第21話『エロゲに偏見はないけど……』

里奈の物語・21

『エロゲに偏見はないけど……』





 エロゲに偏見はない……見たのは初めてだけど。


 一つのフレーズで人をカテゴライズするのは間違っていると思う。


 中二病、ツンデレ、マジキチ、ヤリマン、ネトウヨ、というようなネット言語のカテゴライズ。要は昔のレッテル貼り……それ以上に浅はかで罪が深い。

 でも、青春ドラマだと思って見せられたゲームが、いきなり女の子を凌辱するような展開になったらビックリで、理性的な反応ができない。



 きっと怖い顔をしていたんだろう、拓馬の表情も硬くなってしまった。

 互いに訳のわからないことをラインのフレーズみたく、千切るように言って沈黙。

「あたし、帰る」

「そっか」

 二人合わせて二秒にも満たないやりとりで別れる。お茶を持ってきたお祖父さんが、お盆を持ったままオロオロ。


 ランナーズハイはきれいさっぱり消えてしまった。今里までの帰り道でも蘇ってはこなかった。



 お店に戻ると。伯父さんとおばさんが、入試案内のようなものを袋詰めにしていた。


「手伝います」

 そう言って、店番用の前掛けをする。

「あ、これはええよ」

 伯父さんが、少し慌てたように言う。

「でも、数多そうだから」

 そう言って、A4ほどの茶封筒を持ち上げる。

「あ……!」

 あたしってば、封筒を逆さに持ったので、中身が床に落ちた。

「うわー……!」

 それは極彩色の錦絵だった。ザンギリ頭のオニイサンと日本髪のオネーサンが切なそうに半裸で絡んでいる。


 気まずい間があいた。


「これは春画いうてな、浮世絵やら錦絵では主流になってたもんや。長いこと日陰者扱いやったけど、最近は見直されて女の人が買いに来る」

「けど、里奈ちゃん、これは手伝わんでもええよ」

 おばさんが、落ちた春画を拾おうとした。

「あたし平気、ってか、面白い……これも、これも、イケてる!」


 高校生の常套句で感嘆したけど、ほんとうに春画は新鮮だった……。


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