第86話 ラウムのダンジョン第25階層

 ダンジョンの入り口は街中にある。

 人通りの多い路地や公園の中央等、ごく自然に街並みに溶け込んでいる。

 中に入れば危険な魔物がいるというのになんとも不思議な光景だ。

 危険と隣り合わせではあるのだが元々階層の浅い場所には危険な魔物も潜んでおらず、24時間体制で見張りがいるので万が一魔物が出現してもすぐに対処される。

 魔物避けのまじないもあるため、基本的には街中に侵入することはない。

 極まれにまじないが効かない強力な個体が出現することもあるそうだが、センサーによる早期発見と門番による迅速な対応で今まで大事に至ったことはないという。


 適度に騎士達の巡回と冒険者ギルドの冒険者たちが間引きを行っているのも、この街が平和に保たれている理由の一つだそうだ。

 何か異常が発生した場合は、指折りの冒険者により討伐されるし、王国の騎士も駆けつける。

 盤石の布陣がひかれているいるというわけだ。


 過去の書物によるとラウムのダンジョンの最下層は第60階層。

 俺たちは第25階層まで進んでいるので入口に設置している巨大なクリスタルを経由しワープすることができる。

 ちなみにワープできるのは第30階層まで。

 それ以降は特に危険な場所として知られている。

 Sランク級の限られた冒険者や聖騎士、ブラックナイトのレベルでないと生きては帰れないそうだ。


 そもそも第30階層が鬼門なのだそうだ。

 ……それはそうだよな。

 この国の最高戦力とも呼ばれる聖騎士レベルの敵を倒さなければならないんだから。


「行ってらっしゃいませ皆様、ご武運を」


 門番の激励を受けつつ一人、また一人とクリスタルに飲み込まれ目的の階層へとワープする。

 何度も経験したワープだが、未だに不思議な感覚が抜けない。

 カッと光に包まれたかと思うと、ヒンヤリとしたダンジョン内へと降り立った。

 重厚な趣のある遺跡のような、洞窟のようなそんな雰囲気の場所だ。

 

「皆さん揃いましたね。 では進みましょう」

「じゃ、私のスキルで周囲の探知をしておくわ」


 桜田はスマホを取り出し、起動する。

 この世界には電気というものはない。

 いや、ちがうな、電気はあるのだがその代わり魔力を使った技術が発達していると言った方がいいか。

 それを利用したのが彼女の能力だ。


「いつ見てもそれすごいよな」

「まぁーね。 私あんまり危ないことしたくないし」


 桜田はひょうひょうとスマホをいじり出す。

 その姿は現代の女子高生そのものだった。


「オイオイ! 桜田、何遊んでんだよ!? ロイスさんが見てるんだぞ!? もっとまじめに……」

「はぁ? うっさいわね」

「まぁまぁ大西黙って見とけって」

「だってよぉ……急にスマホいじるなんて、遊びにきてるんじゃねぇぞ?」


 当のロイスさんはこちらには目もくれていないのだが。


「ほんと何も考えてない筋肉ダルマね。 これが私の能力よ」


 大西にスマホの画面を見せつけると、自慢げに説明する。


「魔力を電気信号に変換してディスプレイに投影、このデバイスを使って支援や敵の索敵、攻撃もできるってもんなのよ。 まったく……、既にあんたより仕事してるわよ」

「……まじなのか? そんなスキルがあるなんて」

「大西様が驚くのも無理はありませんね。 そもそもそれはスキルではなく技術と言った方が正しいかもしれません。 通常であればスキルでの索敵、遠隔操作による魔法発動はできますがこのように視覚化し他人が見えるような状態にするというものはみたことがありませんでした。 電波? というのでしたか? 」


 アリオーシュさんが解説を挟んでくれた。


「加えて空気中の魔力を吸収することで自身のMPの消費量を極限まで抑えています。 あなた方の世界の技術は末恐ろしいですね」

「そういうことよ、わかった?」

「……わかった、すまなかった」

「……あんた本当に大西なの? 物分かりが良すぎてなんかコワイんだけど」

「俺はな、変わったんだよ。 ロイスさんに殴られた時にな。 俺がやってきたことはただのお山の大将だったんだ。 そして、真の大将はロイスさんだ。 そしてロイスさんの師匠ともいえるアリオーシュさんの言葉は絶対だ」

「そ、そう……。 じゃあさっそくあの曲がり角にメタルスコーピオンがいるからさっさと倒して来てくれる? ってロイスさんが言ってたわ」

「うおおおお!! 俺に任せろ!!」

「単純すぎて恐ろしいんだけど……」

「皆さんも戦闘準備をお願いします。 ダメージを与えないと経験値がはいりませんから」

「……ん」

「は、はいぃ!」


 下地と末永も返事をして大西に続いて行く。

 桜田が宣言した通り、銀色のボディをしたメタルスコーピオンがのっそりと現れる。

 巨大な体躯にがっちりとした鋼の肉体。

 重厚なその肉体は並みの攻撃を簡単に弾かれてしまうことだろう。


「ウィークポイント」


 桜田が一声かけ、補助魔法を発動する。

 青みがかったエフィクトがメタルスコーピオンに発生する。


「スザクいいわよ」

「じゃ、意気込んでるところ悪いけど先手は貰うぜ大西」


 電光石火の早業でメタルスコーピオンの眼前にいち早くたどり着いたのは伊藤スザク。

 闘神と神速のスキルを持つ彼の戦闘力はピカイチ。

 勇者の中で彼ほど近接戦闘に愛された人はいないであろう神のごとき力だ。

 そして桜田の能力により赤い矢印が現れる。

 左足の付け根だ。

 これは物理防御力低下の魔法により脆弱になった部位をマークするもの。

 桜田は遠方から安全に戦闘に参加でき、かつ近接戦闘の情勢を有利に運ぶことができる。

 効率よく敵を倒すのに打ってつけというわけだ。


 懐に潜り込んだスザクは飛び上がりながら拳を天に向かい放つと、金属パイプのようにがっしりとした脚を破壊した。

 そして東雲は桜田のデバイスと連携し、遠方から魔法を発動する。

 ファイアストームと呼ばれる炎の魔法だ。

 魔法陣がメタルスコーピオンの足元に描かれると、勢いよく炎が噴出する。

 グガガガガと悲鳴のような喚き声を上げながら悶絶する魔物。


 援護射撃と言わんばかりに下地は銃撃を浴びせ、その後、末永の一閃が放たれる。

 巨大な毒針がついた尻尾を切り落とし、最後に追いついた大西の燃えるような闘魂が頭蓋を割る。


「末恐ろしい人たちですね……」

「じゃあ俺が止めを」


 魔法スキル(火)の完全なる上位互換“光炎”。

 光を束ね圧縮して作り上げた超高温の刃は如何なるものも切断する剣となる。

 大西の攻撃でひび割れた体躯を文字通り両断すると、メタルスコーピオンは完全に沈黙した。


「予想以上です。 これならば30階層までは楽できそうですね」

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