第12話『似た者同士』

里奈の物語・12『似た者同士』





「危ない!」

「キャ!」


 拓馬に引き倒されるようにして、アスファルトに転がった。

 それまで立っていたところをワンボックスカーがかすめていく。

 砂っぽいのと干し草みたいなのと二つのニオイがした。

「大丈夫か!?」

 伯父さんの声が降ってきた。


 車載カメラがワンボックスを捉えていた。


「ナンバーも車種も分かってるから、すぐに捕まえますよ」

 駆けつけたお巡りさんが眩しいくらいの頼もしさで言った。

 パトカーを見送ると、とたんに目眩がしてしゃがみこむ。

「病院に行こう」と言われたけど「いい、少し休めばいいから」と返事。

 拓馬の家のリビング、ソファーで横になる。

「ごめんな、つい力が入ってしもて」

 ティーロワイヤルをテーブルに置いて、目の高さで拓馬が言う。やっぱ干し草の匂い。

「ううん、ちょっとビックリしただけだから……」


 ほんとうはちょっとなんかじゃない、あの時の感覚が蘇ってしまったんだ……あの時の。


 たいしたことじゃないと思ってたけど、あたしが、こうなっていることにはいろんな原因がありそう。

 拓馬が心配し過ぎるので、身体を起こす。

「ありがとう……助けてくれなかったら轢かれてた……おいしい」

 二人称を省略してお礼を言う。不自然さをティーロワイヤルでごまかす。

「おばさんが着替え持ってくるて、電話で言うてはったよ」

「え、あ……うん」

 おばさんまで来たら、今里の店は臨時休業……申し訳ない。

「……オレ、拓馬、吉村拓馬。お祖父ちゃんの孫」

「うん……あ、あたし里奈、葛城里奈。伯父さんの姪」

 互いに芸のない挨拶。

「里奈って……引きこもりやねんやろ」

 いきなりの直球に、返事も表情も間に合わない。

「キ、キミも……でしょ」

 相手の足の下に地雷を置くような物言いになる。

「ハハハ、似た者同士、よろしくな!」

 元気よく伸びてきた手に、企まずして笑顔で握手。


 なんで、こんな奴が引きこもり? ってか、あたしも拓馬って二人称が喉まで出てるし……。 



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