第22話『骨董屋の里奈ちゃん』

里奈の物語・22

『骨董屋の里奈ちゃん』

 

 



 アンティーク葛城は繁盛している。


 中国を始めとする外国人観光客の取り込みに成功しているのだ。

 外国人観光客の多くは、純然たる骨董ではなく、実用になるものや、出来のいいレプリカを買っていく。


 中国の団体さんは、わびさびとかじゃなくて、自然な形で鉄分が補給できるということで鉄瓶を買っていく。大型の観光バスでやってきて、嵐のように爆買いしていく。



 欧米の人は個人旅行が多く、二三人でやってきては根付や浮世絵のレプリカ(伯父さんは「新古美術」という)を買っていく。

 根付はスマホのストラップに、浮世絵は額に入れて飾って楽しむ。

 日本人のように値段の高い時代物を買って仕舞い込んでおくようなことはしない。


 伯父さんは、そういう外国人をうまく取り込んで、お祖父ちゃんの時よりもお店を繁盛させているんだ。


「せやけど、日本のお客さんにも来てほしいなあ」


 ということで、春画に目を付けた。



 春画は浮世絵の主流だったそうだ。歌麿も写楽も北斎も春画を描いている……ってか、主な仕事は、そっちの方だったらしい。

 明治になってから春画は「いかがわしいもの」という烙印を押され、日陰者になってしまった。

「考えたら分かるじゃない。富士山や東海道の名所なんかだけ描いてて儲かるわけないじゃん」

 女三人連れのお客さんに教えてもらった。

「こないだは、細川元総理のコレクションが展覧会に出てたんだよ」

 と、フェミニンボブさん。

「フランスじゃ、春画は芸術品よ」

 と、ポニテさん。

「文春で春画特集やるんだもんね、もうメジャーよ」

 ヒッツメさんが締めくくる。

 価値基準が自分の感性にないことは「あれ?」だったけど、女の人が大っぴらに春画を見たり買ったりできるのは、いいことだと思う。


 伯父さんは、春画のレプリカにパンフレットを付けたのをセットにして3990円で売りだした。


 拓馬んちから帰って、袋詰めを手伝ったのが、それ。



 昨日は15セット、今日は33セットが売れた。

 夕方には中国の団体さん同士がガチンコして、店の外まで混雑。あたしがお客なら、この混雑を見ただけで気後れして帰る。

 でも、根付目当ての外人さんや、春画女子の人たちは臆せずに目当ての品物にアタック。

 あたしも、そういうお客さんを相手にレジを打てるようになった。さっきの三人連れさんみたくお話しもできる。

 今里に居る限り、普通の女の子で存在できる。

 お客さんもご近所も『骨董屋の里奈ちゃん』というカテゴライズで接してくれる。


 カテゴライズは嫌いだ。でも『骨董屋の里奈ちゃん』というのは有りだと思う。


――こないだはゴメン。また、そっち行っていい?――


 お店が終わって『骨董屋の里奈ちゃん』のテンションが弛まないうちに、拓馬にメール。

――オレが、そっちに行くってのはどうかな?――

 と、返って来た。

 拓馬は、いつもあたしの一歩先に出てくる。びっくりして腰が引けることが多かった。

 今度は素直に――どうぞ――と返事ができた。


 とりあえず、あたしは『骨董屋の里奈ちゃん』さ!

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