第6話『中国の団体さん』
里奈の物語・6『中国の団体さん』
日に二度ほど店に出る。
出ると言っても一人じゃない、伯父さんかおばさんが居る。
お客さんたちは店の売り子だと思ってくれる。
実際、売り子の仕事をするんだ。
「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」の他に、簡単なものならラッピングとかの包装もやる。
お祖父ちゃんが生きていたころ、横についていて憶えてしまったんだ。
「おや、店員さん?」
お得意さんが聞く。
「妹の娘です」
伯父さんが、そう答える。
あたしは笑顔で商品を包み「ありがとうございました」。
商品を包む手際と挨拶は堂にいっているので、それ以上の詮索はされない。
店番の里奈ちゃんということで、お客さんは温かい目で見てくれる。
女子高生というカテゴライズは嫌い。クラスメートというカテゴライズはもっと嫌い。
何を言われるか、何をされるか分かったもんじゃない。
店番の里奈ちゃんはいい。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」。
それだけで、人に温かく接してもらえるし、それ以上深入りされることもない。
お昼を食べて、伯父さんと交代。おばさんと店に出る。
え…………?
戦車みたいな音がして(戦車なんて見たことないけど)観光バスが店の前に停まった。
太ももの後ろからお尻にかけてザワってきた。学校じゃ、しょっちゅうきた感覚。
「逃げろ!」のサインが頭の中で点滅。でも、いつものように体は動かない。
「ニーメンハオ!」
おばさんが、店の前に立って、バスから出てきた団体さんに声をかけている。
見かけは日本人と変わらない団体さんが、狭い店の中に入ってくる。
あたしの身体がやっと動いた。
「い、いらっしゃいませ!」
それだけ言って、店の奥に引っ込む。
「里奈ちゃんは奥で包装だけやってくれる?」
伯父さんが、そう言って、お店に出撃。お店は、さっきの倍ほどの賑やかさになった。
伯父さんもおばさんも団体さんと同じ言葉でやり取り。レジに行った方がいいのは分かっているけど、足が動かない。
ニ十分ほどで、団体さんは帰って行った。
その間、おばさんに手伝ってもらい、百ほどのアンティークをレジ袋に入れるだけという簡易包装。
こないだ仕入れた鉄瓶が全部売れた。
レジの中は諭吉さんでパンパン。
「なんで、鉄瓶ばっかり売れたんですか……?」
「中国は健康ブームでね、鉄瓶でお茶を入れると鉄分が補給できるんや」
「はー……」
返事はしたけど、意味は分からない、鉄分の補給なら他にもあるだろう。十万前後するアンティークでお湯沸かす意図は分かんない。
「でも、それをレジ袋に入れただけでよかったの?」
お客さんにも商品にも悪いような気がした。
「うん、ちゃんと包装しても空港でゴミになるだけ」
「それに、レジ袋に入れただけでも、中国のお客さんは大事にしてくれるわ」
「安い買い物やないさかいな」
伯父さんは、そう言いながら三つ目の諭吉の束にゴムバンドをかけた。
「はてな……あなたも水が漏れなきゃ、中国に買われていったかもよ」
頬杖ついて、はてなの鉄瓶にため息ついた。あやうくカナヅチで叩き割られるとこだった鉄瓶に親近感。
あたしが、ここに来て一週間がたっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます