第8話『空飛ぶ鉄瓶・2』

里奈の物語・8『空飛ぶ鉄瓶・2』





 日本で一番狭いのは香川県。


 でも、本当は大阪府。


 海を埋め立てて関空ができて香川を抜いた。だから、デフォルトの面積では大阪が最狭。


 その最狭が眼下に広がっている。なんだか超大型の観覧者に乗って、遊園地を見下ろしているぐらいに可愛い狭さ。


「わー、広い!」

 その子が、真逆に感動した。

「え、広いの?」

「うん、広いよ。今までいたところが狭すぎるってこともあるけど」

「あなたって……」

「さあ、行くよ!」

「うわ!」


 はてなの鉄瓶は、急降下して大川に、大川の上空を遡って淀川に、そして淀川を北東に遡っていく。

 

「うわー、すごいすごい!」       「生駒山系」の画像検索結果


 その子に聞きたかったことも忘れて景色に見とれた。

 北摂の山々が左側に、生駒山系が右側に迫ってきて、二つの山並みの隙間、その向こうに京都の街並みが見える。

「うわっ!」

 京都に突っ込む寸前で、はてなは90度以上右に急旋回! 左にこぼれそうになったあたしを、その子が支えてくれる。

 はてなは生駒山系の頂上をなぞるように飛んでいく。


「わたし、空を飛ぶのは初めてなの」

「え……もう何回も飛んでるみたいに見えるけど?」

「こうして飛べるのは、里奈ちゃんのおかげ」

「あたしの……?」

「一人ぼっちでいるのを助けてくれた。だから、こんな広い世界を見ることができる。わたしがいた場所は、こんなに広い世界に繋がっているんだ」

「あたしが助けたの?」

「とっても……とっても……」

「とっても……?」


 その子は、とっても感動している。でも「とっても」のあとは言葉にしてくれない。

 あたしは、人が、こんなに感動しているところを見たことが無い。あたしは、その感動に感動した。

「そっか、素直に感動していればいいんだよね」

 その子が小さく頷いた。あたしも頷く。

 頷いた分だけ、視界が揺れる……え、揺れが止まらない……グラっときた!


「痛ったーーーーーーーーーー!」


 ベッドから落ちて目が覚めた。

 伯父さんに植え替えてもらった菊が、机の上、はてなの鉄瓶の横で萎れきっていた……。 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る