第79話 一体これはなんなのだ
鑑定には少し時間がかかるようなので食事を取ることにした。
そう言えば朝ごはんも食べていなかった。
昼ごはんにもまだ早いのでこれがいわゆるブランチというものだろう。
ギルドの食事処には汗臭い冒険者の姿もあるがそれは仕方ない。
もちろん頼んだのは前回も頼んで食べた骨付き肉だ。
ジャイアントクックの骨付き肉。
1回食べてからまた食べたいと思っていたのだ。
「ほぉこういうのはあまり食べないのだが、なかなかおいしいものだな」
「こんなにおいしいものを食べたのは何年ぶりでしょうか……」
「だよな! 前に食べてからはまっちゃってな、時間があれば頼もうと思ってたんだよ」
勢いよく頬張るフェリシアが食べ物を喉に詰まらせる。
あわてて、背中を叩き、ケホッケホッと咳が出た。
彼女は少し下を向き、顔が真っ赤に紅潮する。
「そんなに急がなくても鶏肉はモゴモゴ……逃げたりモゴモゴ……しないぞモゴモゴ……」
「あははは……こんな食事をいただける日が来るとは思っていなかったので焦っちゃいました」
「フェリシアが焦りたくなるモゴモゴ……気持ちがモゴモゴ……わからんでもモゴモゴ……」
「飲み込んでからしゃべれよ!」
「いやモゴモゴ……しかしだなモゴモゴ……これはなんというかモゴモゴ……ゴフッ!」
付け合わせで頼んだジャガイモを蒸かしたような謎の白いホクホク。
たぶん急いで食べるとこれが喉につっかえるのだ。
顔が真っ青になるロイスの背中をバンと叩く。
詰まった気道が開通し、肺に新鮮な空気が戻ってくる。
「し、死ぬかと思った」
「そのまま死ねばよかったのに……」
「なんか私の扱いがひどくないか!?」
「いやまぁなんかこんなんでいいのかなってロイスは」
「ううぅ……でも不思議と心地よい気がしてきたぞ……」
「うわぁ……」
ロイスの発言に一歩後ずさる俺とフェリシア。
そんな会話を続けていると背後から俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
「貴様か! この金属を持ってきた冒険者っていうのは!」
振り返ると、一回り背の小さい女の子がいた。
異世界風の作業服といったらいいだろうか。
そんな服を着ていた。
オレンジ色の髪は邪魔にならないように2つに結んである。
いわゆるツインテールと呼ばれるもの。
見た感じはかわいらしい少女という表現が合っていると思う。
「えっ……と、確かにそれは俺たちが持ってきたやつだな」
「一体何なのだこの金属は!?」
この子はなんなのだろう。
子供?
いやでも俺たちが持ってきた金属持ってる。
「この子はドワーフだ」
「ドワーフ?」
「見た目は子供に見えるが大人になってもあまり姿がかわらんのだ。 見分けるポイントは耳にフカフカした毛があるところだな」
「あほんとに毛が生えている」
とても手触りがよさそうだった。
触ってみると気持ちよさそう。
モフモフしたい。
「あれをモフモフするととても気持ちが良いのだ」
「確かに俺も同じことを思っていた」
「うっ……なんか気持ち悪いやつらだな……」
ドワーフと思しき少女が若干引き気味である。
ロイスの話が本当だとしたら、俺よりも年上の可能性があるということか。
不思議な世界だ。
ロリコンの人はドワーフのことが好きそうだなと思った。
俺は違うけど。
「そんな話はどうでもいい! この金属どこからもってきたのだ!?」
「どこって、ダンジョンからもってきたぞ。 なぁロイス?」
「そうだな間違ってないぞ」
「ダンジョンで取れただと? いや、しかし私が見たことない金属……」
「というか俺たちもそれがなんなのか知らないぞ? 売れるかどうか知りたかったのと、売れたらさっさと売りたいってだけだ」
ドワーフの少女は少し考えた素振りを見せる。
とりあえず今はお金が欲しいのでそこそこの値段で売れれば問題ない。
「ロッテさん急にどうしたんですか!?」
慌てて追いかけてきたベンタナがドワーフの少女に問いかける。
あの子の名前はロッテっていうのか。
「ベンタナか、私もこの金属がなんなのかわからなくてな。 持ってきた人に直接確認したかったのだ」
「ロッテさんがわからないって本当ですか?」
「こちらの銀色の金属は加工できるかすらわからない。 試しにミスリルで切りつけても傷一つつかなかった。 こちらの金色の金属はミスリルを使えば加工できないことはないが、既存の金属に同じようなものはない」
「それって大発見じゃないんですか?」
「大発見どころの騒ぎではない。 魔力を通したミスリルはオリハルコンですら傷をつけるくらいの鋭さになる。 だが、この銀色の金属はそれよりも固い。 今までの歴史がひっくり返るくらいの代物だぞ」
恐ろしい会話が聞こえた。
オリハルコンって確か、国宝級のものだって言ってたよな。
それよりも価値が高い金属ってことか?
