第三章 クラン結成編
第74話 夜空の下で
自分の力に気付いたのはいつだっただろう。
幼稚園で平和に過ごしていたあの時だろうか。
小学校で何気なく友達と遊んでいた時だろうか。
それとも中学生の頃?
どれもちがうかもしれないし、どれも正解なのかもしれない。
なんとなくで生きてきた自分にとってはどうでも良いことだったし、気にしてこなかったという方が正解だろう。
例えば俺のクラスの伊藤スザクは部活で野球をやっている。
右利きで左打ち。
ピッチャーで4番で、走攻守すべてに優れた非の打ち所の無いエースだ。
だが、俺は彼の剛速球を打ち返すことが出来た。
それはなぜか?
簡単だ。
投球フォームから繰り出される力、歯車のように伝達するエネルギー、放たれたボールの回転力、空気抵抗、それらを考慮することでなんとなく軌道がわかる。
そこにバットを当てればいいだけだ。
俺の持つ筋力とバットを振る遠心力。
あまり力はなかったとしてもボールとバットの芯が交差すれば勝手にボールが飛んで行く。
だからこれはたいして難しいことではなく感覚でできるようなものだろうと思っていた。
だが周りから見る目は一変した。
何の経験もない普通の高校生だった俺が伊藤の球を打ったのだ、と瞬く間にうわさが広がったのである。
俺は不思議でたまらなかった。
いたって普通に体育の授業をしていただけなのだから。
見ればわかることだろう?
なんとなくわかることだろう?
それからほどなくして色々な人に声を掛けられるようになった。
部活のスケットにきてくれないかとか、勉強を教えてくれとか。
次々とくる話にもこたえて行ったらいつのまにかクラスの中心人物のようになっていた。
なんとなくこうすればいいのだろうなとか、こうすればこうなるだろう?
それだけだったんだ。
次第にスポーツ万能とか成績優秀というレッテルを張られて生きていくことになった。
悪い気はしない。
こういうことがスポーツ万能ということなのか、これが成績優秀ということなのか。
そんな軽い考えでいたのだ。
今思い返せば不思議なことはいっぱいあったな。
なぜかジャンケンでは負けたことがなかったし、ありとあらゆることが自分の思った通りに事が進んでいったのだ。
異世界に来てからはそれが特に顕著になった。
相手の攻撃がなんとなくわかる。
遥かに敵わない敵だろうとなぜか死なないことがわかる。
こいつは信用できないやつだ。
そんなことが俺にはなぜかわかるようになっていた。
如月が力を隠していることもわかっていた。
たぶん異世界召喚された誰よりも頼りになるはずだ。
だから彼には念を押してクラスのみんなを守るよう頼んでおいた。
まるで、自分は真実がわかっているようなそんな……。
今思うとこの力は俺にとってかけがえのないものになっていた。
中学では独りぼっちだった自分を変えてくれた。
たくさんの仲間ができた。
今度は僕が彼らを助ける番だ。
そしてかけがえのない人を守るのだ。
燦然と輝く夜空。
星々の光に照らされて一人の少女が浮かび上がる。
あらゆる真実を見ることが出来るのに、未来を視ることが出来るのにどうしてなのだろう。
そんな自分にもわからないことがあった。
「こんな時間にどうしたの? 飛騨君?」
長い黒髪が柔らかい風に吹かれてなびく。
まだ、目立たない頃にも気さくに話しかけてくれた彼女。
誰にでも優しい彼女。
……だが、彼女のことがわからない。
なんでもわかるのに、これだけはどうしてもわからなかった。
彼女は俺のことをどう思っているのだろうか?
もしここで俺が告白したらどうなるのだろうか?
「東雲……俺は……」
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