第85話 ダンジョン攻略へ
ラウム王国の騎士達は追加で来る人はいなかった。
聖騎士のロイスさん、ブラックナイトのラフタルさんとアリオーシュさんの3人。
人数が多すぎても進行に差し支えるということだったので少数精鋭というわけだ。
ほどなくして勇者メンバーも揃い始める。
「お、おはよう飛騨君」
頬を少し赤らめながら挨拶してくれたのは東雲だ。
朝日に照らされてなびく黒髪がサラサラと美しい。
先日打ち明けた告白を思い出し、一瞬だが挨拶をするタイミングがずれる。
「あ……、おはよう東雲。 きょ、今日はいい天気だね」
「えっ? う、うん。 そうだね」
昨日まで普通に話せていたのになぜかぎこちない返答をしてしまう。
目と目が合わさるとお互いにスッっと視線がずれる。
つい反射的に恥じらいというか、そんな感情が湧き出てしまった。
横目で彼女を見てみると、どうやら彼女も同じ気持ちだったらしい。
そういった姿を見せる彼女も実にかわいらしい。
思わず口角が上がりこちらも頬が熱くなる。
「はっはーん、いや~ついに春がきてしまったというわけですかぁー」
「な、なんだよ桜田!」
「そ、そうだよ別に私たちは……!」
「別にぃ~私はあんたら二人のことだって言ってないんだけどー」
「「……!」」
軽い口調で俺たちを窘めるチャラチャラとしたルックスの彼女は桜田という。
見た目も口も軽いが本当のところは精神に一本筋が通っているような真っすぐな女性だ。
東雲とも仲が良く、やはりというかなんというか彼女には俺たちの関係は筒抜けみたいだった。
「いいっていいって。 あんたら二人見てるとじれったくてしょうがなかったからさ」
「だよなぁ~。 いつも早くくっつけって思ってたぜ」
「この鈍感なスザクが気づくくらいだから相当なもんだよあんたたち……」
桜田と一緒に来たのは茶色みがかった髪と小麦色の肌をしているさわやか系スポーツ男子の伊藤スザクだ。
彼も探索メンバーの一人。
どうにも恋愛絡みのことは苦手だ。
それ以外のことだったら雰囲気というか、成行みたいのがわかるというのに……。
続いて3人現れる。
一人は末永冬華。
彼女は小動物系といったらいいのだろうかそんな印象を受ける女性だ。
とても珍しいスキル「龍化」をもっている。
スキルの特徴は至極単純で、竜の力を発揮することができるというもの。
単純かつ強力、勇者メンバーとして相応しい実力が備わっているそうだ。
ちなみに今は銀髪に尻尾なども生え竜人見たいな姿になっている。
元々は黒髪でぽわぽわしている感じだったのだが、どことなく彼女の雰囲気は引き継いでおり凛々しい竜、というよりも小動物さが一段と増したと表現したほうがいいだろう。
人間の姿にも戻れるらしいのだが、どうやらあの姿が気に入っているんだそうだ。
とても似合っているし、返信している理由もうなずける。
もう一人は下地いづな。
あまりしゃべっているところはみたことがない。
ミステリアスな少女といったところ。
何でも本を媒介として多種多様なスキルを駆使することができるそうだ。
汎用性に長け、ダンジョンでも大いに活躍してくれることだろう。
そして最後が大西たけし。
こちらの世界に来る前は粗鋼が悪く迷惑なやつではあったのだが、ロイスさんにぶっ飛ばされてから態度が一変した。
彼女を心酔しているような節があり、色々と丸くなっている。
実力も彼の努力によって数段上がっており、頼りになる存在といえるだろう。
以上10人がダンジョン探索のメンバーだ。
俺たちの使命は高レベル帯のモンスターを討伐し、効率の良いレベリングをすること。
そして最下層にあるという、超強力なアーティファクトを持ち帰ることだ。
俺たちの働き次第では魔王軍の戦いを有利に運ぶことができる。
気を引き締めて行かなければ。
……ただ、懸念点がある。
本当に自分たちの力が魔族に届くものなのだろうか。
本当にアーティファクトが魔族に対抗しうるものなのか。
少なくとも大半の魔族を殲滅することは可能なはずだ。
だが、今も脳裏にこびり付く圧倒的な存在。
緑炎の悪魔たる彼を倒すという未来が見えないのだ。
それはまず間違いない。
しかし、この探索をすることには大きな意味があるはずだ。
なぜかその確信が俺にはある。
だからその確信を信じ俺たちの進むしかない。
メンバーを確認し終わったアリオーシュさんが軽い挨拶をする。
一通り注意事項や作戦を伝え、皆の意識を奮い立たせる。
やはり歴戦の戦士たる彼の言葉には一つ一つ重みがあった。
頼もしい限りだ。
「では現在探索が完了している第25階層へ移動し、最下層を目指します。 各々のポジションと役割をしっかり把握しておいてください。 決して無理はせず我々ブラックナイトと聖騎士のロイスさんに頼れるところは頼っていただければと思います」
「どうして私が勇者どものお守りをせぬばならんのだ」
「何かいいましたかロイスさん?」
「……いえ、なんでもないです」
「クックック……、勇者の力を借りずとも我がすべてを薙ぎ払ってくれる!」
「ラフタル様が倒されては勇者様達のレベルアップにつながりませんので、薙ぎ払ってもらっては困ります」
「……はいなのじゃ」
ラフタルさんがブラックナイトのリーダーらしいのだが、完全にアリオーシュさんが上司みたいになっている。
ここら辺の力関係はよくわからないが複雑な事情でもあるのだろう。
あまり気にしないでおこう。
「基本的に20~30階層でのモンスター分布はあまり変わらず、種類も多くはありません。 ですが、かなり強い部類のモンスターが生息しています。 油断しているとすぐあの世へ行ってしまうことでしょう。 特に25階層からはアークドラゴンとアークデーモンが出現します。 皆様でも十分対処可能なレベルにありますが落ち着いて対処していきましょう」
淡々と説明していく黒い騎士。
本日の目標は中間地点の第30階層まで。
そして目標地点にはかなり手ごわい魔物が存在しているそうだ。
名をエクスキューショナーという。
戦闘能力では一般的な聖騎士に匹敵するほど。
数では圧倒的有利だとしても身が引き締まる思いだ。
「では皆さん、出発しましょう」
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