第9話 宇宙の家族はややこしい!
「ただいま、イナミ」
圭人は一言挨拶を返して玄関に入る。
玄関は大きめで日本同様に靴を脱いで入る方式をとっており、靴を脱いで自分の下駄箱に靴を入れて中に入る。
中に入ると人が二人通れるほどの広い廊下があり、左側が居間。
そして右側からは子供のけたたましい笑い声が聞こえて来た。
左の戸ががらりと開き子供がわらわら出てきた。
「あんちゃん帰って来た! 」
「兄ちゃんゲームしようぜ! 」
「お兄ちゃんご本読んで……」
「しょうぶだ! 」
わらわらと出てきたのは小学生ぐらいの4人の子供たちだ。
すると後ろから一人の女性が叫んだ。
「おい! お前達! ケートはこれから飯だ! 大人しくこっちで遊んでろ! 」
下校時に釘付きバットで喧嘩しようとしたタマノである。
先ほどはスカートから釘バット出していたのに、今はジャージのような服「バルシャ」で子供たちの面倒を見ている。
「トカキ。私もケートに話があるからこの子らの面倒頼む」
「いいけど早く来てね」
「エキエも頼む」
「……ずっと話してていいよ」
タマノが部屋の中に一声かけてから子供たちの頭を叩いて中に入れる。
部屋の中には二人の銀髪の兄妹が居た。
二人とも耳が魚のヒレになっており、一人は眼鏡をかけた優等生といった感じで圭人達より年上の少年で子供たちの相手に四苦八苦している。
もう一人の女の子のエキエは女の子達とおままごとをしていたのか、エプロンをつけてそれらしい格好をしている。
一目でわかるほど隣の兄によく似ており、儚げな文学少女といった姿をしている。
「じゃあ、ちょっと飯でも食いながら話をしようか」
そう言ってタマノが圭人の手を引っ張ってむりやり居間に座らせる。
居間は畳ではないもののちょっと変わった材質の畳のような物で出来ており、日本同様に床に直接座る。
そんな居間には三人の大人が寛いでいた。
一人は明らかに土建屋系のおっさんと言った感じの男でパッチと長そでシャツに腹巻きといったバカボンのパパスタイルで座っている。
目の前で魚の干物をつまみに一杯やっていた。
もう一人は言えばタマノによく似た猫耳赤髪のたれ目お姉さんで、タマノ同様にバルシャ姿で酒の相手をしている。
もう一人は銀髪のトカキとエキエによく似た眼鏡をかけた品の良さそうなおじさんである。
この人はテレビを見ながら時折二人の晩酌のお相伴を預かっているようだ。
テレビにはいかにも戦記物といった映画が流れており、鎧を着た男たちが戦争をしている。
ぱっと見は和風スリーハンドレットだなと圭人は思った。
『ぬぐぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 』
画面の中では巨大な槍に貫かれた髭面のおっさんが断末魔の叫び声をあげる。
胸からすさまじい勢いで鮮血が飛び散り、槍を持つもう一人のおっさんの全身を真っ赤に染めた。
槍を持ったおっさんがぼそりと呟く。
『……ルド。敵は討ったぞ……』
誰かの名前を言って感慨深げに涙を落とす。
名前まではよくわからなかったが多分親友の仇を討ったのだろう。
(すげぇシーンだな)
日本ならR18は間違いないだろう。
不意にバカボンのパパスタイルの男が声をあげる。
「お帰り圭人」
「迎えに来いよな……くそ親父」
「ぶわっはっはっは! 」
口を尖らせる圭人に何がおかしいのか笑う羅護。
「まぁまぁしょうがないよ。飲酒運転は危険だから。ご飯まだでしょ? 今、用意するから」
そう言って赤髪の穏やかなたれ目猫耳お姉さんが台所へ向かう。
「すいませんチチリ母さん」
「いいってことよ」
そう言って親指をぐっとあげるチチリ母さん。
「大変だったね」
テレビを一旦止めて銀髪の知的なおじさんが振り向く。
「大丈夫かい? もし何かあれば僕が対応するよ」
「大丈夫です。ただの事情聴取だから」
「本当かい? 」
「大丈夫ですよタタラ父さん」
そう言って圭人は椅子に座る。
チチリ母さんが上機嫌に鼻歌を歌いながらご飯を用意する。
タタラ父さんはこう言った。
「ケート君。ぼくらは同じ家族なんだよ。遠慮することは無いからね」
「ですから本当に大丈夫ですってば」
そう言って苦笑する圭人。
エニルとは家や家族を意味する言葉である。
宇宙に数多ある国々は当然ながら家族形態も様々であった。
一夫一妻は勿論のこと一夫多妻制も多く、中には多夫一妻、多夫多妻制などもあり、どの星系国家においても他国人の受け入れ自体が難しかった。
それに加え、近代的な男女同権思想からくる片親の貧困問題も顕著に起きており、今までの家族制度には限界が来ていた。
そこで生まれたのがエニル制であった。
元々ブランディール星系で家族の事をエニルと言っていたのだが、ブランディール星系では結婚という制度自体が無く、子供は家が育てるもので、両親はそれを手伝うだけだった。
そのため、娘に婿入りするような形で男は家に入る。
これに片親のパターンも加わって、最終的にはいくつかの家族が同居する世帯が当たり前になった。
圭人がいるエニルの名前はセイシュ。
そのため、圭人の名前はケート・クヨウ・セイシュになる。
圭人と羅護、シュクラは同じ九曜姓。
チチリ母さん・タマノ姉さんの母娘はフェニザック姓。
タタラ父さん、トカキ兄さん、エキエちゃんの親子はホタイゴ姓。
ウルキ、トミテ、ウミヤ、ハツイちびっこ兄妹と仕事で不在のアケツお母さんはジーニン姓。
イナミと仕事で不在のスミ母さんの母娘はブリュ姓を名乗っている。
ちなみにシュクラは元々ナヴァ姓を名乗っていた。
このエニル制は非常に便利で片親の貧困問題の解消と家族制度が違う様々な国々の人を受け入れやすいメリットがあった。
なにしろ、どんな家族制度にも対応が可能なのである。
一夫一妻制でも親類が集まって暮らしているだけ。
一夫多妻制や多夫多妻制にも対応しているので様々な国で受け入れられ、一般的になっていった。
わかりやすく言えばサザエさんの家族にノリスケおじさんが加わったようなものである。
(ややこしいよなぁ……ただでさえ家族関係が微妙なのに……)
圭人は笑顔を浮かべながら戸惑っていた。
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