第84話 消えたクラスメイト
長年秘めていた恋心を伝えた。
その人の名前は東雲梓。
幼いころから一緒に過ごしてきた彼女は、俺にとってかけがえのない存在になっていた。
異世界に召喚されてからはその思いがどんどんと募り、溢れて行った。
いつ死ぬかわからないこの世界。
加えて明日からはダンジョンへ出向き魔物の巣窟を進んでいく。
だからその前にどうしても伝えたかったのだ。
俺が東雲を愛していると。
少し、驚いた顔をして数刻。
東雲は、瞳を潤ませ小さくうなずいてくれた。
その時は本当にうれしかった。
人生最大の勇気と精神力、自分のすべてをかけた。
今までどれほどこの瞬間を待ち望んだことだろう。
俺は東雲が入れば元居た世界だって、異世界だってどっちでもいい。
そう、彼女さえいてくれればそこが俺の居場所になる。
俺たちの世界を脅かす魔物たち。
そんなやつらは放っておくわけには行かない。
だから、今は全力で強くなる必要がある。
東雲のためにも、クラスメイトのみんなのためにも、そしてなにより俺のためにも。
格子ガラスの窓から陽光が差し込み、目が覚める。
まどろむ意識の中、ゆっくりと上体を起こすとひんやりとした空気が肌に伝わった。
つい顔をしかめてしまいそうになるが、昨日のことを思い出すとつい口角があがってしまっていた。
いけない、あんまり浮ついていると敵に足元をすくわれてしまうかもしれない。
気を付けなければ。
ふと隣のベットを見るといつもと違う光景がそこにあった。
……あれ、おかしいな。
いつもなら如月がそこにいるはずなのに。
俺が起こすまでグースカ、グースカ。
目覚ましもないから、起きないのもわかるけど。
思いついたように何かをやっていることも多かったし、時々いなくなることもあった。、
しかし、今日に限っていないのは気にかかる。
彼に何かあったのだろうか?
なにせ今日は長期間ダンジョンに潜りに行く最初の日。
俺たちのレベルアップのため、強力な武具を手に入れるために必要なことなのだ。
強大な魔物と対峙するために……。
俺たちは強くならなければならない。
だから、協力してこの試練を乗り越えなければ。
如月のことだからなんだかんだ協力してくれると思ってたのにな。
恐らく彼は召喚された僕らの中でダントツに強い。
みんなは気づいていないかもしれないが彼はとても異質だった。
幾千の戦闘経験を重ねてきたであろう体捌き、咄嗟の出来事にも冷静に判断できる思考能力。
そして俺のカンが心に訴えかけてくる。
もしかしたらロイスさんに近しい力を持っているのかもしれない。
そうでなくても今回の遠征で力をつけてくれればロイスさんを凌駕することだってあり得る。
だから、如月には一緒に来て欲しかったんだけど……。
いや、もしかしたら珍しく早起きして準備を始めているのかもしれない。
元居た世界ではあまり話したことはなかったけど、遠足とかの前の日は眠れないタイプの人だと思うんだ。
*
ダンジョンへ行くための準備を整え城の広場に集まる。
人はまばらで、だいぶ早くついたようだった。
聖騎士のロイスさん、ブラックナイトのラフタルさん、アリオーシュさんがいたので挨拶をする。
「おはようございます!」
「おはようございます。 まだ、早いのにごくろうさまです」
アリオーシュさんは物腰が柔らかく挨拶をしてくれる。
続けてロイスさんが不愛想に、ラフタルさんは元気よく続く。
アリオーシュさんは誠実な騎士の鏡のような人だ。
王国一と呼ばれるほどの実力者。
間近で彼の戦闘を見たが凄まじい動きをしていたのを覚えている。
ロイスさんは実力は確かなんだけど、かなり怖い。
クラスのみんなも鬼教官だなんだと愚痴をいっていた。
当たり所が良かったのか悪かったのか心酔してるやつもいたけど……。
ラフタルさんは正直よくわからない。
実力はあるみたいなんだけど、子供のような無邪気さがあるみたいな感じかな?
「む、貴様は如月と同じ部屋のやつだな?」
「はいそうですけど」
「如月はどこにいったんだ?」
どうしてロイスさんが如月のことを聞くのかわからないけど、彼女なりに彼の潜在能力に気付いたのだろうか?
そうでなければわざわざ問いかけてくるような人じゃない。
「俺が朝目覚めたら、もういなかったので張り切ってここに来てるかと思ったんですけど」
「……まさか、もうダンジョンに……? 私を置いて? いやいや私もついて行くと言ったではないか。 放置プレイとかそんなはずは……ぐぐぐ、なんかあり得る気がしてきたぞ」
「あの? ロイスさん?」
「ああ、貴様には関係のないことだ気にするな。 師匠、私は用事を思い出したのでこれで失礼する」
ロイスさんはアリオーシュさんのことを師匠と呼ぶ。
彼女の鍛え上げられた剣技はアリオーシュさんに教わったものらしく、その名残なのだそうだ。
「どこへ行くんですかロイスさん」
「……っ!?」
首根っこを押さえられ、動きが止まる。
「えっと、トイレに」
「トイレなら先ほど行きましたよね?」
「いや、ちがうんですよ、忘れ物を取りに……」
「基本的に私のアイテム袋に必要なものはすべて入れておきました。 食料に水、救急セットに各種ポーション、解毒薬、明かりをともすためのアーティファクト20個、武器や鎧のスペア人数分、野宿用のテント一式、騎士団専用の着替え男女兼用人数分、下着にスペアの靴、ロープに非常用脱出クリスタル。 携帯トイレと簡易シャワーも作ってみました。 その他……1か月はダンジョンで暮らせると思います。 ほかに何か必要でしょうか?」
「うっ……お、お腹が……」
「痛くないですよね?」
「……はい」
「こうなったアリオーシュはとめられないのだ。 諦めるのだロイス」
ラフタルさんがロイスさんを引き留める。
意外な一面をみてしまったのかもしれない。
普段はあんなに怖いのに、そんな人が丸め込まれている。
やっぱり師匠と呼ぶだけに頭が上がらないのかもしれない。
「何があったのかはわかりませんが、如月様となにかあったのですね。 恐らく、聖騎士として戻って来てくれたことにも関係あるのでしょうか?」
「そ、それは……」
「言いたくないのであれば無理して言わなくても良いのです。 ただし、今回は国の、いえ、引いては世界の存続がかかっています。 ですから私たちは皆様が無事に帰れるようサポートせねばなりません。 無論、我々もさらなる高見を目指す必要があります」
「はい……」
「ここにこないということは彼なりの考えがあるのでしょう」
「……いやでもあいつは私をからかっているだけだと……」
「何か言いましたか?」
「ロイス、諦めるのだ」
「はい……」
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