第24話『拓馬の彼女・2』

里奈の物語・24

『拓馬の彼女・2』





 恋愛シミレーションというジャンルのゲームがある。


 主役は、たいて男の子。転校してきた学校で、何人かの女の子と知り合い、イベントや事件が起こる。

 そのイベントや事件の中で、女の子とどう関わるかによって告白したりされたり。

 上手くいくと、そこから恋人として付き合いが始まる。

 全ての女の子にいい顔をしたり、情にほだされて面倒をみていると、誰とも付き合えずに規定の日数が終わってゲームオーバーになる。

 恋愛というのは、時にエゴに走らなければ成就しない。

 恋人同士になっても、相手の気持ちや生活に関わって、良い彼氏でいなければ、彼女の気持ちは冷めていく。

 ゲームと言えどもシビアだ。


 この恋愛シミレーションに、二宮果歩という子がハマった。


 しばらくやって、果歩は疑問に思った。

――このシュチエーションなら、キスだけじゃ終わらへんよね?――

 で、果歩は友だちに聞いた。

「そりゃ、C指定のゲームなら、キス以上のことはでけへんでしょ」という答えが返ってくる。

「じゃ、実際はどうなん?」

 果歩の疑問にまともに答えてくれる者はいなかった。

 拓馬も面白半分で、キス以上のことに進むゲームを貸してやった。


「あり得ない世界だけど、とってもピュアや!」


 果歩の反応に拓馬は面食らったが、シャレで持っていたエロゲを見直すきっかけになった。

 休日には、大学生のようなナリで日本橋(にっぽんばし)のゲーム屋を二人で見て回るようになった。ネット通販で買うこともできたが、足を運んでこその好き者であると拓馬は自認していた。これは、拓馬の家の稼業が骨董屋ということが影響しているのだろう。

 骨董屋は、品物を仕入れる時には、必ず現場に行って現物を見て判断する。拓馬には、それが物との自然な関わり方であった。

「谷崎潤一郎みたいなゲームがいい」

 果歩は元来が文学少女なので、魔界や異界じみたSFやファンタジーものよりも、純愛系で、ちょっとアブノーマルなものを好んだ。


 二学期の終わりには、趣味の合う恋人同士という感じになった。


 恋人同士という自覚もあり、そういいうゲームが好きな者同士ではあったが、拓馬と果歩は手を握ったこともない。

 二人の間ではリアルとゲームの世界はキチンと区別がついていたし、晩稲(おくて)であるとも言えた。


「あの二人はいかがわしい」という噂がたった。


 休日ごとにミナミに出かけ、いかがわしいところに出入りしていると、まことしやかにイジラレた。

 ゲーム屋の中には、その種のホテルの前を通らなければたどり着けない店がある。たまたまそこを通っているところを写メられた。

 それに尾ひれが付くのはあっと言う間だった。

 ついには生活指導室に呼ばれて、事情聴取と指導を受けるハメになった。


 ここまで話して、拓馬は大きくため息をつく。


「この先は、また……話せるようになったら話すよ」


 そう言って、拓馬は冷え切ったお茶を美味そうに飲み干した。

 里奈は鶴橋まで見送る。喋り過ぎたのか、拓馬はほとんど無口だ。



――なにか話さなきゃ――



 そう思ったが、城東運河を渡るころには――こういうのも有りなんだ――そう思えて、正面からの夕日を持て余したような表情をした。

 

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