第3話 異星でも先生は厳しい

 周りに集まった生徒が声をかける。

 最初に言い出したのは端正な顔をした緑髪の色白美少年だった。


「何で笑ってたの? 」

「あんな名前であんな授業されたら笑ってしまうよ……」


 そう言ってまだくすくす笑いながら答える圭人。

 端正な顔の少年が嘆息する。


「え~とチキューだっけ? そっちの言葉じゃどんな意味に聞こえたんだ? 」

「……どこから言えばいいのか悩むところだな」

 

 そう言って興味津々の少年に笑う圭人。


「強いて言えば全部だ。名前がすべからくおかしい。本当にあんの? 」

「あったよ。初等部でも習うところだよ。アーカム史で有名な分岐点だよ」

 

 端正な顔立ちの限りなく白に近い緑色の肌の少年は平然と答える。


 彼の名前はエルメスと言う。


 学園でも指折りの美形男子で女の子たちのあこがれの的である。

 圭人はそんな彼の事をディ〇プリオという地球の俳優に似ていると評した。

 そんな彼の屈託のない受け答えに圭人は苦笑する。


「まあ、なんというかわざとなのかってぐらいの名前と話しの進め方のせいでただの下ネタでしか無いんだよなぁ……よりによって血が流れたとかもうギャグでしか無いよ……」

「何を言ってるように聞こえたの? 」


 そう言って隣の背の高い女の子が不思議そうに訊ねる。


 黒髪で引き締まった体つきの触角黒人少女で彼女の名前はイナミ。


 手足が長くすらっとしているが一番気になるのは頭に付いている物だろう。

 蛾のようなモフモフとした触角が二本、額からニョきっと生えている。 


「いやぁ女の子には話せないねぇ……」

「何に聞こえたのよ……」


 呆れ声で答える少女。


「同じ『エニル』の者にも言えない事なの? 」


 そう言ってつんつん触角でつっつきながらジト目で尋ねるイナミ。

 それを聞いて苦笑する圭人。


「う~ん……かなり下ネタが入ってるからねぇ……しかもそれを水樹ナ〇みたいな声で言うから尚の事笑えるんだよね……」

「そのミズキ〇ナって誰のことかわからないけど地球の俳優さん?」

「惜しい。声優さん」

「なるほど」


 そう言われて納得するイナミ。


 ちなみに宇宙でも普通に声優は居る。

 安く使う時は専門の声優音声ソフトを用いるが、金のかかった物以外で声優を使う事が無いので高所得の人気職でもある。


「察するに下がガバガバの癖にテレビの前では『セックスってなんですか? 』って聞くような清純派気取りが下ネタを話していたから笑ってたってこと? 」

「そこまで清純派では無い気がするけどそんなとこ」

「下がガバガバであることを否定しないのは気になるところだけど、結局どんなふうに聞こえたのよ」


 訝しげに聞くイナミ。

 仕方が無いのでどんなふうに聞こえたか身ぶり手ぶり腰ぶりを加えて(3倍速)圭人が解説する。


 するとイナミの顔がすぐに真っ赤になる。


 横に居るエルメスが苦笑する。


「それ本当? だったら、しょうがないね……」

「あうあうあう……」


 イナミも何か言おうとするが言葉にならない。

 性格のわりにかなりの純情なのだ。

 エッチなことには耐性がない。


「……イナミ大丈夫? 」


 先ほどからずっとイナミの横に居た足首に届くほどの長く綺麗な黒髪をした少女が初めて声をあげる。

 少女もエルメスと同じぐらいに綺麗な顔をしており、短い一本角が額から生えており、それが可愛らしく似合っている。


 彼女の名前はティカ。


 黒髪で清楚なお嬢様といった顔立ちで肌は透き通るように白く、顔も整い過ぎているくらい整っている。

 いわゆる美少女と言う奴である。


 イナミはすらりと背の高いカモシカのような女子でティカは文学系お嬢様。


 双方とも全く趣味も得意分野も違うのだが何故か合うらしい。


 ちなみに見た目が文学系お嬢様なだけで、頭はかなり悪いのでイナミと同程度の成績をしている。


「だだだだだだだだだだ大丈夫! わっわわわたしも年頃のおんおんおん女の子なんだから! べべべべべべつに処女ってわけでもないし! 」

「……イナミ。変な事口走ってる」


 ティカが無表情なままポンポンと背中を叩く。

 圭人がちらりと横を見るとエルメスが顔を蒼白にしている。


(わかりやすい奴め……)


 わかりやすい態度に苦笑する圭人。


「一応言っとくけど嘘バレバレだからな。つきあったことないの」

「そそそそそそそんなことないもん! もう2桁超えて経験してるから! そりゃぁもうすごいことやりまくりだし! ケートが知らないようなすっごいテクニック持ってるんだから! 」

「……本当にやりまくってたらそんな事言わねーよ」

「そ……そうだよな」


 呆れ声の圭人に焦りながら相槌を打つエルメス。


(顔に似合わずどっちも純情だよな……)


 お似合いの相手だと圭人は思った。


 ちらりと横を見ると他の女の子からの嫉妬の眼がイナミに突き刺さってるのだがイナミは気にした様子は無い。

 隣にいるティカだけが困った顔をしている。


「ほほほほ本当だもん! 昨日だって声かけて来たイケメンとホテルに行って甘いエッチしたもん! 」

「へぇ……それから? 」

「彼はとっても優しくて終わった後はキスしてくれたもん! その後ぎゅーって抱きしめて好きって言ってくれてたもん! 」

「ナンパ男なのか彼氏なのかようわからん奴だな」

「かかか彼氏だもん! 」


 圭人の突っ込みに真っ赤になって答えるイナミ。

 言ってることの辻褄が全くあってないのだがそれにすら気づいていない。


「それから? 」

「今日も夕方から会う約束してるんだから! これから大人のデートする約束なんだから! 」

「つまり、不純異性交遊をしているわけですね? 」

「そうだよ! 不純も不純! めっちゃ大人の恋愛してんだから! ……ってあれ? 」


 イナミがようやく気付く。

 後ろで合いの手を入れていた人物の事を。


「それが本当なら反省室に来てもらわないといけないんだけどねぇ……」

「あうぅぅぅぅ」


 急に身体を縮こまらせて泣きそうになるイナミ。


 後ろには肌と髪が赤い、巨乳の色っぽい女教師といった感じの女性が立っている。

 圭人のクラスの担任のリュイ=ギミアスである。


(この人はこの人で堀江由〇みたいな声だよなー)


 怒られるイナミを見ながらリュイ先生の様子を見る圭人。

 さすがに嘘だとバレバレなのでそれほど怒っていない。


「先生は話のわかる大人なので正直に答えれば許してあげますよ? 」

「嘘ついてすいませんでした! 本当は彼氏なんていません! 」

「正直で宜しい。座りなさい。そしてエルメス君。ケート君。」

「はい」

「なんでしょう? 」

 

 何故か呼ばれる二人。


「代わりにお仕置きとして服を脱いで抱き合いなさい」

「ふざけんな色ボケ教師! 」


 間髪いれずにツッコミを入れる圭人。

 どっと笑うクラスの面々


「なんで俺とエルメスが罰受けなきゃいけねーんだよ! 」

「いいじゃない。先生が見たいだけよ」

「ぼけたこと言うな! 第一! なんで裸で絡むんだよ! 」

「ただ私が見たいからやってもらうのよ。わかったら早くなさい! 」

「そんなことだから結婚できねーんんだよ……」


めこ!


「……なんか言ったかくそがき? 」

「……なんでもありません」


 顔に先生の肘をめり込ませて素直に従う圭人。


「……すごい……息ぴったり」


 どうでもいい事をつぶやくティカ。


「まぁ半分の半分の半分は冗談だけどね」

「9割本気じゃねぇか」

「計算早いわねー」


 感心したようにつぶやくリュイ先生。


(堀江〇衣みたいな声でえげつねーこと言うよなー)


