第7話 事情聴取

 宇宙における文明圏では警察は二つに分かれる。


 呼び名には国によって違いがあるものの、このケイオンでは右警察、左警察と呼ばれており、役割はほとんど一緒である。

 役割を交代しているだけと言っていい。

 これは一年ごとに役割を交代する事で汚職を防ぐと同時に互いを監視するのが目的である。

 そのため、右警察で起こした不祥事は左警察で調べるという事もしており、同様に裁判所も右と左に分かれている。

 完全に分離独立しており、双方で人材のやりとりを禁止するなどの厳しいルールが設けられている。


 そのため、事件内容によっては得意不得意が別れるので、案件によっては事件そのものを受け渡しする事もある。


 今回圭人が連れ行かれたのは右警察だった。


「ケート=クヨウ=セイシュ君だね? 」

「はい」


 取調室で応対した刑事の質問に素直に答える圭人。

 刑事はコロンボ似の犬耳おじさんでくたびれたコートを着ていた。

 名前はオニテと名乗った。


「生まれは太陽系の第六知性体の未開惑星『チキュー』出身か……移民になるのかな? 」

「一応そうです。父は日本政府の仕事をしていますが籍はこちらに移してあります」


 ぽりぽりと頭をかく刑事。


「こっちに来たのは一年前で1年間は言語学校で勉強。それからシムラー学園に入学か……特に犯罪履歴は無しと」

「……はい」

「そんで今回の事件について詳しく聞かせてくれないか? 」

「友達と花見に行ったら、騒ぎを聞きつけて、血を吸われている被害者を助けました」

「なるほどね……」


 ぽりぽりと頭をかく刑事。


「う~ん……そこでこのティカちゃんが被害者を襲っていたので驚いたと」

「最初は僕の知り合いのティカとそっくりだったので間違ったんですが……角がないので間違いなく他人です」


 パトカーの中で話した事を正直に話す圭人。


「まぁ……そうなんだが……その子に連絡はついたのかね? 」

「はい。事件の最中に僕の家で同じエニルの子とゲームしてました」

「……なるほど」


 刑事は苦笑した。


「だが、その子の親類である可能性はないかね? 」

「……わからないです。そこまで仲良くは無いので……」

「……なるほど」


 そう言って刑事は資料を閉じる。


「確かに角が生えていたら真っ先に見物人が見ているだろうから他人なんだろうね。しかし、似てるというのは聞き捨てならないね。僕も耳がトレードマークになってるからそれで顔を覚えてもらってるし……」


