第4話 その衝動の理由

 その日もウィルはブロワに自分の書いた小説を見せて感想と指摘をうけていた。

「俺なんて正直あんまり向いてないと思うんだけどどうしてこんなこと続けてるの?」

「お前が自分で向いてないって思ってるのに書く奴だからだよ」

 ブロワに茶を出すとなんだよそれと不満そうにウィルは椅子に腰かけて不貞腐れる。

「向き不向きとか才能のあるなし関係なく書き続ける奴は書き続けるんだ。お前の親父もそれにお前もな」

「俺は別に」

「そういいながらいつもこうやって書いてよこすだろ?心無い奴に文句言われて何度筆を折って何度それで退化したとしても、結局そのうちまた書き始める。報われる事がけしてないとわかっていてもやめられない」

 ブロワは原稿を読み終えるとじっとウィルの目を見た。

「理由のない衝動は夢なんて生易しい言葉じゃ形容しきれない呪いみたいなもんだ。お前みたいな奴はとくに憑り殺されやすい、俺の仕事柄実際に何度もそういうやつを見てきた」

 ウィルは自分がまだ太郎だった頃のことを思い浮かべていた。

 たしかに書いて書いて書き続けて死んだのは事実だが、それは自分の意志でやったことだと彼は自負している。だからこそ今度は自分の身の丈に合ったやり方で生きていきたいと望んでいるのだ。

 書くことは呪いではない、それだけはウィルは絶対に譲れないと心の中で強く思った。

「おじさんになんて言われようと俺は書くのをやめないよ、それに呪いなんかじゃない。才能がないのは自覚してるけど俺は俺の意志で書くんだ、そのことだけは誰にも否定させない」

「お前ならそういうと思ったよ。だが俺も知己の息子が野垂れ死ぬのをほっとけるほど薄情でもない、お節介をさせてもらう」

 そういうとブロワは赤ペンで修正箇所と指摘を書き込んだ原稿をウィルに突き付けた。

「今のうちにお前に生き延びる方法を叩き込んでやる。どれだけ才能がなくてもどんなに運に恵まれなくても、書くことに憑りつかれた奴が生き延びるための手段を徹底的にな」

「良い人っぽい話をしてるけど、そのニヤつき笑いはほかにも理由があるんでしょ?」

 ウィルが原稿を受け取りながらブロワに言うと、彼は本心を見透かされて驚くと愉快そうに笑った。

「俺は最終的に俺が楽しくなる事をするだけさ、聞くんじゃなく目的を見抜いてみな、お互いに利用しあう仲になろうぜ。そうしたらようやくこのゲームは対等になる」

 そうやって葉巻をふかし始めた彼にウィルはいつまでたっても何を考えてるのわからない奴だと思った。でもそんな彼をどこか憎めない自分もいて、本当にわからないのは自分の考えてる事なのかもしれないなとお茶のお代わりを淹れながら考えるのだった。

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