 この町には綺麗な声の人が多いなと素直に思った圭人。


「まあ、それはまたの機会にやってもらうとして」

「永遠に無しにしろよ」

「イナミさん。不用意にそんなことを口走ってたら、とんでもない目に会う事もあるんですよ。注意してくださいね」

「すいませんでした」


 素直に謝るイナミ。

 それを聞いてうんうん頷いてからリュイ先生が話し始める。


「さて、今日のホームルームは既に聞いている人もいると思いますが吸血鬼が現れたとの情報があります。登下校は気を付けてください」


 ざわざわと教室が騒ぎ出す。

 だが圭人だけが意味がわからずポカンとしている。


「吸血鬼って何ですか? 」


 圭人が手をあげる。

 するとリュイ先生が少し訝しげに眉を歪ませてすぐに持ち直す。


「ああ。ケート君はまだこちらに来たばっかりでしたね。この町では昔から吸血鬼の都市伝説があるんです」

「……都市伝説? 」


 訝しげに眉を顰める圭人。


 それもそうだろう。

 たかが都市伝説で中高生のクラスに注意喚起されるなど日本では考えられない。

 小学生ならいざ知らず運動している生徒も多く、ましてや近隣でも不良が多いと知られるこの学園で出されるような注意喚起では無い。


「それがなんで注意を? 」

「恐らく、変質者の類と思われますが人が襲われて血を吸われるんです。実際に被害届も出ていて、病院での症例もあるので居るのは間違いないんですが……未だに捕まってないんです」

「捕まってない? 」


 ますます眉を顰める圭人。


「血を吸われるだけで人は死んではいないので大きな問題にはなっていないんですが、内容が内容です。いつ人が死んでもおかしくはありません」

「はぁ……」


 不思議そうにつぶやく圭人。そもそも実感が湧かないのだ。


「どんな奴なんですか? 」


 圭人の不思議そうな質問に困ったように顔を曇らせるリュイ先生。


「それが良くわからないのよ。男であったり女であったり被害者の目撃証言があいまいなので今一つはっきりしないの」

「そんないい加減な……」

「何しろ未開拓地が広がるフロンティアですのでリガルティアの宇宙全土からいろんな人達が集まります。雑多すぎて絞れないんですよ」

「なるほど……」

「ただ一つだけわかってる事があります」

「なんですか? 」

「吸血鬼は必ず美形なんです」

「…………は?」


 圭人の目が点になる。


「目撃者の証言によると人間とは思えないぐらいの美形で襲われた方が惚れ惚れするような相手だったそうです」

「……なんだそれ? 」

「本当だよ。昔から言われてるよ。この町で美形の吸血鬼があらわれるって」


 イナミが嬉しそうに解説する。


「初等部の頃から言われてるよ。美形の吸血鬼に襲われるって」

「よく集団下校とかしてたよな……」

「確か触ることが出来ないんだよな……」

「霧に変わるとか聞いてる……」


 周りがざわめき始める。

 その声を聞いて本当にそういった話がある事に驚く圭人。


「はいはい静かにしなさい。ですから、夜道で一人にはならないこと。必ず複数人で行動するように心がけてください」

「はーい」

「それからケート君」

「はい? 」

「もしエルメス君が襲われたら写真を撮ってください。美形が二人絡んでくれるとイイオカズになります」

「……あんたが結婚出来ないのはそれが原因だとわからないのか? 」


 神速の踏み込みで肉薄したリュイ先生の腰が入った右アッパーが圭人の顎に突き刺さった。


「教師への暴言の罰として生物部を手伝いなさい」

「なんで……」

「もしくは今すぐここで死ぬかのいずれかです」

「やります」


 全く笑っていないリュイ先生の目を見て圭人はうなづいた。



人物紹介

 この世界ではほとんど例外なく名前、姓、エニル名という名前があるのだが、ほとんど名前で呼んでいるので人物紹介も名前や姓までしか書かないことがあります。

 日常での識別は姓名が多いことからこうしております。


 リュイ=ギミアス


 堀○由衣みたいな声の巨乳で色っぽい先生。

 モテそうに見えるのだが、困った風評が多いので中々ご縁が無い

 

 ティカ=ルーグン


 黒髪の清楚なお嬢様系キャラだが、頭はかなり悪い。

 一応、良家のお嬢様だが、身内びいきの少ないこの世界ではお嬢様と言えども底辺高校に通う羽目になる。


 エルメス=グッチ


 学園八王子に選ばれている美形キャラ。

 何かと酷い目に遭いやすい。



 

 


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