第26話 『たこ焼きの縁・2』

里奈の物語・26

『たこ焼きの縁・2』 



 たこ焼きを食べている姿というのは、どこか緩い。


 ハンバーガーやクレープだと「同じもの食べてる」とは思うけど、それだけ。

 トレーに乗っかったたこ焼きを、爪楊枝刺して頬張っていると、どこか緩くなってしまう。熱さに目を白黒させて口の中でホロホロするとこなんか、とてもアットホームな表情になる。いっしょにベンチに座って食べていると、見知らぬ他人同士でもエヘラと笑ってしまいそうになる。

 

 そういうエヘラの中で安藤美姫に会った。


 だから、落とした台本拾って渡すだけなのに「あなた演劇部なのね」と、踏み込んでしまえる。


「うん、そう」


 美姫は、短いけど温もりの有る笑顔で返してくれた。

 昨日はそれっきり別れたけど、もう一度同じ時間にたこ焼きを食べていれば会えるような気がした……。


「アハ、また会えた!」


 闊達に声を掛けてくれたのは美姫の方だった。

「あたし、この近所なの」

「ひょっとして、アンティーク葛城?」

「え、どうして?」

「ときどき店番してるやんか」

「分かっちゃってたんだ」

「そら、おっちゃんオバちゃんらで店番してたんが、いきなり女の子になってんねんもん。葛城さんとこの子ぉ?」

「うん、てか姪。伯父さんがお母さんのお兄さん」

「そか。あたし、安藤美姫。あんたは?」

「葛城里奈、十七歳」

「あたしといっしょ! なんか縁やね!」


 当たり前なら学校に行っている十七という歳、そして大阪弁ではない言葉。普通なら事情を聞いてくるとこだけど、美姫は「縁」であることを喜んで、美味しそうにたこ焼きを食べる。


「一つ訂正ね。あたしは演劇部やのうて、演劇部やったの」

 たこ焼き食べ終わり、そろって歩いた橋の上で美姫が言った。

「ひょっとして、クラブ潰れた?」

 自分の経験から聞いてみた。美姫のオーラは「自分から辞めた」とは言っていない。

「里奈ちゃんも演劇部やった?」

「あ、どうして?」

「ハハ、そら、台本拾うてくれたとき『演劇部なのね』て聞くのは同類でしょ」

「そうなんだ……てか、あたしはね……」

「ま、仲ようなったとこやねんから、発散しようよ。バイトの給料出たとこやから、カラオケでも行こ!」



 たこ焼仲間とはいえ、いきなりのカラオケは飛躍だったけど、自然な発展に感じられた。

 その足でカラオケで九十分、喉がひりつくまで歌った。喉の鍛え方が違うのか、美姫は平気だった。


「聞いてくれる、こんなんやってんよ」


 うっすらと汗に滲んだ顔で、美姫はスマホを見せた。第五十回大阪ハイスクール・ドラマコンクールの表題が出てきた。


 そこには、とってもシビアなことが書かれていたけど、カラオケでハイになっていたので心をささくれにせずに読むことができる。


 美姫には、状況をたこ焼きモードにする才能があると思った。

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