第19話『桃子といっしょに』
里奈の物語・19『桃子といっしょに』
桃子とばかり遊んでいる。
桃子というのは、伯父さんがプレゼントしてくれたピンクのパソコン。
F社製で、ハードディスクの容量は2テラバイトもある。買ったら二十万近くはする。
「桃子って、すごいんだ!」
アマゾンで色違いの同型を調べて、思わずガッツポーズしてしまった。
ノート型パソコンでピンク色というのは、どのメーカーでも人気。
でもデスクトップとなると人気が無い。
女の人はデスクトップを使わないんだろうか? それともデスクトップは業務用が多く、ピンク色というのは業務用には相応しくなんだろうか?
あたしの十七年の人生経験ってか知識では分からない。
ともかく、スマホとは比べものにならないくらい画面が大きいし、サクサク動く。
ユーチューブとニコ動のアカウントをとって、いろいろ観てみる。
クリスマスソングで始めて気が付いたら、シャンゼリゼ通りにたどり着いていた。こういうのネットサーフィンていうんだろうか、なんだか夢を見ているみたいでおもしろい。
目が疲れたので、桃子をツケッパにして顔を洗う。
「お母さんから手紙きてるわよ」
おばさんが封筒を渡してくれる。いきなり現実に引き戻される。
「なんだろ……」
封筒の中にハガキの手触り。放っておいてもいいんだけど、いずれ開けなきゃならない。桃子で元気になったうちに開けてしまおう。
――真央ちゃんからハガキが着てました――
メモと一緒に入っていたのは、お祖母ちゃんが亡くなったので年賀状出せませんという喪中葉書。
そういや、去年は、まだ年賀状なんて出していたんだ。
グーグルアースで奈良の街を歩いてみた。
更新されていて、今年の四月の画像。
「あ、あたしが写ってる!」
N女子大から鍋屋町に向かう道で制服姿のあたしが写っていた。
むろん顔にはボカシがかけられているけど、髪形と靴と鞄、なによりもオーラで自分だと分かる。
五月には学校に行かなくなっていたので、真っ当なあたしの最後の姿。
ひょっとして……閃いて通りを北に進んでみる。
「居た……」
押小路町が右手に見えるあたりに同じ制服を着た三人の女子が写っている。
「やっぱ、つけられてたんだ……」
彩芽と美和……もう一人は…………うそ、真央!?
もちろんボカシ顔だけど、オーラは、あの三人。彩芽と美和はヒールって言っていいやなやつ。
だけど、真央は数少ない友だちだった。たった今も真央の喪中葉書を受け取ったとこだ。
グーグルアースを閉じる。画面はヤフーの奈良のニュースに切り替わる。
――奈良の男子高校生、学校の窓から飛び降り――
こういうニュースの気分じゃないので、メニュー画面に。
「もう切ろうかな……」
思いながらシャットダウンできずに、スカイプのアイコンをクリック。
「そんなに都合よく繋がらないよね……」
ダメ元でやったら、すぐに拓馬が出た。
「オレも、いま立ち上げたとこ」
やつのニンマリ顔がアップで出てきた。心の準備が出来ていない。
「あ……えと、拓馬が挑戦してることって何なのよ? もう教えてくれていいでしょ?」
「スカイプでは言いにくいなあ、そや、里奈、今からうちに来いや!」
「あ、それは……」
引きこもりとは思えない飛躍に、だたじろいでしまった。
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