第80話 奴隷の少年

 まとまったお金が手に入った。

 財布がホクホクと温かい気がする。

 残念ながら鑑定をお願いした金属がなんなのかはわからなかったんだけどな。

 ただそれも時間の問題かもしれない。

 金属を渡したロッテという人は有名な鍛冶職人だそうで、数日かけていろんな実験をしたいと言っていた。

 熱に強いのか? 冷気に強いのか、エーテルの伝導率はどうなのか? 切れ味は? 加工法は? 展性は? 延性は? 調べることは山ほどあるそうだ。

 ロッテの顔は子供がおもちゃを見つけた時のように輝いていた。

 これが職人の性というものなのだろうか……。


 個人的にはただ固い金属というだけでじゅうぶんではあるのだけど、面白い性能があるのならば知っておきたい。

 そうすることでフェリシアの義足を改造したりすることもできるかもしれない。

 そのうちジェット噴射とかの機能を付けて空を飛べるようにすることができる日が来たり来なかったり。

 もしミスリルのようにエーテルを通すと羽のように軽くなるとか、そういう不思議な機能がわかれば棚から牡丹餅というものだ。


 横を歩くフェリシアは屈託のない笑みで俺を見上げてくる。

 彼女は俺が今どんなことを考えているかは知るよしもないだろう。

 案外そう言うのが好きだったり、……しないか。

 いや、あくまで身を守るための防衛手段なわけだからそういう機能はつけたほうがいいと思うんだ。

 そう、彼女のためだ。

 決してかっこいいからとかではないのだから。


 さて、お金を手に入れたからには行く場所は決まっている。

 奴隷の店だ。

 フェリシアには精神的にきついところかもしれないが、ついて行きたいと言ったので一緒に連れて行くことにした。


 店の中に入るとやはり重い空気に包まれる。

 人生に絶望したそんな人たちが牢屋に閉じ込められ俯いている。

 麻でできたボロボロの布切れを身にまとい、こちらをチラッと一瞥する。


 今、店の中にいる奴隷は数えて10人といったところか。

 前回来たときにオススメと言っていたウンディーネが金貨5000枚。

 エルフは3000枚、人間が800枚。

 いずれも超高額な値段になっている。

 ロッテからもらった金貨は結局5000枚だったので、全員は引き取ることができない。


 元々全員を引き取っても面倒は見切れないので、1人だけ引き取る予定だった。

 品定めをするようで申し訳ない気持ちになるが許して欲しい。 


「いらっしゃいお客さん……と思ったら前に来たやつか? 金はあるんだろうな?」


 店の奥から中年のおじさんが現れる。

 身なりは特に悪くも良くもない。

 どうやらあちらは俺のことを覚えていたようで、少し高圧的な態度をとる。

 前回はお金がなかったから仕方ないが、客に向かってそのものいいはいかがなものだろうか。

 怖がるフェリシアは俺の背後に隠れた。

 元々フェリシアをひどい目に合わせて来た人の一人なわけだからな。

 隠れたくなる気持ちもわかるというものだ。


「ちゃんと金はもってきた」


 ロイスがアイテム袋からジャラっとお金を取り出す。

 すると店主の態度が少しだが軟化する。


「金があるなら特に文句はねぇ、それよりこんなところに聖騎士サマがくるとはな」

「私も来たくて来たわけではない」

「俺にとっちゃ金を払ってくれれば、王様だって大臣だってお客さんだ。 で、どんな奴隷が欲しいんだ?」


 今のところ考えていたのは人間の男性だ。

 ダンジョンで冒険者として戦っていくのだから、それに見合った人材が必要になる。

 女性だと戦うのが嫌い、怖いとか、そういった感情を抱く可能性も高い。

 人間だと自分と同じ存在だし、気兼ねなく相談やらなにやらできる。

 そういう意味でも人間の男性が一番だと思ったのだ。

 ふと、一人の少年と目が合う。

 歳は自分よりも少し下といったところかな。

 ……人生に絶望しつつも、その瞳には密かな闘争心が宿っているようにも見える。


「あの子と話していいか?」

「あぁ、好きにしろ」


 鉄格子に閉ざされ、冷たい床座り込む少年。

 さぞ居心地が悪いことだろう。

 それでも俺を真っすぐに見てくる青い瞳。

 銀髪の髪はボサボサとしているが、洗えば綺麗になりそうな感じがする。

 話しかけようとしたが、あちらから声をかけられた。


「にいちゃんは前に来てた人だな? そんなに奴隷が欲しいのか?」

「……別に奴隷が欲しいわけじゃない」

「じゃあなんでここに来てるんだよ? ここに来るやつは俺たちを虐げる悪いやつばかりだ。 お前も他のやつらと一緒だろ」

「ロイド! お前またお客さんに向かってそんな口を!」

「ぐっ……」


 ロイドと言われた少年は胸を押さえうずくまる。

 奴隷紋の力によるものか。

 なんて卑劣な力なんだろうか。


「そんなんだからお前は売れないんだよ!」


 店主が怒鳴りつけ、少年はギリリと歯を食いしばる。


「ちっ、おとなしくしてたら売れたかもしれないものを……」

「いや、この子にします」

「買ってくれるならこっちもありがてぇ。 そいつ客に生意気なことばっかりいいやがるからな」

「いくらだ?」

「普通なら金貨800枚だが、そいつは売れ残りだからな500枚ってとこにしといてやるよ。 そいつがいなくなるとこっちも助かるからな」

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