第20話『オッス、拓馬!』
里奈の物語・20『オッス、拓馬!』
『アンティーク葛城』から拓馬の『骨董吉村』へは角を二つ曲がるだけ。
そういうと、ほんの近所みたいだけど、地下鉄二駅と環状線一駅分ある。
大阪の都心は碁盤目状に道が走っているので、あそことあそこの角を曲がってという具合に簡単になる。
グーグルアースでシュミレートしてみるとあっけないくらい直ぐにつく。
だから、自転車を借りて走ってみた。
環状線のガードを潜って三菱UFJ銀行のとこで南に折れる、玉造筋からは真南。
お日様が真正面で暖かい……夏だったらカンカン照りだろうから、自転車で出かけようなんて絶対思わない。
だから、思い付きで拓馬んちに行くなんてありえない。
拓馬んちが見えてきたころには、自分が引きこもりだなんて信じられないくらいハイになった。
一過性のランナーズハイだろうとは分かってる、でも久々のハイなので素直に身を任せる。
オッス、拓馬!
店の前を掃除してた拓馬に爽やかに声を掛ける。
「おう、やっぱ来たか」
やっぱとは言うけど、意外そうなのは分かる。スカイプで「うちに来いや!」と言われた時は腰が引けていたもん。
「いつもお祖父さんと二人なんだね?」
店番のお祖父さんに挨拶したあと、ちょっと不躾な質問をしてしまった。
「うん、オレ一人っ子やし、親は両方ともいてへんからな」
ちょっと鈍そうな顔で拓馬が答えた。
傷に直に触れるような質問をされたとき、人は鈍そうな表情になる。自分を含め、この一年近くで覚えたこと。
拓馬んちに親がいないことは、何回か来たことや、家の様子からは察していた。
親がかたっぽ居ないだけでも相当な理由がある。うちが第一そうだし。
だから親が居ない理由なんて、相手が言わない限り不躾に聞いていいことじゃない。
「せっかく来てくれたんやから、オレの挑戦の一端を見せよか?」
「うん、見せて!」
思いがけない申し出に、元気いっぱいの返事をした。
「このヘッドフォンして」
拓馬が差し出したヘッドフォンをかける。拓馬は分配器から別れた小さいほうのヘッドフォンをかける。
パソコンの画面が明るくなって、CGで描かれた学校の教室が現れる。
拓馬がクリックすると、イケメンの男子とファニーな女子が現れた。
友だち以上恋人未満という感じの二人は、共通の友だちカップルのことを心配している。
――ああ、友だちのことを心配しながら、実はお互いの心を探ってるんだ――
ラノベと言うよりは、青春ドラマ。基本的には目パチ口パクの二次元なんだけど、微妙に揺らめいたりして、動画的になっていた。
なによりデッサンが良くできていて、ラノベの挿絵なんかと違うグレードの高さ。
友だちの話をしながら、しだいに自分たちの想いにも灯りが灯り始めたところで下校を促す放送が入る。
『あ、ゴミ捨て当番だったんだ!』
女子は、足元のゴミ袋に気づく。
『付いてってやろうか?』
男子が提案。そこで分岐が出てきた。
A:いいよ、一人でいってくる。正門のとこで待ってて。
B:えと……じゃ、いっしょしてくれる?
「里奈、どっちにする?」
「あ……さっさと済ませて、ゆっくり二人で帰りたいかな?」
「じゃ、Aだな」
拓馬がAをクリックすると、校舎裏に替わった。
そしてファニー女子がゴミ捨て場にやってくると、BGがサスペンス風になった。
ファニー女子は、いきなり後ろから口を塞がれ、ゴミ袋の山に押し倒される。女子は顔の分からない二人の男子に襲われてしまったのだ!
――え、青春ドラマなんじゃ?――
危うく暴行されそうになったとき、虫の知らせか男子が戻ってきて女子を乱暴しようとしていた不良生徒をぶちのめし、他の二人が怯んだところを、女子の手を取って走り出す。
追って来る不良たち!
再び選択肢。
①:そのまま校門を出て逃走 ②:目についた体育倉庫に逃げる
①を選択すると、不良たちに追いつかれ、男子はぶちのめされた後、女子は凌辱される。②を選択すると、からくも不良たちをやり過ごせる。すると、さらに選択肢。
①:危機を脱した安堵感から二人で初体験してしまう ②:人気が無くなるのを確認して裏門から帰る
最後の②以外の選択肢を選ぶと、全部十八禁の展開になってしまった……。
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