第81話 少年ロイド
人々が行きかう、商店街。
魔物が攻めてくる様子も、不安も全く感じない。
そんな賑やかな路地だった。
こんな平和な光景が維持されているのも、この国の防衛力、つまりは王国の騎士たちが守ってくれているという安心感からくるものだろう。
「よし、こんなもんかな」
奴隷の少年ロイドを引き取り、俺たちは服屋の前で一息つく。
意外と買い物と言うのは時間や体力を使うもの。
何をしていたのかと言うと、もちろん彼の服や靴を買っていたのだ。
ファッションセンスはあまりないので、店の人に選んでもらったが、なかなかいい感じに仕上がっている。
やはりこういうことはプロに任せるのが一番だな。
そのおかげか目の前には、いっぱしの冒険者然り、といった少年が出来上がる。
麻で出来たボロボロの服で街を歩くのは気分的によくないから、とりあえずこんなもんだろう。
そんな新しい服に身を包んだロイドは俺を睨みつけてくる。
「……お前は何が目的なんだ?」
「色々目的はあるんだが、その前に名前を教えておかないとな。俺は如月潤だよろしくな」
まだ、信用されていないのだろうな。
奴隷を買うような人間なんて、いいイメージはないしこんなものだろう。
今は仕方がない。
彼は数刻、黙り込んだのち口を開く。
「……ロイドだ」
「私はロイス! 偶然にも名前が似ているな! 困ったことがあったら何でも私に頼るといい!」
「わ、私はフェリシア……です」
元気なロイスと少し緊張気味のフィリシアが続いて自己紹介をしてくれた。
この二人とも仲良くなってもらいたいところだが、その前に一つ確認したいことがある。
「ロイドお前は奴隷が嫌か?」
「……そんなもの嫌に決まっているだろ。 奴隷に自由なんかない、命令されたことを死ぬまで遂行するのが役割だからな」
「まぁそうなるよな」
「だから、どうしたっていうんだよ」
ロイスのアイテム袋から羊皮紙を取り出す。
これはロイドを奴隷として縛り付けているスクロールだ。
「それは!?」
「これが無くなればロイドは奴隷じゃなくなる」
このスクロールには奴隷の魔法が施されている。
奴隷の対象者とのリンクを形成し、強固な契約を結ぶものだ。
つまり、これが無くなりさえすれば彼は奴隷という存在から解放される。
ただし、破棄方法には十分注意しなければならない。
この紙自体が彼の命のようなものなのだ。
取り扱い方はさっきロイスに教わった。
こんな忌々しいものはこの世からさっさと消えるべきなのだ。
ふわっとその紙を浮かし、炎の魔法で燃やし尽くす。
「なっ!? おまえ……!?」
「これでロイドは奴隷じゃなくなった」
「いいのか? そんなことをして?」
このスクロールは主人が燃やすことで契約を抹消することができる。
この主人が燃やす、というところがキモで、他人が燃やしてしまうと効力を発揮しない。
もしそうなった場合には奴隷は数日後に死に至る。
なんとも忌々しいものなのだろうな。
ちなみに燃やさずに破り捨てた場合も奴隷は死に至る。
つまりこの契約を解除するには、スクロールの所有者が燃やすしか手がないわけだ。
「俺は別に奴隷が欲しいわけじゃないからな」
「じゃあなんなんだよ、悪いが奴隷じゃなくなったのなら好きにさせてもらう」
「……お前が望むならそれでもいいと思ってる。 だけど、そんな君だからこそ聞いてもらいたいんだ」
「……」
ロイドが口を閉ざす。
もう彼は俺の奴隷ではない。
だから逃げ出そうと思えばいつでも逃げることができる。
もしそうなった場合、彼を引き留めるつもりはないし、自由に生きて行って欲しいとさえ思う。
しかし、彼は逃げ出さなかった。
少なくとも俺の話を聞いてくれる姿勢は見せてくれた。
「俺の目的は奴隷を無くすことだ」
「奴隷を無くす? そんなのは不可能だ。 この世界にどんだけの奴隷がいると思ってるんだ?」
「わかっているつもりなんだけどな。 でも、助けれるなら助けたいと思わないか?」
「無理だ」
「俺はそう思っていない。 現にロイド、お前は助かったんだからな」
「……俺一人を奴隷から解放したところでなにも変わらない」
「最初から無理だって考えてたらそれこそなにも変わらないんじゃないか? 今できることをやる、そこからすべて始まっていくんだ。 諦めていたら出来るものも何もできなくなる」
「ロイドさん! 私も如月さんに助けてもらいました、きっとみんなで力を合わせればなんとかなりますよ!」
「……」
再び口を閉ざすロイド。
やはり思った通りだ。
彼は奴隷というものを好ましく思っていない。
いや、正確にはちがうだろうか。
奴隷の誰もが好き好んで奴隷になっているわけじゃない。
「だから手伝ってほしいんだ。 奴隷として命令されるのではなく君の意志で決めて欲しい」
「……行く当てもないしな。 ひとまず様子見でいいのなら」
「ありがとう」
「勘違いしないで欲しいが、俺にもやりたいことはいくらだってある。 ダメだと思ったらすぐに見限らせてもらう」
「それでいい。 強制させるために君を選んだわけじゃない」
ひとまず掴みはこんなところだろうか。
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