第27話『たこ焼きの縁・3』
里奈の物語・27
『たこ焼きの縁・3』
作品に血が通っていない、思考回路や行動原理が高校生のものではない。
美姫のスマホには、コンクールでの審査員の評が載っていた。出所は高校演劇連盟のオフィシャル。
「ひどい評だなあ……」
そう思って、部屋に戻って、改めて桃子で検索してみた。
美姫のK高校は『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』という既成の脚本でコンクールに参加し、本選まで勝ち進んで落ちている。
で、審査員の講評が、最初の一行。
作品に血が通っていない……というのは問答無用に首を切るのと同じだ。
首を切るには、ちゃんとした理由がいる。
なぜ「血が通っていない」ように思ったのか、どこを指して「思考回路や行動原理が高校生のものではない」と断じるのか。
――作品が読みたいな――
美姫にメールすると――ネットに作品が出てる、動画サイトでも観られるよ――という答えが返ってきた。
戦時中、宝塚に入りたいと願いながら、空襲で死んだ女の子の幽霊と現代の女子高生との切なくもコミカルなドラマだった。
たった三人の舞台だったけど、美姫たちの演技は、ちゃんと観客にも届いていた。
審査員は、どこを見て首を切るような評をしたんだろうと疑問に思った。
――あの講評は変だよ――
そう送ると、美姫も同感だった。美姫は審査員長に質問状を送っていた。内容は、あたしが感じたことと同じだ。
――どこをもって「作品に血が通っていない」のか?「思考回路や行動原理が高校生のものではない」のか?――
これに対する審査委員長の答えが続いている。
――審査を終えた帰り道、ふとK高校にも、なんらかの賞を出すべきかと思いました――
これはダメだろう。
K高校に、なんらかの賞を出すべきと思った時点で、審査は無効だ。だって、自分が出した審査結果を否定しているんだもん。
「大阪って、こんなことがまかり通っているんだ!」
たこ焼きが焼きあがる前に、あたしは自分の事のようにまくし立てた。
「それは、もうええねん」
「よくないわよ、こんなデタラメやられちゃって!」
「うん、里奈が、そうやって腹立ててくれたことで十分」
「そんな……」
「あたし、自信がなかってん。うちの演劇部で腹立ててたんは、あたしだけやし。審査委員長に楯突いたんで、大阪中からボロクソに言われて凹んでたから。里奈に、そう言うてもろて救われた」
「美姫……」
「うちの演劇部、コンクール終わったら、みんな辞めてしもて、あたし一人。あたしもバイト第一の生活になってしもたし……」
俯いた美姫にかける言葉を探しているうちに「おまたせ!」の声がかかって、焼き立てのたこ焼きを受け取る。
ホロホロとたこ焼きを食べながら、お互い友だちになれた温もりが染み渡る。
年末かお正月、美姫とどこかに出かけようと思った。遠くの商店街からクリスマスソングが聞こえてくるんだもん。
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