第9話『どなたに投票されましたか?』
里奈の物語・9
『どなたに投票されましたか?』
妙子ちゃんの声で目が覚めた。
「あ……帰ってたんだ」
「選挙行くんだけど、ついてくる?」
「え……うん」
怖気が先に立ったけど、ここは奈良の地元じゃないから付いていくことにした。
うざったく絡みついてこなければ、人間には興味があるほう。
「忙しいみたいね、新しい会社」
小さな横断歩道の赤信号で律儀に立ち止まり、聞いてみた。
「うん、良くも悪くも即戦力。里奈ちゃんの相手できないでごめんね」
「ううん、そんなことない! お店に出ててもおもしろいから」
指が千切れそうなくらいに、広げた手を振った。
「あ、青になった」
ホタホタと渡って公園を斜めに横断、チラホラと投票所の小学校に向かう人たちといっしょになる。
「年配の人が多いね」
「若い人は、どうしてもねえ……」
「フフ、妙子ちゃんだって若いのに」
「ハハ、もう気分はオバサンやなあ」
従姉妹同士の気楽さで……というよりは、妙子ちゃんの気楽さで、ずっと喋りっぱなし。気づいたら投票所の中。
「あ、付き添いだから……」
顔を赤くして、出口に向かう。
前のオジサンが投票済み証の前を素通り。
「あ、忘れてますよ」
一枚つかんで渡そうとする。
「おおきに……二枚あるさかい、一枚どうぞ」
「あ、ども……」
勢いで受け取ってしまう。流れのままにグラウンドに出ると声を掛けられた。
「どなたに投票されましたか?」
いかにも放送局というオネエサンがマイクを向けている。
「え、ああ、市長は〇さんで、知事は△さんです」
テレビでよく見かけた○さんと△さんの名前を挙げる。ちなみに二人とも嫌い。嫌いだからこそ名前を憶えてしまった。
でも、とっさに口に出るのは……やっぱ、ひねくれ者なのかもしれない。
「ハハハ、おもしろいなあ!」
妙子ちゃんに笑われる。
「でも、有権者に間違える? あたし、そんな年上に見えるのかなあ」
「そら、投票所の出口から出てきて、投票済みの紙切れ持ってたら間違われちゃうって」
「あ、そか……」
流されやすく、その場しのぎの性格を反省……。
でも、今夜の開放速報は楽しみになった。
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