第13話『挑戦的引きこもり・1』

里奈の物語・13『挑戦的引きこもり・1』



 干し草の匂いを知っているわけじゃない。


 ラノベで、そう言う表現に出会って「素敵だなあ」と思い。DVDで見た映画に、ピッタリの情景があった。

 昨日「骨董吉村」の前でワンボックスに轢かれそうになり、とっさに拓馬が庇ってくれて……その時の彼のニオイ。


 あの後、目眩がしたのは、事故のショックかニオイのせいか……一日たった今日は分からなくなってしまった。


 あのワンボックスを運転していたのは、あたしたちと同じ不登校の高校三年生だった。

 あたしは轢かれかけただけだけど、ワンボックスは、あの後一キロちょっと走って人を撥ねた。

 撥ねられたのは、これまた同じ不登校の中学生。

 中学生は、近所のコンビニに行く途中の災難だったらしい。

 その中学生は、怪我が治っても、もうコンビニにも行けず、本格的に引きこもってしまうだろうなあ……。


 偶然が重なったんだろうけど、引きこもりや不登校はこんなに多いんだ。


「……こんな感じで倒れたんです」


 あたしに触れ合わないように身体を重ね、拓馬がお巡りさんに説明。

 ここまでやるかと思ったけど、実況見分は厳密だった。

「なるほどな、この位置でミラーにワンボックスが写って、直ぐに里奈さんを庇った。その時にワンボックスが通るのを、里奈さん見てたんやね?」

「はい」

「班長、時速50キロぐらいですね」

 バインダー持ったお巡りさんが、素早く計算して班長のお巡りさんに報告。

「車載カメラの映像では60キロは出てるから、アクセル踏んどるなあ……君らを撥ねかけたのは自覚しとおるなあ」

 どうやらワンボックスの高校生が、あたしたちを轢きかけたことを自覚していた証拠を固めているようだ。


 故意か過失かで責任の重さが変わってくるんだろうな……。


 拓馬のお祖父ちゃんが験直しにすき焼きを作ってくれる。

 割り下を使わないすき焼きは新鮮。関西に越してきて、数少ない好印象の一つ。



「ねえ、拓馬君」

 すき焼きの新鮮さか、二日間に渡って友だちの距離さえ超える近さ、そのせいか「君よび」が自然に出てくる。

「ん……ハフハフ……」

「拓馬君て、引きこもりだよね?」

「ホ……ヘヘハ……ヘホ……ハホ……」

 かなりの猫舌のようで、熱々のお肉が呑み込めず返事ができない。

「ハハ、ちゃんと卵で冷ましてから食べんかいな」

 お祖父ちゃんが笑いながら言う。それだけでリビングに温かさが満ちる。

「ハハ、やっぱり同類には分かるねんな」

 外国旅行で日本人に会ったら、こんな具合という人懐こしい顔を向けてくる。

「一見そういう風には見えないけどね」

「ああ、オレは挑戦的引きこもりやさかいな」

「挑戦的引きこもり……?」

「うん」


 干し草に火が付いたような気がした。



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