第82話 ミノタウルス

「だああああ! いきなり何考えてるんだよお前!」

「何ってミノタウルスと戦ってレベルを上げようと考えているんだけど?」

「き、如月さんいくらなんでも無理じゃないですか!?」


 逃げ惑うロイドが大きな戦斧を持つ半身半獣の魔物に追いかけられている。

 横にはアワアワと震えているフェリシアが。

 俺たちはロイドを引き取ったあとラウムのダンジョンへ行くことになった。

 もちろんレベル上げをするためだ。

 下層すぎると経験値の入りが悪いらしいので、そこそこ強そうなところを選んだ。

 ラウムのダンジョン第10階層。

 ミノタウルスがいる場所だ。

 迫力満点だし、駆け出しの冒険者がくるようなところではないらしい。

 だから二人の反応はもっともなんだよな。

 ちなみにロイスは城の用事があるらしいのでいなくなった。


「安心しろ、お前たちには防御の魔法かけてるから当たってもノーダメージになるはずだー」

「なるはずっ・……ってならなかったらどうすんだよ!」

「まぁ大丈夫大丈夫」

「ちっ!」


 ロイドが舌打ちをし、迫りくる巨体に立ち向かう。

 筋骨隆々な大迫力の魔物。

 ダンジョンに潜ってまもない人なら萎縮してしまってもしかたがない。

 そんなオーラを漂わせるミノタウルス。

 襲い掛かるミノタウルスが近づくにつれ、彼の顔色が悪くなる。


「だああああ! あんなのに当たったら即死じゃすまねぇぞ!」


 脱兎のごとく逃げ出すロイド。

 生意気なことを言うやつだったから根性はあると思ってたんだけどな。

 まぁやっぱり怖いもんは怖いよな。

 今からでも難易度さげてもいいかもしれない。


「如月さん……ほんとに当たっても大丈夫なんですか?」

「ああ、危なくなったら助けてやる。 でもやっぱり怖いなら別のとこにいこうか」

「……いいえ。 如月さんが言ったことなら間違いありません!」


 ガチャりと義足のアーティファクトから音が鳴る。

 以外にもフェリシアのほうがやる気を出してくれているようだ。

 ちなみに二人のステータスはだいたいこのくらい。


 フェリシア

  ■クラス

   ・モンク

  ■ステータス

   ・レベル:2

   ・体力 :20

   ・MP  :33

   ・攻撃 :13

   ・防御 :17

   ・素早さ:21

   ・魔力 :34

  ■スキル

   ・なし


 ロイド

  ■クラス

   ・ファイター

  ■ステータス

   ・レベル:2

   ・体力 :36

   ・MP  :17

   ・攻撃 :35

   ・防御 :21

   ・素早さ:25

   ・魔力 :29

  ■スキル

   ・なし


 冒険者登録した際にステータスの測定もしてもらったのだ。

 王城で測定した場合は称号という項目があったが、ギルドの場合はクラスに変更されている。

 どうやら測定するアーティファクトにより違いがあるみたいだ。


 ちなみにファイターは剣で戦う近接クラス。

 モンクは格闘術を用いて戦う近接クラスのようだ。

 このクラス設定は冒険者としては重要な部分になるらしく、レベルアップごとにステータスの伸びにボーナスがかかるらしい。


 例えばファイターだと体力と攻撃に+1ボーナスがかかるとか、ウィーザードだと魔力とMPが+1されるとか。

 そういえば俺はファイターにしてたな。

 あれ?

 ウィザードに設定してた方が良かったんじゃないか?

 あとで変えておいた方がよさそうだ。


 それはそうとこの二人のステータスでは恐らくミノタウルスを倒すことができない。

 本来であれば中堅クラスの冒険者がPTを組んで倒すべき敵だからだ。

 しかし、それを可能としているのが二人の持っている武器だ。


 ミスリルよりも固い巨大ウミヘビの金属。

 それを加工して使って作った超兵器。

 ロイドには剣を、フェリシアには自慢の義足を持たせているのだ。


「な! お前危ないぞ!」


 勢いよく飛び出したフェリシア。

 それを止めるように声を出すロイド。

 彼女の動きには迷いがない。

 注意を促しても止まらない。

 そして大振りの戦斧を紙一重のところで躱す。

 いや少しかすったか?

 だがそのかすった部分も俺の魔法で傷一つつかない。


 ミノタウルスは大柄で攻撃力も相当高い。

 だが、スピードは遅いという欠点がある。


「やあああ!」


 フェリシアの声がダンジョン内に響き、強烈な蹴撃を叩きこむ。

 ミノタウルスの腹にクリティカルヒットし、体がぐにゃりと曲がり勢いよく飛んで行った。

 激しい衝突音とともに壁に激突し、岩石が崩壊する。

 雄たけびを上げる間もなく崩れ落ちた巨大な魔物。

 フェリシアはそれを見て唖然としていた。


「え?」

「……え?」


 ロイドも呆けた声をだす。

 簡単なことだ、装備品により攻撃力が爆上げされているのだ。

 あの武器なら下手な敵なら一撃で倒せてしまうだろう。


「えええええー! なんですかコレ!」

「お、お前そんなに強かったのか?」


 フェリシアに驚きを隠せないロイドは思わず話しかける。


「い、いえ違いますよ!」

「いや、でも今のは……?」


 彼らのステータスでも倒すことのできる攻撃力と、ダメージを受けない防御力。

 この二つがあれば倒すのはたやすい。


「まぁ見ての通りだ。 ロイド、お前の剣でもたぶん簡単に倒せるぞ」

「まじなのか……?」


 グモオオオ! とミノタウルスの雄叫びが聞こえる。

 どうやら倒すまでには至っていなかったようだ。


「さすがに1発では仕留められなかったか」

「くそっ! 俺もやってやる!」


 身構えるロイド。

 激高したミノタウルスは赤く体色を変える。

 この変化を起こすと各種ステータスが増加し、危険な状態になる。

 ただし、攻撃方法が単純になるため熟練者なら格好の餌食といったところだろう。


 突進してきたミノタウルスは、戦斧をロイド目掛けて振り下ろす。

 ガシャンと地面に突き刺さり、大きなひび割れが発生した。

 ただし、これぐらいのスピードなら素人でも躱せるだろう。

 ロイドはギリギリで攻撃を回避することに成功した。

 次いで真一文字に剣を薙ぐ。

 豆腐を切るようにスパッと流れる剣筋は致命傷を与えるに十分な威力を誇っていた。

 胴体が真っ二つになり崩れ落ちるミノタウルス。

 鮮血が噴出する姿は少しグロテスクだった。


「な、なんだこの剣は……?」

「な? 大丈夫だっていっただろ?」

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