「とてもではないが私の手に負えるようなものではない」
「ロッテさんがわからないってことは誰もわからないんじゃないですか?」
「そうなるだろうな」
「話に割ってすまないが、ロッテさん? がさっき言ってた鑑定師の人なのか?」
ベンタナに状況を確認する。
国宝級でもなんでもいいからお金が欲しい。
いやむしろ国宝級以上であるならば、がっぽりお金が儲かるのではないだろうか?
「ええ、その通りです。 ロッテさんはラウムでも有数の鍛冶職人なんですよ。 そんな彼女が加工できない物なんて聞いたことないです。 もしかしたら誰も扱えないんじゃ……?」
あれ……?
不穏な空気が流れる。
固すぎて使えない?
そんな風にも聞こえた。
不安になりながらもロッテと呼ばれた少女に問いかける。
「あの、これって売れるんですか?」
「売れるも何も私が喉から手が出るほど欲しい」
ああ、よかった売れないわけじゃない。
そうだよな鍛冶職人とかになると珍しい金属とかには目がないはず。
そんなところにとんでも金属を持ってこられたら欲しくならないわけがない。
「だが……」
「だが……?」
「こういう伝説級の金属はお金になど変えられないのだ……。 私にいくらお金があっても買えるようなものではない」
「いっぱいあるしそこそこの値段で譲りますよ!」
「いっぱいあるだと!?」
再びロッテと呼ばれた少女は何かを考えるように俯く。
別に俺たちは国家予算なみのお金が欲しいわけじゃない。
そこそこでいいんだよ、そこそこで。
しばらく悩んだ後、ロッテが出した答えはこうだった。
「ベンタナ……私が個人的にこの男から買う、ということでもいいか?」
「もちろん構いませんよ! そもそも国家レベルのものだとギルドで扱うには少し厳しいんです。 適正価格で取引しないと怒られちゃうんですよ」
「いやでも俺たち拾っただけだからな……本当にそこそこ貰えればいいですよ」
「まぁ実際のところ如月くらいしか取りに行けないと思うぞ。 私の攻撃が効かないモンスターなのだから、倒す方法がわからん」
「聖騎士のロイスさんが倒せない敵って一体どんなところに行ってきたんですか……」
「色々あってな、俺ももう行きたくない」
あんな危険な場所二度と行くものか。
魔法が使えるならまだしも、ありとあらゆる方法で完全に殺しにかかってきている。
幸いにも無事戻ってくることができたが、次はどうなるかわからない。
「私に出せるのは金貨10万枚くらいだな、これで足りないならもう少し待って欲しい」
「金貨10万枚ってどのくらいだ?」
「下手な屋敷だと即決できるような金額だな」
「つまり、えーと……」
確か金貨1枚で1万円だ。
それが10万枚。
んーと、1億円が1万枚か?
え?
じゃあ10億円!?
「10億円!?」
「なんだどうしたのだ? 10億円とはなんだ?」
「ああ、ごめん前の世界の単位だった。 金貨10万枚って凄すぎるだろ!?」
こんな大金のことを急に言われてどうしてロイスは平静としているんだ。
10億だぞ? 10億!?
もうなんでもできてしまうような気がする。
一生遊んで暮らせてしまう。
そんな大金だ。
本当に貰ってしまっていいのか?
ポンっと10億をだしてしまうこの少女も半端ないんだけど!?
フェリシアなんかアワワワワと放心状態に陥っている。
「良かったではないか? 金貨10万枚もあればだいぶ計画もすすめられる」
「いやそうだけど、10万枚だぞ!? どうしてそんな平気なんだよ!?」
「たかが10万だぞ?」
これが貴族の金銭感覚というものか……。
やっぱりロイスの家から少しもらえたんじゃないだろうか。
「どうだ? やはり10万じゃきびしいのだろうか?」
「いや貰いすぎですよ!? 1万枚くらいでどうですか?」
「いやいやいや、こんなすごい素材を扱えるのは一生にあるかないかだ。 このぐらい出しても悔いはない。 お金なんぞいくらでも稼げるからな」
「いやいやいや……!」
「いやいやいやいや……!」
ビンボー症が祟り、巨大な金額にビビってしまった。
しばらく、この掛け合いが続き、無事資金を得ることができた。
ただ、交渉に30分かかったのは内緒の話である。
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