第8話 義理の母親とは気まずい
圭人は新しい義母シュクラとともに警察から出て駐車場に向かう。
「すんません。シュクラさん」
「構わないよ。同じエニルの子供だろ」
やはりぶっきらぼうに答えるシュクラ。
やがて見慣れた軽自動車のところまで来るとシュクラは
ぴっという音がして車のハザードがちかちかと光る。
シュクラは運転席に乗り込むと同時に圭人が座席に乗り込む。
この世界の軽自動車の特徴で前は運転座席のみ。
後部に三人乗りの座席がついている。
車を出して駐車場内を何度か曲がるといくつかの円が描かれた場所に来る。
その円の一つに入ると車がふわりと浮き始める。
(何度やっても慣れねぇな)
なんとなく居心地悪そうに身体をくねらせる圭人。
車はそのまま宙に浮きゆっくりと発進する。
後は自動で運転するのでシュクラが端末をいじり始めた。
(……やりにくいよなぁ)
彼女の名前は九曜シュクラ。
父親の再婚相手と言えばわかりやすいだろう。
年齢も二六歳と微妙な年頃だ。
圭人にとっては姉と思えばいいのか母と思えばいいのかもわからない。
幼いころに母を無くした圭人にとっては母と言えば実の母を指す。
だが、圭人自身もお母さんじゃないと言うほど子供でもなく、かといって母と呼べるほど割りきれない。
そんな微妙なもやもやが自分を苛立たせた。
「それで? なにやった? 」
端末をいじっていたシュクラが唐突に質問した。
慌てて答える圭人。
「そのぉ……人助けをしました……」
困ったように答える圭人。
だが、端末から目を離さずにシュクラが言う。
「ティカちゃんが警察から電話を受けたってラゴさんが言ってたよ。人助けでどうして関係があんの? 」
「それは……」
正直に刑事に伝えた事を話す。
シュクラはふぅっとため息をついた。
「喧嘩の加勢かと思ったらそっちか……タマついてんのかてめぇ」
お似合いの夫婦だと圭人は思った。
よく考えれば実母もヤンキー上がりだったので、似たようなもんかもしれない。
「タマノなんてアイザックの番張ってんだぞ? それをてめぇが受け継がなくてどうすんだよ。折角、あの人と結婚して悪そうなのがきたと思ったのに……はぁ」
「……すんません」
悪いと言えば悪い方なのだろう。
生まれた町は悪い奴が多い、言わばヤクザな町だった。
祭りも喧嘩祭りとまで言われた程で、父親の世代は喧嘩に明け暮れていたそうだ。
圭人の世代はそこまで酷くは無かったが、一つ上の世代にいたっては進路が「タイに売られた」とかロクな話を聞かない。
「まぁいい。見ず知らずの女の子を助けたってんならまだましだ。ほめてやるよ」
そう言ってぐわしぐわしと圭人の頭を乱暴に撫でる。
撫でているのか頭を掴んで振ってるのかわからないレベルではあるが。
「しかし……最近の子は大人しくて困るねぇ……」
そう言って手もとの端末に目を落す。
シュクラの興味が端末に移ったので圭人はほっとして外の様子を見る。
下は町の明かりが美しく輝いており、その上をゆっくりとした速度で車は我が家に向かっている。
(どんな仕組みで動いてるんだろ? )
圭人は一度、家族にも聞いてみたが、父親に「日本人が全員トヨタの自動車の仕組み答えられんのか? 」と言われてバカな質問をしていると理解した。
(アウルだったか? よくわからんもんだなー)
アウルとはこの世界における主要なエネルギーである。
圭人自身もよくわからないがこのアウルという物を使うと宙に浮くらしい。
(何回見てもよくわからないんだよなー)
圭人自身も色々調べて勉強しているのだが、よくわからないのだ。
(まあ、なんか理由があるんだろうなー)
考えるのを止めて周りの様子を見てみる。
車はあまり早く動くと衝突が危険なので時速60キロ前後は出てるようなのだが高度もあいまってゆっくり進んでいるように感じる。
