おいしいです」
「よかった♪ 」
上機嫌で晩酌に戻るチチリ母さん。
晩酌はすでにシュクラも加えて3人体勢になっていた。
「大分、こっちの飯にも慣れたようだな」
にやにや笑うラゴ。
そんな父親の言葉に仏頂面で答える圭斗。
すると赤髪猫耳猫尻尾のタマノ姉さんが圭人の横に座り、圭人へとにじり寄った。
「さて、話を聞かせてもらおうか? 何があったんだい? 」
タマノ姉さんがずいっと身を乗り出す。
「どうしたんですかタマノ姉さん? 」
もぐもぐしながら圭人が訊ねる。
「吸血鬼がらみで困った問題が起きててね。それで色々聞きたいんだよ」
真剣な面持ちで圭人を見つめるタマノ姉さん。
それを見て圭人が食べながら先ほど起きた事を話す。
「……なるほどな」
「だからティカに話が聞きたかったんだ」
納得顔で頷くイナミ。
触角がフリフリしている。
だが、タマノ姉さんの困り顔は治らない。
露骨に「まいったな」と口に出している。
「どうしたんですか? 」
「今日、トールキン寮のアルヴィスに呼ばれてな。行ってみたら吸血鬼を隠してんのは知ってんだって因縁つけられてたんだよ。そんな事情じゃ、あいつは納得しないなーと思ってな……」
「あー。あれってそういうことだったんだ! 」
イナミが納得したようにぽんと手を叩く。
「『大切なのは生まれじゃない。腕力だ』と堂々と公言するようなバカだ。足し算引き算も怪しいあいつがそんな話しを聞くとは思えねーからな。まして、吸血鬼の被害にあったのはトールキン寮の奴だ」
「そうだったの? でも俺が事件に遭遇する前だったような……」
「その前にも事件はあってな、その時にはトールキン寮のカップルが襲われていたんだ。その吸血鬼はアイザック寮の制服着てたんだろ? 」
「そうっす」
「それじゃ言い訳のしようがないね。一戦交えないといけないかもね」
困ったように頭をぼりぼり掻くタマノ姉さん。
「喧嘩はダメだよ」
廊下から声が聞こえて全員が振り向くと銀髪に魚のヒレ耳のトカキ兄さんが居た。
「タマノも身体大切にしなきゃ。一生ものの傷がついたらどうするの?」
真剣な顔でこちらを見るトカキ兄さん。
対してタマノ姉さんはと言えば顔を赤くしながら明後日の方を向いてぶっきらぼうに答える。
「べ、別にいいじゃねぇか! 」
フニフニフニフニ
言葉とは裏腹にタマノの尻尾が嬉しそうに振られている。
「別にそんなもの気にしねぇし! 傷は勲章だし! 」
「そんなこと言って怪我したらどうすんの? 」
「お前には関係ねぇだろうが! 」
フニフニフニフニ
威勢よく言ってるのだがそれに反して尻尾が喜びを表現しているので全てが台無しである。
イナミは尻尾をみてにやにやしている。
「関係あるよ! 僕はタマノが傷つくのが嫌なんだ! 」
「余計な御世話だ! 」
そう言って顔を真っ赤にしながら自分の部屋へと走って行くタマノ姉さん。
それをみてため息をつくトカキ兄さん。
「困ったものだねぇ。タマノはああ見えて弱いところがあるから心配なのに……」
心底困った顔をして頭に手を当てトカキ兄さん。
「トカキ兄ぃも天然だねぇ」
「……なにが? 」
イナミの言葉に心底不思議そうに答えるトカキ。
そして小言の行き先が圭人達に向く。
「イナミとケートも気をつけてね。トールキンのアルヴィスは話しを聞きそうにないし、無理やり実力行使に出るかもしれないからね」
困ったように頭をかくトカキ。
「あいつらはなにやるかわからないから、もし何かあれば連絡してね。絶対に危ない真似はしないこと。いいね? 」
「は~い」
「それからティカちゃんの周りになるべくいること。わかった? 」
「うぃっす」
「宜しい。じゃ、そろそろ子供を寝かしつけてくる」
そう言って子供部屋に戻るトカキ兄さんだった。
それを見てようやく説教に解放されたと二人はホッとした。
「大変なことになって来たねぇ」
トカキとタマノの言葉に不安そうなイナミ。
圭人は何も言わずに端末を見せる。
「どうしたの? 」
「これ見てくれ」
そう言って圭人は端末ごとイナミに渡す。
丁度食事が終わったので食器を台所に持っていき水につける。
「……これがどうしたの? 」
「吸血鬼の特徴。美形ってことと、黒髪ってこと。春ごろに現れる事の3つしかわかってないんだ」
「ふ~ん」
関心なさそうに答えるイナミ。
「何か思いつかないか? 」
「何かって言われてもねぇ……」
うんうん唸るイナミ。
だが、すぐにギブアップする。
「これだけじゃわかんないよ」
「だよなぁ……」
そう言って端末に目を落す圭人。
「やっぱり気のせいかな? 」
訝し気に圭人は端末の情報を見ていた。
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