第2話 異星の授業は何かがおかしい
ケイオンという都市は太陽系の隣にあるテトラ星系にあるリドリア星のニューガン皇国領にある町で要は田舎である。
そんなケイオンの中にはいくつもの学校があり、その中にシムラー学園がある。
シムラー区にある公立の学校で銀河系においては平均的な6年制の高等学園である。
就学困難者が行く底辺学園ではあるが、付近の住民はこう読んでいる。
「シムラー動物園」
要するに不良学校であった。
「……彼が侵攻したのはニョタイでした」
教室の中で綺麗な声が響き渡る。
こんなに綺麗な声の主はどんな美人なのかと思って顔を見たら、日本人なら残念に思うだろう。
何しろ人間の顔をしていないのだから。
目と口と耳はあるが鼻はない。
グレイに似た宇宙人のフォルムをしているが微妙に違う。
ツリマ人と呼ばれるシリコンを基とした生物なのだ。
服自体はごく当たり前のシャツとチノパンを着ているのだが意外にも良く似合っている。
白板という授業内容を説明するディスプレイ画面に手元の
ちょうど、戦争に関わるところらしく人物関係図が映し出される。
「……ニョタイ国は防衛のため軍を出しました」
フオン! フオン!
教室正面の白板の画像が激しく動く。
先ほどまで二人の王の対立理由が図で描かれていたのがすぐに戦場図に移り変わる。
生徒の
「ニョタイに侵攻したキョコン将軍は部隊をいくつかに分けて侵攻しました」
真面目な声で堂々と授業を進める先生。
「最初はブットイ=ユビやナメマワス=シタなどがニョタイのチクビ、ヘソ、ワキ、ウナジ、ミミなどのニョタイの主要なところを攻めましたがこれは陽動です」
「ぶっ……」
一人の生徒から笑いをこらえる様な息が出る。
隣の生徒が怪訝な顔をする。
「キョコンの狙いはマンコ砦でした。ここは他に比べて大分緩かったそうで、過去何度も突入をゆるした……言わばニョタイの急所とも言えるところでした」
「ぶふっ」
再び笑いをこらえるかのような声に先生が眉を顰め、明らかに気分を害した声で咳をする。
戦場図はめまぐるしく動き、実際の戦いを模したシミュレーションが繰り広げられる。
「うぉっほん! ……続けますね? そこへ勇猛名高いキョコン将軍が進撃を開始。 とはいえ、ニョタイもバカではありません。 そこには守りの名将と名高いショジョ=ノマク将軍が守っていたのです! 」
「だめだ……まだ笑うな……」
小さな声が聞こえる。
周りの生徒が訝しげにそちらのほうを見ると新しく入ってきた転校生だった。
「笑う所あったか? 」「いや? 」「笑える? 」「全然」
不思議そうに周りの生徒が小声で話し始める。
そろそろ誰が笑っているかをつきとめた先生が端末を操作して件の生徒の端末の映像を見てみる。
(……変なサイトを見てるわけではないわね)
この教室で使われている端末はごく標準的な教育用携帯端末で授業中に関係のないサイトを見るのを防ぐためにプロテクトを施してある。
とはいえ、破る生徒も出てくるのでこうやって授業中は生徒の端末を見る事が出来るようにしてあるのだが……
(……おかしなことはしてないわね……ん? )
端末には授業中に生徒が書いていることが見えるようにしてある。
これは授業内容の分かりやすさをダイレクトに目が行き届くようにしてあるのだ。
そのため、生徒が何を考えているかがリアルタイムでわかるようになっているのだが……
(えーと……キョコン将軍ってホントにいるのかよ……ほんとにそんな名前ばっかりなのか)
件の生徒が流しているメッセージを見て眉をしかめる先生。
(……は~ん……なるほどね)
先生はようやく合点が行った。
このリガルティアにおいては他国語を母国語に直すと変な意味に聞こえることがあるのだ。
特に人名や地名の場合、他では考えられないような名前がつく事がある。
(……おおかた変な言葉に聞こえているのね)
ツリマ人戦史教師キナミ=ヴィルカが苦笑する。
こればっかりはどうしようもない。
母国では偉大な歴戦の名将が変な名前に聞こえてしまうのだ。
実はこれが初めてではない。
ケイオンのようなフロンティアでは雑多な国の人達が集まる。
その中でそういった国があっても不思議ではないのだ。
日本人にとってのエロマンガ島やマン湖のようなものだ。
ちなみに世界で最もエロい名前の空港は実は『福井空港』だったりする。
日本語ではおかしくも無い福井が英語ではファックに聞こえるそうだ。
「……ケート=クヨウ=セイシュ君。立ちなさい」
「あう……」
まだ笑いをこらえながらゆっくりと立つ。
短髪に太くて黒い丸メガネが愛嬌のある顔立ちに良く似合っている。
黒髪に黄色い肌の眼鏡を掛けた少年で俗に言う黄人と呼ばれる人種である。
一年前に親の都合でこちらに住むことになった少年である。
(確か、最近発見された隣の太陽系からの移民よね? )
キナミ先生が圭人の情報を手元の端末で確認する。
このテトラ星系の隣に発見された太陽系は色々と際どい情勢にある。
教師としても対応は慎重にせねばならない相手でもあった。
「ケート君……何を笑っていたんですか? 」
キナミ先生が半分笑いながら半分問い詰めるように声をあげる。
「いえ……その……」
さすがに恥ずかしそうに照れ笑いを見せながら困っている。
「大方、変な言葉に聞こえたんでしょうが、ここはニューガン皇国でれっきとした偉人の名前ですよ? 母国語でへんな言葉に聞こえるのでしょうが笑わないように」
「……すんません」
素直に謝って席に座る。
それをみてうぉっほんと咳払いをする。
「では続きを。ショジョ=ノマクはキョコンの激しい突撃に耐え切れず破られてしまい、ニョタイはキョコンに蹂躙されました。その暴れっぷりは凄まじく、あまりの激しさにマンコには多くの血が流れました」
「ぶくくくく」
必死で笑いをこらえる圭人。
「この時キョコンがショジョ=ノマクを突いたのが名槍「カリダカ」です。「それはあまりにも太く長く大きく、そして大雑把過ぎた」と言われる名槍です」
「……なんでそこまでピッタリ合うんだ……」
笑いをこらえる圭人。
だが、キナミ先生は諦めたようにため息をついた。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る。
「おや、もう時間ですか。これが有名な『マンコの戦い』といわれています。テストに出ますので覚えておくように。今日はこれまで」
「起立」
クラス委員が声をあげると同時に全員が立つ。
「礼」
全員が頭を下げると同時にケート=クヨウ=セイシュは端末を閉じた。
すると、ケート=クヨウ=セイシュこと日本から来た九曜圭人の元に数人の生徒が集まった。
先生はそれを見て嘆息しそのまま外に出ていった。
用語説明
ツリマ人
珪素(シリコン)を基とする生命系統の知的生命体で炭素を基とするカタン人と共に銀河を二分する勢力の生命体。
他にも色んな生命系統の知的生命体も居ることは居るのだが、様々な事情が絡んで自分の星の外に中々出られないでいる。
端末
ノート型端末と携帯電話型端末がある。
基本、この二つは合体しており、用途に応じて取り外して使い分けている。
識別には体内に埋め込んだマイクロチップを使って行っているので基本的に自分以外が端末を開くことはできない。
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