車のフロントガラスに立体映像で飛行可能エリアが出ていて、そこを車が走っている。
車の制限速度は単純で路上は20キロ以内。
高度30mから100m前後は60キロ。
高度100mから1000mが高速で100キロ以内となっている。
高度が高い程、高速で走るのが許される仕組みだ。
何故こうなっているのかと言えば単純な話で高速は事故を起こしやすいのでより長い車間(前後左右上下)を取れるようにこういった仕組みになっている。
車が走っていいのは基本道路の上だけ。
私有地の上は危険なのと土地の権利上の問題で禁止されている。
(科学と魔法が混在する宇宙か……)
3か月前、圭人は日本の石川県にある金剣町という片田舎に住んでいた。
ある日、いきなり落ちて来た隕石の落下により死者が百人以上も出る大惨事となった。
圭人自身、友達も多く失い、何よりも一緒に暮らしていた祖父母を失ってしまった。
行くあてもなく、ただ、呆然と避難所に居たら、何年も前に行方不明になっていた父が帰ってきた。
そして当然のごとく父が圭人を引き取ることになり、そして恐ろしい事に・・・・父親に付いて行ったらここに来てしまった。
そして籍を変えられてそのまま異星人になった。
(それにしても吸血鬼とはなぁ……)
そのSFの世界に吸血鬼である。
魔法も存在するこの世界にしたらおかしなことでは無いのかもしれないが、それにしても摩訶不思議である。
暇なので手元の端末の公開データを見てみる。
(吸血鬼事件公開データは……これか)
内容をざっと見てみる。
今までに起きた事件は全部で17件。
いずれも出て来たのは春ごろである。
3年に一度ほどの割合で一回起きると3~4回連続して起きている。
(出てくるパターンもバラバラ。襲った奴もバラバラ)
男であったり女であったり襲ってくる吸血鬼も被害者も見事にバラバラで男が女を襲うようなパターンがあるわけでもない。
(共通点は美形である事と……黒髪だけか……)
いろんなパターンがあるが共通点は黒髪と美形である二点のみ。
それ以外は驚くほど共通点が無い。
2、3度模倣犯は出ているものの、学生のいたずらであったり、ただの変質者である場合が多い。
(ティカも美人さんだしな)
大人しい性格ゆえにあまり目立たないが何度も告白を受けた事があると言っていた事を思い出す圭人。
(むしろ、ティカが黒髪の美人さんであったから似たと考えるべきか……)
美人というのはそれほど顔のパターンがあるわけではない。
可愛い子や、魅力的な子ならいろんなパターンがあっても美人というのはある程度決まっている。
そこまで考えてから圭人は妙な違和感を感じた。
「……ん? 」
黒髪と美人。
これに何かの引っかかりを感じたのだ。
(……はて? なにか関係がありそうな気が……)
どこかで見た何かが関係ありそうに感じたのだ。
(どこだったっけ? 確かここに来る前の話だな……)
漫画で見た何かと関係していると感じていた。
(ええとなんだっけ? ……何か思いだしそうな感じだ……)
うんうん唸りながら考える。
「なにやってんだ? 」
前のシュクラさんが訝しげにこちらを見る。
慌てて今考えていた事を打ち消す。
「何でもないです」
「……まぁいいけど。着いたよ」
そう言ってガチャリとドアを開けて下りるシュクラさん。
それに従って荷物を持って降りる圭人。
目の前には年季の入った大きな屋敷がある。
庭には小さな遊具が置いてあり、駐車場は10台位止められそうな広さがある。
一見すると金持ちに感じるが、実はこれがこの世界での当たり前の家である。
勿論、これにはおおきな理由がある。
「おかえりー。大変だったねー」
先程別れたイナミが玄関で出迎えてくれた。
「ただいま、イナミ」
圭人は一言挨拶を返して玄関に入った。
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