 そう言って自分の耳を触る刑事さん。


「こういった動物の特徴を持ってるのは未開人の特徴で当然ながら目立つ。あれば必ず目撃者も言ってるだろうからねぇ……」


 オニテ刑事が犬耳に触りながらぼやく。


 未開人とはイナミやティカのように動物的な体の特徴を持つ人間である。

 宇宙では地球人のように動物的な特徴を一切持たない混血人が多い。

 これは混血が進むにつれて犬耳などの特徴が無くなってくるのだ。

 ゆえに「文明的でない」として差別されやすい。


 オニテ刑事がぼやいてると他の警察官ががちゃりとドアを開けて入ってきた。


「刑事。件の人物のエニルは全員が角を持ってます。恐らく関係が無いと思われます」


 そう言って端末に資料を飛ばす警察官。

 刑事はそれを見てふぅーとため息をつき申し訳程度に端末を操作する。


「ようやく手がかりを掴んだと思ったんだがねぇ……」


 残念そうにつぶやく刑事さん。


「……あの? 」

「ああ、僕は何年もの間、吸血鬼事件を追い掛けてるんだよ。言わば専門だね。と言っても一回も捕まえる事が出来ない無能だけど」

「……すんません。お役に立てなくて……」


 そう言って謝る圭人に慌てて手を振る刑事さん。


「いや、君のせいじゃないよ。君は被害者を助けてくれたんだろ? だったら何も悪くないよ」

「まあ、そうなんですけど……吸血鬼はどんなやつなんですか? 」

「……どうしたんだい急に? 」

「いえ……正直、僕の居た星の何倍も優れた技術があるのに正体すら掴ませないなんてそんなことがあり得るのかと思ったんで……」

「ん? ……ああ、君は未開惑星からの移民だったね」


 一瞬訝しげな顔になったものの納得がいったように頷く刑事。

 特徴のない混血人だったのでわからなかったのだ。


「どんなに技術が発展してもさらにその裏をかくのが犯罪者だよ。それに犯罪はある日突然襲いかかってくる物だからね。誤認や勘違いも多い」

「……はぁ」

「この吸血鬼事件も右と左の警察で独自に進めているのだけどわかっているのは春ごろに起きる事だけだよ」

「……春ごろですか? 」


 訝しげな圭人に刑事は話を続ける。


「そうだよ。最初の事件は14年前。深夜に突如現れた吸血鬼に襲われてから、出たり出なかったりが続いている。現れる周期もバラバラ。懸賞金も出てるぐらいだよ」

「……そうなんですか? 」


 金という言葉が出てちょっとだけ嬉しそうになる圭人。

「そうだ。ちょっと端末貸してくれないかな? 」

「え? はい、どうぞ」


 そう言って端末を差し出す圭人。

 刑事さんは自分の端末を操作すると圭人の端末がピロリンという軽快な音を立てる。


「懸賞金用の公開捜査データだよ。よかったら君も挑戦してみないか? 」

「挑戦……ですか? 」


 不思議そうにつぶやく圭人。


「そうだねぇ……推理小説は地球にもあるかい? 」

「はい」

「なら、話しは簡単だ。こっちじゃ、難しい事件を世の中にいる推理マニアの力を借りて事件解決しようという試みをしていてねー。これのおかげで解決した事件も多いのだよ。まだ、答えが出てないから当てたら懸賞金がもらえるよ。やってみたら? 」

「……はぁ」


 気の無い返事を返す圭人。

 まだピンとこないのだ。


「まぁ、今まで数多の推理マニアが挑戦して答えが出せなかった問題だから失敗しても気にしなくていいよ。じゃあ、頼むね」


 そう言って刑事さんは端末を閉じる。

 するとドアが開いて警察官が顔を出す。


「刑事。その子の家族が迎えに来ました」

「おうわかった。じゃあ、お疲れ様。帰っていいよ」


 そう言って刑事さんが立ちあがる。

 それに付いて行くように圭人も後を追う。

 さして広くない警察署の入り口に知っている顔があった。


「あ~~~~」


 嫌そうな唸り声をあげる圭人。


 入り口に立っていたのは金髪の目つきの悪いお姉さんだった。

 薄く化粧をしており、美人なのだが気性の荒さを感じるツリ目が若干怖い女性でお腹が少しポッコリしている。

 何か棒のような物を加えているがチュッパチャップスのような飴だ。


 彼女の名前はシュクラ=クヨウ。

 


「すんません。お手数掛けました」


 女性が深々とお辞儀する。それに合わせて刑事さんもお辞儀する。


「いえいえ、こちらこそお子さんのご協力に感謝します」


 一通り挨拶を済ませてから女性は圭人に向き直る。


「じゃ、行くよ」


 ぶっきらぼうに言ってすたすたと歩いて行く。

 慌ててついて行く圭人。

 刑事さんはにやにや笑いながら笑顔で見送った。


「しっかし……あのシュクラが結婚妊娠中とはねぇ……珍しいもの見たな」


 オニテ刑事は嬉しそうにニヤニヤと笑った。



【後書き】

 登場人物紹介


 ケート=クヨウ=セイシュ

 父親の再婚を機に太陽系の隣のテトラ星系に来た少年。

 色んな秘密を抱えているのだが、それはまた後日。


 オニテ刑事

 犬耳が可愛いコロンボみたいな刑事さん。

 『刑事』とついているが階級は日本と違うので厳密には刑事ではない。

 吸血鬼事件を追っていると同時に未成年の犯罪の取り締まりなどを担当している。

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