2021年12月

邪魔

今月は芸術の秋ということで、秋の本祭りです。


*邪魔/奥田英朗

最悪につづき、3人の主人公が交錯するお話し。単行本で上下巻。

事件のおおよそは、上巻で回収されていたので、どういう風に収束するかだけかなとおもっていたのですが、下巻の真ん中で世界が反転します。

一見矛盾ない主観について、もう一回これまでの描写の不可解さを確認したくなる。そんな仕掛けがありまして、さすがってなりました。

解説の人いわく、奥田さんはプロットよりもディティール重視ということらしいのですが、これプロットなくよく終結させられるなとおもいました。


*打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?/大根仁

*少年たちは花火を横から見たかった/岩井俊二

どちらも岩井俊二氏原作。原作をifもしもドラマ版に改変されたものがドラマ版だが、大根氏はアニメ版、岩井氏は「檸檬哀歌」と「少年たちは〜」のミックスしたものが、上記二冊らしい。

大根氏は場面切り替えがアニメプロットっぽくてよかった。岩井氏は読みにくいものの、ちゃんと一人称視点が統一されていて、ちゃんとジュブナイル小説だなとおもった。

ドラマ版も非公式動画で見てきたんですが、よかったです。

「次会えるの、二学期だね。楽しみだね」

すごく切なかったです。

ちなみに、前述の邪魔な主人公のひとりも本作のヒロインも及川姓でびっくりしました。


*非常時のことば 震災の後で/高橋源一郎

評論。

震災前と震災後では読める文章が変わってしまった、ということが書かれている。たしかに、わたしも音楽でいうとALI PROJECTを数年聴くことができなくなってしまった。あるいは、バンド相対性理論もあのゆるゆるな歌詞を書けなくなってしまったのではないかと感じている。それはわたしたちの価値観がゆらぎ、ことばやおんがくも受け付けなくなってしまったからかもしれない。

現在のCOVID-19禍でも、そういうことがありそうですね。特に、身体をつかったコミュニケーションは変わった。最近、わたしが推しているアイドルグループくぴぽも、コロナ前はジャイアントスイングしたり、バットで殴ったり、ボール投げたり、ハグしながら風船割って行ったりフロア芸が有名だったようだが、コロナ禍ではそれらは禁じられてしまった。そのかわり、メンバー同士でわちゃわちゃする芸も生まれた。生物って、適応しながらいきていくものなんだね。


*刺繍/坂本真綾

歌詞パートは提供曲と千里の道以外は存じ上げているので、基本的にはエッセイパートメインで読みました。

光あれの裏話や過去を振り返り現在の心境などがわかってよかったです。あとがきでまさかのさいごの果実のワンフレーズをピックアップしてくれてて胸熱でした。やはりあの歌詞は真綾の心からの叫びだったのかもとおもいました。あと、サントラにしか収録されていないサンクチュアリも公式認定受けたのでとても良かったです。


*ラッシュライフ/伊坂幸太郎

すごく良くできた群像劇。登場人物それぞれの物語がありながら、どこかでつながっているのが素晴らしい。

メインの5人の主人公のうち、半数がグッドエンド、もう半数がバッドエンドって感じなのも、ラッシュライフ、豊富な人生ってかんじでよかったです。物語がつながっているから、ちゃんと大切なものを選べたから、救われる(予定)なのも良かったです。

本作で出てきた変わった空き巣の黒澤さん、以前読了したホワイトラビットと同一人物っぽいです。元ネタがあったのね。本作の黒澤さんはどちらかと言うと、ハッピーエンドだけれど、明らかな損も得もしないと言うところが、逆に魅力的なのかもしれませんね。きっとこの先も黒澤さんは変わらないのでしょう。伊坂さんの作品はクロスオーバー的であったりするらしいので、今後はできれば発表順に読んだ方が良さそうです。


*ガール/奥田英朗

伊坂さんももちろん読めるのだが、奥田さんの文章は空気の如くスルスル入ってくる。読んでいてつまづくことは少ない。わりに、描写が細かい。女性ファッションなど、視点も女性寄りに事細かに表現されていて、すごい。

以前読んだマドンナが中年男性視点だとしたら、こちらはバリキャリ女子視点。女性にはガールを辞める時が来るのか? あるいは、自分が選ばなかった道を羨んで後悔するのか? など、老若男女がよんでもおもしろい気付きがいっぱいあるとおもいます。

わたしもヒロくんのように寛容でありたいとおもいました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る